著者
曽根 啓子 子安 和弘 小林 秀司 田中 愼 織田 銑一
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.151-159, 2006 (Released:2007-02-01)
参考文献数
32
被引用文献数
2

日本で野生化し,農業害獣として問題となっているヌートリアMyocastor coypusによる農業被害の実態を把握することを目的として,農業被害多発地域の一つである愛知県において,被害の発生状況,とくに被害作物の種類とその発生時期,ならびに被害が発生しやすい時間帯と場所についての聞き取り調査を行った.また,穿坑被害を含む農業被害以外の被害の有無についても併せて調査した.ヌートリアによる農業被害の対象となっていたのは稲(水稲)および23品目の野菜であった.稲の被害(食害および倒害)は,被害経験のある34市町村のうちほぼ総て(32市町村/94.1%)の市町村で認められ,最も加害されやすい作物であると考えられた.とくに,育苗期(5-6月)から生育期(7-9月)にかけて被害が発生しやすいことが示唆された.一方,野菜の被害(食害および糞尿の被害)は収穫期にあたる夏期(6-9月)もしくは冬期(12-2月)に集中して認められた.夏期には瓜類(16市町村/47.1%),芋類(11市町村/32.4%),根菜類(8市町村/23.5%),葉菜類(3市町村/8.8%),豆類(3市町村/8.8%)など,冬期には葉菜類(17市町村/50.0%)ならびに根菜類(10市町村/29.4%)でそれぞれ被害が認められた.個別訪問した農家(18件)への聞き取りおよび現地確認の結果,主たる被害の発生時間帯は,日没後から翌朝の日の出前までの間であると推察された.農業被害が多く発生していた場所は,河川や農業用水路に隣接する農地であり,とくに護岸されていないヌートリアの生息に適した場所では被害が顕著であった.また,農業被害の他にも,生活環境被害(人家の庭先への侵入)および漁業被害(魚網の破壊)が1例ずつ認められたが,農業被害とは異なり,偶発的なものと推察された.今後は,被害量の推定を目指した基礎データの蓄積,ならびに捕殺以外の防除法の開発が重要な課題であると考えられた.
著者
曽根 啓子 子安 和弘 小林 秀司 田中 愼 織田 銑一
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 = Mammalian Science (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.151-159, 2006-12-30

日本で野生化し,農業害獣として問題となっているヌートリア<i>Myocastor coypus</i>による農業被害の実態を把握することを目的として,農業被害多発地域の一つである愛知県において,被害の発生状況,とくに被害作物の種類とその発生時期,ならびに被害が発生しやすい時間帯と場所についての聞き取り調査を行った.また,穿坑被害を含む農業被害以外の被害の有無についても併せて調査した.ヌートリアによる農業被害の対象となっていたのは稲(水稲)および23品目の野菜であった.稲の被害(食害および倒害)は,被害経験のある34市町村のうちほぼ総て(32市町村/94.1%)の市町村で認められ,最も加害されやすい作物であると考えられた.とくに,育苗期(5-6月)から生育期(7-9月)にかけて被害が発生しやすいことが示唆された.一方,野菜の被害(食害および糞尿の被害)は収穫期にあたる夏期(6-9月)もしくは冬期(12-2月)に集中して認められた.夏期には瓜類(16市町村/47.1%),芋類(11市町村/32.4%),根菜類(8市町村/23.5%),葉菜類(3市町村/8.8%),豆類(3市町村/8.8%)など,冬期には葉菜類(17市町村/50.0%)ならびに根菜類(10市町村/29.4%)でそれぞれ被害が認められた.個別訪問した農家(18件)への聞き取りおよび現地確認の結果,主たる被害の発生時間帯は,日没後から翌朝の日の出前までの間であると推察された.農業被害が多く発生していた場所は,河川や農業用水路に隣接する農地であり,とくに護岸されていないヌートリアの生息に適した場所では被害が顕著であった.また,農業被害の他にも,生活環境被害(人家の庭先への侵入)および漁業被害(魚網の破壊)が1例ずつ認められたが,農業被害とは異なり,偶発的なものと推察された.今後は,被害量の推定を目指した基礎データの蓄積,ならびに捕殺以外の防除法の開発が重要な課題であると考えられた.
著者
栗原 望 曽根 啓子 子安 和弘
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

鯨蹄類(CETUNGULATA)は現生哺乳類の鯨偶蹄類と奇蹄類を含む単系統群である.本シンポジウムの開催により,鯨蹄類研究のさらなる発展を期待している. 演題1 キリン科における首の運動メカニズムの解明:     郡司芽久(東京大学大学院農学生命科学研究科)・遠藤秀紀(東京大学総合研究博物館) ほぼ全ての哺乳類は 7個の頸椎をもち,首が非常に長いキリンもその例外ではない.しかしキリンでは,第一胸椎が頸椎的な形態を示すことが知られている.本研究では,キリンとオカピの首の筋構造を比較し,キリン科の首の運動メカニズムの解明を試みた.調査の結果,首の根元を動かす筋の付着位置が,キリンとオカピで異なることがわかった.筋の付着位置の違いから,第一胸椎の特異的な形態の機能的意義について議論する.演題2 カズハゴンドウ(Peponocephala electra)に見られる歯の脱落     栗原 望(国立科学博物館動物研究部脊椎動物研究グループ) ハクジラ類の歯は一生歯性であり,生活史の中で必然的に脱落することはない.しかし,カズハゴンドウでは,複数の歯を失った個体が非常に多く見受けられる.歯の脱落傾向や歯の形状を調べたところ,歯の脱落が歯周病などの外的要因により引き起こされたのではなく,内的要因により引き起こされたことが示唆された.本種で見られる歯の脱落が示す系統学的意義について議論したい.演題3 偶蹄類ウシ科の歯数変異と歯冠サイズの変動性     夏目(高野)明香(NPO法人犬山里山学研究所,犬山市立犬山中学校) 哺乳類全般の歯の系統発生的退化現象から歯式進化の様々な仮説が提唱されてきているが,これらの仮説は分類群ごとの傾向を反映していない.そこで偶蹄類ウシ科カモシカ類の歯数変異と歯冠サイズの変動性を調べたところ,P 2は変異性が高い不安定な特徴や,計測学的解析から他臼歯とは異なる特徴的な形質を保有することが明らかとなった.この事から,カモシカ類において,下顎小臼歯数 2が将来の歯式として定着する可能性があると考えられる.演題4 愛知学院大学歯科資料展示室とカモシカ標本コレクション     曽根啓子(愛知学院大学歯学部歯科資料展示室) 展示室には1,300頭以上のカモシカの頭骨標本が保管されている.これらの標本は 1989年度から2011年度にかけて愛知県内で捕獲されたものであり,2001年から標本登録されている.この標本コレクションは展示室の収集物でも,研究上重要な位置を占めるものであり,カモシカの形態学・遺伝学的研究に活用されている.本発表では,カモシカの収集・保管活動を紹介するとともに,頭蓋と歯に認められた形態異常および口腔疾患 (歯周病 )について報告する.演題5 鯨蹄類における乳歯列の進化     子安和弘(愛知学院大学歯学部解剖学講座)「三結節説」と「トリボスフェニック型臼歯概念」の陰で忘れさられた「小臼歯・大臼歯相似説」に再度光をあてて,歯の形態学における乳歯と乳歯式の重要性を指摘する.最古の「真獣類」とされるジュラマイアの歯式,I5,C1,P5,M3/I4,C1,P5,M3=54から現生鯨蹄類の歯列進化過程における乳歯列の進化と咬頭配置の相同性について概観する.
著者
松田 実 曽根 啓子 南雲 サチ子 岸上 義彦 辻 直子 建石 龍平
出版者
特定非営利活動法人 日本臨床細胞学会
雑誌
日本臨床細胞学会雑誌 (ISSN:03871193)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.989-995, 1994 (Released:2011-11-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

組織学的に甲状腺癌が確認された112例に対する穿刺吸引細胞診の成績は, 陽性94例 (83.9%) であった. これに対し, 触診, 超音波検査, X線検査の診断率は, それぞれ67.9%, 58.6%, 50.0%であり, 穿刺吸引細胞診の成績が最も優れていた. 特に乳頭癌の陽性率は87.1%で, ほかの診断法に比しはるかに優れており, 触診, 超音波検査, X線検査のいずれもが癌の所見を示さず, 穿刺吸引細胞診のみが陽性であった症例が10.9%にみられた.穿刺吸引細胞診が疑陽性あるいは陰性であった症例について標本の再検討を行い, 組織所見と対比した結果, 乳頭癌で細胞判定に問題があったと考えられる症例は4例あり, 1例は核内細胞質封入体と変性空胞との鑑別に困難を感じた例であり, ほかは乳頭癌の特徴的な細胞所見が認められなかった. 組織所見に問題があったと考えられる症例は5例あり, 乳頭癌が濾胞腺腫とともに存在した例, follicular valiantを示した例があり, また腫瘍組織の石灰化の著明な例が3例みられた.濾胞癌の陽性率は25%と低く, 穿刺吸引細胞診による濾胞腺腫との鑑別はきわめて困難であ
著者
横山 卓志 楠田 哲士 曽根 啓子 森部 絢嗣 高橋 秀明 橋川 央 小林 弘志 織田 銑一
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.207-214, 2012-12-30
参考文献数
12

飼育下キンシコウ(<i>Rhinopithecus roxellana</i>)の新生仔における行動発達を明らかにすることを目的とし,名古屋市東山動物園で2009年4月に生まれた雌の新生仔において,8ヶ月齢までの成長に伴って観察された行動の経日変化を記録した.また,それらの結果を,中国の国立陝西周至自然保護区の半野生集団および他の飼育下個体における報告と比較した.東山動物園の新生仔は,出生後約1ヶ月間は母親に依存していたが,1ヶ月齢から周辺環境や姉に興味を示し,積極的に接近や探索の行動を開始した.2~3ヶ月齢では姉と2頭で過ごしたりグルーミングに似た行動をしたりするなど社会行動が観察された.生後60日目以降,積極的に姉に近づくようになり,姉の存在がその後の新生仔の行動発達に影響を与えたと考えられた.自然保護区と比べ,木の登り降りや餌に興味を示す行動の発現が著しく早く,また5ヶ月齢以降,腹部接着や支持,近接,接近,離反およびグルーミング受容の行動スコアがほぼ一定となったことから,5ヶ月齢が行動発達の1つの区切りであったと考えられた.東山動物園におけるキンシコウ新生仔の行動発達過程は,群れの数や環境が大きく異なる中国の自然保護区の結果と一致していた.しかし,一部の行動の開始時期には大きな差が認められ,木の登り降りや餌への興味といった行動の発達は,成育環境に影響を受けているとも考えられた.<br>