著者
志田 未来
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.303-323, 2015-05-29 (Released:2016-07-19)
参考文献数
23
被引用文献数
1 2

本稿の目的は,子どもの視点からひとり親家庭研究に新たな理論的視角を提示することにある。これまでのひとり親家庭に関する研究は,彼らの生活を経済的な不利に収束しがちであったこと,子どもを主体として捉えることがなされてこなかったことなどの課題を残していた。そこで本稿はひとり親家庭の子どもに対する聞き取りから得られたデータを基に,ひとり親家庭という構造の中で子どもが主体としてどのように生き抜こうとしているのかについて検討した。 調査より明らかにされたのは以下の二点である。第一に,彼らは自己の家庭経験にアンビバレントな感情を持ちながらも自己の家庭経験を肯定的に理解しようとしている。第二に,同居親との関わりには多様性があったが,同居親以外のつながりを豊富に持ち,それを活かしながらうまく生き抜こうとしている。 このことから二つの次元における承認の重要性が導き出された。第一に,ひとり親の子どもたちにとって,自己の複雑な家庭経験を正当なものとして理解するために自己・他者からの承認を要している。そしてその役割を果たしているのが,同じひとり親の子どもであった。第二に,ひとり親家庭であることに対して周囲から承認を得ることによって,彼らは家庭外の豊富なつながりを持つ基盤を獲得している。 以上より,本稿は従来から指摘されてきた経済的な再配分に加え,承認の観点が必要であることを提示した。
著者
志田 未来
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.96, pp.303-323, 2015
被引用文献数
2

本稿の目的は,子どもの視点からひとり親家庭研究に新たな理論的視角を提示することにある。これまでのひとり親家庭に関する研究は,彼らの生活を経済的な不利に収束しがちであったこと,子どもを主体として捉えることがなされてこなかったことなどの課題を残していた。そこで本稿はひとり親家庭の子どもに対する聞き取りから得られたデータを基に,ひとり親家庭という構造の中で子どもが主体としてどのように生き抜こうとしているのかについて検討した。<BR> 調査より明らかにされたのは以下の二点である。第一に,彼らは自己の家庭経験にアンビバレントな感情を持ちながらも自己の家庭経験を肯定的に理解しようとしている。第二に,同居親との関わりには多様性があったが,同居親以外のつながりを豊富に持ち,それを活かしながらうまく生き抜こうとしている。<BR> このことから二つの次元における承認の重要性が導き出された。第一に,ひとり親の子どもたちにとって,自己の複雑な家庭経験を正当なものとして理解するために自己・他者からの承認を要している。そしてその役割を果たしているのが,同じひとり親の子どもであった。第二に,ひとり親家庭であることに対して周囲から承認を得ることによって,彼らは家庭外の豊富なつながりを持つ基盤を獲得している。<BR> 以上より,本稿は従来から指摘されてきた経済的な再配分に加え,承認の観点が必要であることを提示した。
著者
志田 未来
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.5-26, 2020-11-30 (Released:2022-06-20)
参考文献数
20

本論の目的は,これまで逸脱集団として扱われてきた生徒の相互作用を詳細に描くことにより,逸脱研究に対して新たな視角を提示することにある。既存の逸脱研究は,生徒の相互作用を下位集団に限定してきた,生徒を下位文化に染まる受動的な存在だと仮定してきた,という2つの課題が残されていた。そこで本研究ではFurlong(1976)のインタラクション・セット概念を用いて彼らの学校経験について分析を行った。分析より以下が明らかになった。①ある生徒の行動によって,それまで逸脱することはなかった生徒たちの「適切なふるまい」が作り変えられたことが逸脱の契機となっていた。②彼らはインタラクション・セットへの参加者に応じて逸脱の強度を変え,その意味も変化していた。関係性のない教師には「消極的逸脱」を,関係性のある教師には「積極的逸脱」を行っており,後者は「コミュニケーション系逸脱」とも呼べる,教員との関係性構築のための代替手段の機能を有していた。③受験制度はインタラクション・セットに大きな影響を与える外圧であった。3年生になると,最小限の努力で入試を成功させるということが「状況の定義」を行う際の新たな判断基準に採用されていた。 以上より,彼らの相互作用の場は集団ではなく常に構築されるインタラクション・セットとして捉える必要があること,そして逸脱に対して彼らが持つ価値規範をも累積される相互作用の過程で常に創造し直されていることが明らかになった。
著者
志田 未来
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

近年、日本においてひとり親家庭の割合は年々増加しており、ひとり親家庭で育つ子どもたちは低学力・低学歴に陥っていることが様々な研究によって指摘されている。本研究はそのようなひとり親家庭の子どもたちが、どのような経路をたどってそういった困難に直面しているのか、また、その困難を乗り越えられるとしたら何が影響を与えているのかということを明らかにすることを試みる。2011年から2012年にかけて行ったひとり親家庭の子どもに対するインタビューをまとめ、学会誌『教育社会学研究』へ投稿,掲載された。また、2011年より行っている公立中学校でのフィールドワークを継続し、ひとり親家庭で育った子どもが、どのような学校経験を経ているのかを現在も調査中である。また,国内での調査と並行して海外における調査も実施した。2013年度,2014年度と同様にアメリカ・カリフォルニア州の公立高校における調査を、約6週間に渡って行った。同校はひとり親家庭を筆頭に、不安定な家族で暮らす子どもたちが多く通っており、エスニック的にもブラック、ラティノなどのマイノリティが多く在籍している。このような不安定な家庭が多い校区にある調査対象校は、社会的困難を「克服」している学校であることで注目されている。そのため、フィールドワークによって、不安定な家族で暮らしている子どもたちに対して、学校はどのような支援が可能なのか、ということを調査した。同校での調査が3年目であったこと、6週間の長期調査であったことも影響して、質・量ともに昨年度よりも望ましいデータを取得することができるとともに,経年的なデータを入手できた。アメリカにおけるフィールドワークより入手したデータは,教育社会学会大会にて発表するとともに,複数の学会誌への投稿を試みている。