著者
朝隈 真一郎 村井 和夫
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.46-53, 2010 (Released:2010-03-19)
参考文献数
28
被引用文献数
11 10

原因も, また内耳に起こっている病態についても全くわかっていない突発性難聴の診断と治療をいかに行うか, そのことを考える上での問題点とそれへの対応について述べた。1989年から2006年までの18年間に報告された論文をみると治癒率の向上はなく治療成績に変化はなかった。治療成績を調べるために検討された症例数が少ないと得られた治癒率のばらつきが大きく, 症例数が増えるにつれてそのばらつきは小さくなる。症例数が200例以上になると治癒率は30数%に集まる。また治療法が違っても症例を増やして検討すれば同じ治癒率が出ることが分かった。このことから, この治癒は治療によるものではなく自然治癒の可能性が高いことを述べた。治療に当たっては, この疾患について十分に説明することが重要である。治療法の選択については身体的にまた経済的にも負担の少ない方法を選択することが望ましい。
著者
朝隈 真一郎 志多 享
出版者
Japanese Society of Otorhinolaryngology-Head and neck surgery
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.489-494, 2001-05-20 (Released:2010-10-22)
参考文献数
44
被引用文献数
6 5

最近10年間に本邦で報告された, 突発性難聴の治療成績について記述された論文をもとに, その治療成績の変遷を調べた. 検討した論文の症例数の合計は3430例で, 治療成績は, 治癒30.8%, 著明回復24.7%, 回復23.3%, 不変21.8%であった. 年度別にみた治療成績では10年間でほとんど変化はなかった. 各論文で報告された治癒率と検討された症例数の関係を調べた. その結果, 症例数の少ない論文で報告された治癒率はそのばらつきが大きく, 症例数が多くなるほどそのばらつきは小さくなり30%付近に集まる傾向が見られた. 信頼できる治療成績を得るためには200以上の症例での検討が必要と思われた. 様々な治療法が検討され, どれも突出して有効な治療成績を挙げることができないことを考えると, 突発性難聴全体に有効な治療法はないのではないかと思われる. 今までのように, 突発性難聴を一纏めにして治療効果を判定しようとしても有効な治療法を見付けることは難しいのではないかと考えられる. 少数にでも良いから, 確実に有効であると判断される治療法を探すことも試みられて良いのではないか.

1 0 0 0 OA 菊池病の 2 例

著者
吉福 孝介 松崎 勉 西元 謙吾 朝隈 真一郎 大野 文夫
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.218-224, 2016-11-20 (Released:2017-11-01)
参考文献数
17

菊池病は、1972 年に菊池らにより報告された疾患で、組織球性壊死性リンパ節炎とも呼ばれている。数週間の頸部リンパ節腫脹と発熱を訴え、抗生剤が無効で、白血球数が低下し、LDH の上昇がみられれば、本疾患が強く疑われる。今回、われわれは、頸部腫瘤形成を主訴とした 27 歳女性と 17 歳男性の菊池病の 2 例を経験した。穿刺吸引細胞診にて確定診断後に、ステロイドを投与したところ、病変の速やかな改善を認め、現在のところ経過良好である。菊池病は約 4 %に再発がみられるものの発病後 1 − 2 カ月で治癒し、予後良好な病気とされている。しかしながら、高熱が持続し汎血球減少を呈し、不幸の転帰をとった症例などの重症例も存在することから、頸部リンパ節腫脹を来した症例に遭遇した際には、菊池病も念頭に置き、診療に携わる必要があるものと考えられた。
著者
朝隈 真一郎
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.156-161, 2006
被引用文献数
2

急性低音障害型感音難聴の病因と内耳に起こっていると思われる病態について, この疾患の特徴をもとに推理した。病因としては, 我が国の経済の破綻による社会全体を覆う不安と緊張, それによるストレスが原因ではないかと推察した。内耳に起こっているであろう病態については, 内リンパ水腫による基底板振動の変化, 内耳液の浸透圧の変化, および蝸牛第2回転の外放射状動脈の血行障害の可能性を挙げた。これらの病因と病態をもとに, 治療に用いられるべき薬剤を示唆した。1987年から2004年までの18年間に著者の医院を受診した本疾患の患者数の変遷, 治療成績の動向を示した。現在我が国の経済は立ち直りつつあり社会の混乱は落ち着きを取り戻しつつある。しかし本疾患の患者はなお増加し続けている。先に推理した病因とは別に, より根の深い社会病理学的な問題が介在している可能性についても言及した。