著者
佐藤 淳 木下 豪太
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.307-319, 2020 (Released:2020-08-04)
参考文献数
58

次世代シークエンサーは2005年ごろから実用化が進んだ新型DNAシークエンサーであり,現在も急速なスピードで改良されている.現時点で開発から10年以上が経ち,日本の哺乳類学でも少しずつ利用されつつある一方で,未だ十分に活用されていないのが現状である.本稿では,最近の研究事例を紹介することで,今後の日本の哺乳類学における次世代シークエンサーの利用を促進するきっかけとしたい.次世代シークエンサーが提供するデータにより,従来と比較して桁の異なる莫大な量のDNA情報が利用可能となったことで,進化生物学,生態学,分類学等の基礎科学だけでなく,野生哺乳類の保護・管理等の応用科学分野においても大きな貢献が期待される.
著者
木下 豪太 平川 浩文 佐藤 拓真 村上 翔大 成瀬 未帆 米澤 悟
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.11-23, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
19

北海道では国内外来種であるニホンテン(Martes melampus)が分布を拡大しており,在来種クロテン(M. zibellina)の生息域を狭めている.本研究では,現在両種の分布境界となっている石狩低地帯を中心に両種の生息調査を行うとともに,新たなDNAマーカーによる集団構造解析を行った.その結果,石狩低地帯に位置する2 つの丘陵(野幌と馬追)でクロテンの生息を確認し,野幌では両種が2km以内で確認され,境界がほぼ確定できた.本研究で作成したマイクロサテライトを用いて馬追と野幌で収集した糞サンプルのDNA解析に成功した.マイクロサテライトマーカーとMIG-seqにより得られたSNPを用いた解析では,クロテンとニホンテンは遺伝的に明瞭に分けられること,北海道のクロテンは分布の東西で遺伝的な偏りがあることが示された.今後は両種の分布隣接地での生態調査を行うとともに,遺伝的集団構造を踏まえた長期的な分布変化のモニタリングが必要である.
著者
木下 豪太 速水 将人 中濱 直之 大脇 淳 喜田 和孝 小山 信芳 Chistyakov Yuri
出版者
Pro Natura Foundation Japan
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.22-34, 2023-10-31 (Released:2023-10-31)
参考文献数
30

アサマシジミ北海道亜種は近年急速に生息域が縮小し,2016年に北海道のチョウ類としては初めて種の保存法に基づく「国内希少野生動植物種」に指定された.本研究では,適切な生息環境の管理方法の模索と集団遺伝学的調査を行った.遠軽町の生息地では,本亜種の保全のための草刈りが実施されている.そこで,草刈りの有無が本種とその資源(食草など)に及ぼす影響を調査した.その結果,本種の幼虫と成虫ともに草刈り区で密度(/m2)が有意に高かった.また,食草であるナンテンハギの開花数も草刈り区で多かった.以上から,草刈りの実施は本亜種の保全に有効であると言える.一方,核ゲノムおよびミトコンドリアゲノムの遺伝的多型に基づく解析により,本亜種は本州・サハリン・大陸の系統とは明瞭に区別できることや,北海道内にも遺伝的集団構造が存在することが確認された.また,本亜種の遺伝的多様度は北海道全体で低く,近年の地域個体群の絶滅によって低下傾向にあることも示された.今後,遺伝的集団構造を考慮した保全管理が推奨される.
著者
平川 浩文 木下 豪太 坂田 大輔 村上 隆広 車田 利夫 浦口 宏二 阿部 豪 佐鹿 万里子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.155-166, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

北海道における在来種クロテンMartes zibellinaと外来種ニホンテンM. melampusの分布の現状を明らかにするために,2000年から2015年にかけて生息記録を収集した.その結果,ニホンテンは北海道の南西部,クロテンはそれ以外の地域に広く分布していることが明らかとなった.二つの分布地域の間には石狩低地帯(石狩湾から太平洋にかけて帯状に延びる平野部)があり,クロテンの記録は石狩低地帯内の3地域でも得られた.ただし,この3地域とも石狩低地帯中心部を流れる河川を基準としてすべて低地帯の西側に位置した.今回の結果に数例の古い生息記録を合わせて,次のことが推察された.1)ニホンテンはクロテンを駆逐しながら分布を拡大したこと,2)石狩低地帯の分水嶺より南側では,低地帯の西縁部にニホンテンがまだ到達していない可能性があるが,そうであったとしても到達は間近であること,3)今後,石狩低地帯の分水嶺より南側ではニホンテンが低地帯を超えて,さらに分布拡大が進む可能性があること.