著者
新井 武志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0094, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】一般に,筋機能の測定では,徒手筋力測定器などを用いて,等尺性収縮の最大発揮筋力(もしくはトルク)が測定されている場合が多い。しかし,身体機能や生活機能との関係を考えると,固定された関節で発揮される等尺性の能力よりも,トルクと角速度の積で表わされる筋パワーのほうがより臨床的な指標であることが示されている。そこで本研究では,簡便に角速度を測定できるジャイロセンサーを用いて膝関節の最大発揮角速度を測定し,その測定値が筋力や筋パワーを外挿するのか健常若年者を対象に検証した。【方法】対象は健常若年者93名(男性53名,女性40名,平均年齢19.5歳)であった。対象者は,端座位にて下腿下垂位から膝関節伸展位まで最大努力で伸展を行った。その際の最大発揮角速度を,ジャイロセンサーを用いて測定した。その他に,等速性筋力測定器(BIODEX)を用いて,膝関節屈曲45°および90°での等尺性最大トルク,3つの等速度条件における,最大トルクと平均パワーを測定した(角速度はそれぞれ60,180,300°/秒とした)。最大発揮角速度とそれぞれの筋機能測定値との関連は,ピアソンの積率相関係数を用いて評価した。危険率は5%未満を有意とした。【結果】ジャイロセンサーを用いて測定した膝関節伸展最大角速度の測定値は,630.0±119.0°/秒(平均値±標準偏差)であった。この測定値は,他のすべての測定条件におけるトルクや筋パワーと有意な相関を示した(P<0.05)。等尺性最大トルクとの相関係数は,90°屈曲位に対し45°屈曲位との相関係数が大きくなった(r=0.410 vs.0.555)。また,等速度条件では,角速度が大きくなるほど,トルク値との相関係数は大きくなった(r=0.484(60°/秒),0.569(180°/秒),0.589(300°/秒))。同様に,平均パワーとの相関係数も角速度が増すと大きくなることが示された(r=0.320(60°/秒),0.480(180°/秒),0.517(300°/秒))。【結論】ジャイロセンサーを用いて測定された最大発揮角速度は,筋機能と有意な相関を示した。このことにより,高価なトルクマシンがなくても,ジャイロセンサーによって簡便に筋パワー等が外挿できることが示唆された。またジャイロセンサーによって測定された膝関節の最大発揮角速度は,比較的浅い屈曲角度のトルク値や,より速い角速度でのトルク値や筋パワーと近似することが示唆された。今後,身体パフォーマンスとの関連を示していくことによって,ジャイロセンサーを用いた角速度測定の臨床における有意性が示していけるものと考える。
著者
大渕 修一 新井 武志 小島 基永 河合 恒 小島 成実
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.185-190, 2009 (Released:2009-05-28)
参考文献数
14
被引用文献数
14 6

[目的]超音波画像計測装置を用いて測定した大腿前面の筋厚が,膝関節伸展筋力を含めた身体機能と関係しているのか,また筋厚から膝関節伸展筋力の推定が可能かを調査した。[対象]地域在住の女性高齢者98名とした(平均年齢72.7 ± 5.4歳)。[方法]対象者の大腿前面の筋厚を超音波画像計測装置にて計測した。また身体機能として,等尺性の膝関節伸展筋力(N),握力(kg),通常歩行速度(m/分),開眼片足立ち時間(秒),下肢のしなやか度を測定した。[結果]大腿前面の筋厚は膝関節伸展筋力,握力,開眼片足立ち時間と有意な正の相関が認められた。一方,重回帰分析の結果では,膝関節伸展筋力を予測する因子としては,大腿前面筋厚の寄与率は低いことがわかった。[結語]超音波画像計測装置で計測した大腿前面の筋厚は,地域在住女性高齢者の身体機能を反映する指標とはなりうるものの,膝関節伸展筋力を推定するためにはさらに検討が必要と考えられた。
著者
新井 武志 大渕 修一 小島 基永 松本 侑子 稲葉 康子
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.781-788, 2006-11-25 (Released:2011-02-24)
参考文献数
29
被引用文献数
24 20

目的: 本研究は, 地域在住高齢者の介入前の身体機能レベルと運動介入による身体機能改善効果との関係を明らかにすることを目的とした. 方法: 対象は東京都内の7つの自治体の地域在住高齢者276名 (平均年齢75.3±6.5歳) であった. 個別評価に基づいて高負荷筋力増強トレーニングとバランストレーニング等を組み合わせた包括的な運動トレーニングを3ヵ月間行った. 運動介入の前後に最大歩行速度, Timed Up and Go, 開眼・閉眼片足立ち時間, ファンクショナルリーチ, 筋力, 長座位体前屈などの身体機能測定を行い, 各体力要素の改善効果と初期の身体機能レベルとの関係を検討した. 結果: 対象者の運動介入前の平均最大歩行速度は85.8±30.6m/分と虚弱な対象であったが, トレーニングの脱落率は8.0%と低値であった. トレーニング後, 閉眼片足立ちを除き, すべての身体機能において有意な改善を認めた (P<.01). 最大歩行速度の変化量以外, 身体機能の変化量・変化率は, 初期の身体機能レベルと負の相関を示した(|r|=.20~.59, P<.01). また, 重回帰分析の結果, 各身体機能の変化量を説明する変数として複数の身体機能要素が抽出された. 結論: 虚弱高齢者を含んだ対象への運動介入の結果, 身体機能レベルが低い者ほど, 身体機能改善効果が高いことが示された. 適切な対象を選択することがトレーニングの効果を高める重要な点であることが示唆される. トレーニングの対象をより明確にして介入を加える, いわゆるハイリスクアプローチが有効であると考えることができる.
著者
新井 武志 大渕 修一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1428, 2011

【目的】<BR> 平成18年4月に介護保険制度が予防重視型システムへ転換が図られ,老年症候群を有するような高齢者,すなわち要支援・要介護状態へ陥るリスクの高い高齢者に対して,運動器の機能向上プログラムなどが実施されることとなった。筋力増強運動については,超高齢あるいは虚弱な高齢者であっても筋力や身体機能が向上することが明らかにされており,様々な介護予防プログラムの中でも,高齢者の虚弱化予防対策の有力な手段であると考えられている。一方,老年症候群の1つとされる低栄養状態は,筋量や筋力の低下などに関係していることが指摘され,特に後期高齢者ではその割合が増加する。介護予防対象者の中には老年症候群を複合的に抱える者も多く,運動器の機能向上プログラムの参加者であっても低栄養状態が認められる者が存在する。しかし,低栄養状態が虚弱高齢者に対する運動介入の効果に影響するのかという知見は得られていない。本研究では、介護予防の運動器の機能向上プログラムに参加した高齢者の運動介入前の低栄養指標(BMIやアルブミン値)が、運動介入による身体機能の改善効果と関係しているのか検討することを目的とした。<BR>【方法】<BR> 対象は東京都A区で実施された運動器の機能向上プログラムに参加した地域在住高齢者44名(平均年齢73.9歳)であった。この対象者は,生活機能評価によって運動器の機能向上の参加が望ましいと判断された特定高齢者であった。対象者はマシンを使用した高負荷筋力トレーニングにバランストレーニング等を加えた運動プログラムを週2回,約3ヶ月間行った。運動介入には理学療法士,看護師などが関与し,個別評価に基づいた運動処方を実施した。身体機能の評価は,運動器の機能向上マニュアルに準じて,5m最大歩行時間,握力,開眼・閉眼片足立ち時間,ファンクショナル・リーチ(以下FR),長座体前屈,Timed Up & Go (以下TUG),膝伸展筋力を測定した。事前事後で有意な改善の認められた身体機能の変化量を算出し,対象者の事前のBMIおよび血清アルブミン値の低栄養指標との関係を年齢と性別を調整した偏相関係数にて検討した。解析にはSPSS17.0を使用し有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は,所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施された。参加者に対し,本研究の概要・目的を説明し,学術的利用を目的とした評価データの使用について全員から書面にて同意の意思を確認した。<BR>【結果】<BR> プログラム途中の脱落が3名,事後の身体機能評価の欠席者が4名おり(いずれもプログラムに起因しない理由),37名が解析の対象となった。5m最大歩行時間,FR,TUG,膝伸展筋力(以上P< .01)および長座位体前屈(P< .05)が有意に改善した。運動介入の前後で有意に改善した身体機能評価項目の変化量と,介入前のBMIおよび血清アルブミン値との偏相関関係は,いずれの項目も有意な相関関係を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 本研究の結果では,低栄養状態を表す指標と運動介入効果との間には相関関係が認められなかった。つまり,栄養指標が低値の対象であっても,運動介入による身体機能の改善効果が期待できることが示唆された。今回用いた運動プログラムには栄養士などの栄養管理の専門職は置かなかったが,低栄養の傾向がある高齢者であっても,適切な運動介入プログラムを用いて対応すれば身体機能の向上が期待できることを示唆するものであるといえる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 筋力増強運動は,運動療法において重要な位置を占めている。介護予防の運動器の機能向上プログラム参加者の中には低栄養状態の者も散見され,低栄養状態が運動介入の効果に対して負の影響を与えることも考えられた。しかし,今回の運動介入では,そのような結果にはならなかった。理学療法士は評価に基づいて対象者個々の状態を把握し,適切な運動介入を行うことができる専門職である。理学療法士が関与したことによって今回の結果がもたらされた可能性も考えられ,今後介護予防において,理学療法士が運動器の機能向上に積極的に関わり成果を上げることが期待される。<BR>
著者
新井 武志 大渕 修一 逸見 治 稲葉 康子 柴 喜崇 二見 俊郎
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.118-125, 2006-06-20
被引用文献数
9

本研究では,包括的高齢者運動トレーニング(以下CGT; Comprehensive Geriatric Training)に参加した地域在住虚弱高齢者の健康関連Quality of Life(以下HRQOL),うつ傾向,転倒に関する自己効力感を評価し,CGTによる身体機能改善効果との関連について検討した。対象は,CGTに参加した地域在住の虚弱高齢者20名(男性4名,女性16名,平均年齢74.6±7.2歳)であった。CGT開始前後に歩行能力やバランス機能などの身体機能測定に加えて,HRQOL (MOS Short-Form 36-Item Health Survey;以下SF-36),高齢者うつ評価(Geriatric Depression Scale簡易版;以下GDS),転倒に関する自己効力感(Falls Efficacy Scale;以下FES)を測定した。介入により有意に改善した身体機能の変化量とSF-36,GDS,FESとの相関関係について検討した。トレーニング後,参加者の身体機能は最大歩行速度,ファンクショナルリーチ,長座位体前屈,Timed Up and Goが有意に改善した(p<.01〜.05)。SF-36,GDS,FESの初回評価値とそれら身体機能の変化量との関係では,SF-36(心の健康)がファンクショナルリーチの変化量と有意な相関(r=0.53,p<.05,年齢調整後偏相関係数r=0.53,p<.05)を認めたのみで,GDS,FESはいずれにも有意な相関を認めなかった。今回CGTに参加した地域在住の虚弱高齢者において,身体機能の改善効果とうつ傾向や転倒に関する自己効力感の関連は認められなかった。適切な介入方法を用いることによって,HRQOLやうつ傾向,転倒に関する自己効力感の高・低にかかわらず高齢者の身体機能を向上させられる可能性が示唆された。