著者
大谷 正幸
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.95, no.1, pp.101-126, 2021 (Released:2021-09-30)

浅間社は富士信仰を行うための施設であるが、富士信仰の多様さに合わせてその形態や実際に祀る神はさまざまである。本論ではその諸相を提示し、最終的に、富士山―一次的に富士信仰を受容する大都市文化圏―二次的に受容して独自にローカルな信仰様式・習俗を創り出す文化圏近郊や富士山との中間地帯、という構造が富士山を挟んで東西にあるとする富士信仰の伝播と受容に関するモデルを考えたい。浅間社の諸相として、中世の城郭に浅間社が祀られた事例、富士信仰に因んだ可能性がある地名を中部地方各県から検索し、その中から「フジヅカ」に関する事例、「フジ」という名を持っていても富士信仰かわからない社の事例を挙げる。特に「フジヅカ」については研究史上その定義をめぐって議論があり、議論の有効性に対して疑問を持つ立場から考えてみたいと思う。
著者
浜本 哲郎 大谷 正史 松本 栄二 堀 立明 鶴原 一郎 八島 一夫 磯本 一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.114, no.12, pp.2134-2141, 2017-12-05 (Released:2017-12-05)
参考文献数
30

症例は42歳,男性.禁煙後に血便が出現し潰瘍性大腸炎と診断された.5-ASA,プレドニゾロンの投与で寛解導入したが減量にともなって再燃し,強力静注療法,白血球除去療法,抗TNF-α製剤,タクロリムスなどで加療したが,寛解導入できなかった.ところが,喫煙の再開で血便は消失し,内視鏡的にも粘膜治癒を確認した.禁煙後に発症し,喫煙の再開で寛解に至ったことから,ニコチンや一酸化炭素を介した抗炎症作用が考えられた.
著者
大谷 正幸
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.929-952, 2009-12-30

食行身禄(一六七一-一七三三)は富士信仰の行者である。彼は後に江戸を中心に流行した富士講において「元祖」と崇められ、現代の富士信仰研究においてもその名から「ミロク信仰」との関連が論じられた。「ミロク信仰」論は、民俗学者宮田登によって提唱され、日本の民俗事象に見られるメシアニズム・ユートピアニズムに関する理論である。確かに食行は世界を創造した神々が世界を再び支配する時代「身禄の御世」が始まったと主張しているが、それは未来に理想世界を期待する「ミロク信仰」とは相容れないものではないか。また、最近新しく発見されたある写本によると、「身禄の御世」を最初に説いたのは食行の師・月行である可能性がある。この写本を用いると、食行の主張のうち単独では理解できなかった点を解決できることがわかった。よって月行が「身禄の御世」を神より託されたと主張する写本の有用性もより高まったのである。
著者
大谷 正人
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要 人文・社会科学 (ISSN:03899233)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.1-10, 2004

ベートーヴェン、スメタナ、フォーレという3人の大作曲家(3人とも名演奏家でもあった)における聴覚障害の創造への影響を検討した。ベートーヴェンの場合、聴覚障害は名ピアニストとして社交界での寵児でもあった青年期に発症したこともあり、遺書を書くほどの衝撃をもたらしたが、その不屈の精神により、主題の徹底的展開によるソナタ形式の完成をもたらした。スメタナの場合、オペラの指揮者としても活躍していた最盛期に急激に発症し、わずか4ヶ月で完全に聴力を失ったこと、その後には器質性精神障害を伴ったことから、最も悲劇的な様相を呈したが、同時に「わが祖国」や「わが生涯より」のような自伝的な不滅の傑作をもたらした。フォーレの場合、初老期における発症で進行も徐々であったため、その影響は表面的にはまだ穏やかで、声部の中音域化やポリフォニー化などをもたらした。3人に共通しているのは、音楽の深化、凝集化、内省化であった。
著者
原田 敬一 大谷 正
出版者
佛教大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

本年度は、防衛庁戦史部図書館・岡山県立図書館・福島県歴史資料館・富山県立図書館・富山公文書館所蔵の、公文書・編纂物・記録・新聞を調査・検索・複写・収集に努めた。その結果、第一に日清戦争での軍夫の動員数などが『明治廿七八年戦役統計』(防衛庁戦史図書館所蔵)で判明した。この史料によると、軍夫は兵站部だけでなく、師団に直接参加している。ただこれでも軍夫の被害数は不明で、収集した史料のうち兵庫県の『戦役記念金蘭簿・飾磨群』などは軍夫記述自体がない。ただ『福島県従軍者名誉簿』(福島県歴史資料館所蔵)は、軍夫の性行・送金などのほか氏名・略歴なども記録しており、他の地域にも同様の記録が存在する可能性を発見した。第二に、軍夫の募集・集合に県庁・群役所など地方庁の役人が積極的に関わったことが明らかになった。師団司令部の軍夫必要数の提起に従って、地方庁の役人が直ちに町村へ派遣され、雇用条件等について説明し、予定数の募集に従事した。応募した軍夫候補者は、軍医によって診断され、採否が決定される。みごと軍夫となったものは、大倉組などの民間雇用組織に所属して、戦地へ向かった。賃金は、師団司令部から民間雇用組織に支払われるという間接的雇用形態に終始した。そのため、戦後になって賃金・負傷などの手当をめぐり、いわゆる軍夫問題と言われるものが起きることになった。福島県では、全体の引率者として県の役人が休職して参加しており、戦後直ちに復職しているから、行政の一機能として参加したと思われる。軍夫は、民間人と行政官庁、軍隊が錯綜した複雑な問題であることが、今回の幾つかの地方に限定した調査でも明らかになった。これが普遍的な問題であることを証明するには、いっそう広い地域での調査が必要である。第三に、軍夫の戦場での実施がやや明らかになった。戦地派遣前には非武装が軍から指示されていたにも関わらず、多くの軍夫は武装しており、兵站を狙った攻撃によって戦闘にも加わり死傷者も出た。それだけでなく、第一線にいた軍夫は、軍夫の身分のまま、軍隊から砲兵隊や衛生隊などに再組織され、戦闘に加わった。これは、国際法を無視した重要な問題であった。これが戦史に記録されていないから、なぜ不問に付されたのかも今後の追求課題である。
著者
小高 有普 清水 忠男 村中 稔 安島 諭 桑村 佐和子 大谷 正幸
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.3_11-3_20, 2016-09-30 (Released:2016-12-21)
参考文献数
18

工業高等専門学校(工業系高専)は今,次世代教育に向けた課題に直面している.その具体的方策の手がかりを得るために,「創造性」に焦点を当てた調査研究を行った.1)ことに国の経済事情,教育施策,社会動向の変遷とともに,「創造性」の意味合いが大きく変化しており,「創造性」を喚起する教育がますます重要性を増していることが確認された.2)「創造性」がどのように捉えられ,どのようにその喚起が図られようとしているかについて,工業系高専,美術系大学および工業系大学のデザイン専攻の教員を対象としたアンンケート調査を行った結果,高等教育機関の教育現場において重点の置き方や方法の違いが明らかになった.これらの調査結果を踏まえて,デザイン教育の方法が,これまで以上に創造性の喚起を必要とする今後の工業系高専教育に応用可能であることが提言される.
著者
大谷 正幸
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.78, no.1, pp.95-118, 2004-06-30

「角行系宗教」とは、角行藤仏という富士山を信仰するユニークな行者を始祖とする宗教を包括して指す、筆者の造語である。この中に富士講という団体が含まれるが、彼らが栄えて地域に土着していく過程で、角行系宗教全体の起源と考えられる、ある名前のない宗教の存在が埋没してしまった。ここ数十年で発掘されてきた資料を元に、できるだけ富士講による伝統的な説を排除していくと、おぼろげながら彼らの姿が浮かび上がってくる。角行系宗教は全体を大きく五つに分けることができる。その始原は十七世紀初頭にまで遡るが、民間から発生した独特の教義を持ち、しかも伝統的な宗教には一切属さない。彼らは従来伝統的な山岳信仰と考えられてきたが、厳然たる創唱宗教にして富士信仰の伝統的な立場とは明らかに一線を画す。そのことが日本宗教史上でいわれる所謂「新宗教」の概念とどのように関わるのか問いかけたいと思う。
著者
大谷 正人 OTANI Masato
出版者
三重大学教育学部
雑誌
三重大学教育学部研究紀要, 自然科学・人文科学・社会科学・教育科学 (ISSN:18802419)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.13-20, 2015-03-31

自殺予防の精神療法を行う際には、自殺者の9割以上に存在する精神疾患の治療、十分な時間をかけた傾聴、希死念慮の一時性の確認、周囲の人々との絆の回復への支援などが臨床上主要な課題となる。自殺予防の根拠となり得るセラピーの一つとして、フランクルのロゴセラピーがある。フランクルのロゴセラピーは、人々が人生の意味を見出すことを援助することがその本質であるが、自殺防止に役立つ様々な視点も存在している。それは、創造価値、体験価値、態度価値という生きる意味を確認すること、未来への視点をどのような時でも持ち続けること、「生きることから何かを期待できるか」ではなく、「生きることが私たちから何を期待しているか」という自己中心的世界観から世界中心的世界観への変換の必要性、苦悩のもつ意義の確認、愛する者への思いにより救済され得ること、そして自己超越による永遠性という視点である。自殺予防に関わる者にとって、フランクルのロゴセラピーは大きな示唆を与え続けている。