著者
木下 豪太 平川 浩文 佐藤 拓真 村上 翔大 成瀬 未帆 米澤 悟
出版者
公益財団法人 自然保護助成基金
雑誌
自然保護助成基金助成成果報告書 (ISSN:24320943)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.11-23, 2020-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
19

北海道では国内外来種であるニホンテン(Martes melampus)が分布を拡大しており,在来種クロテン(M. zibellina)の生息域を狭めている.本研究では,現在両種の分布境界となっている石狩低地帯を中心に両種の生息調査を行うとともに,新たなDNAマーカーによる集団構造解析を行った.その結果,石狩低地帯に位置する2 つの丘陵(野幌と馬追)でクロテンの生息を確認し,野幌では両種が2km以内で確認され,境界がほぼ確定できた.本研究で作成したマイクロサテライトを用いて馬追と野幌で収集した糞サンプルのDNA解析に成功した.マイクロサテライトマーカーとMIG-seqにより得られたSNPを用いた解析では,クロテンとニホンテンは遺伝的に明瞭に分けられること,北海道のクロテンは分布の東西で遺伝的な偏りがあることが示された.今後は両種の分布隣接地での生態調査を行うとともに,遺伝的集団構造を踏まえた長期的な分布変化のモニタリングが必要である.
著者
平川 浩文 長坂 有
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2013 (Released:2014-02-14)

コテングコウモリは春,残雪上のくぼみや穴でときおり発見されている.2010年の哺乳類学会にて,詳細を把握できた 13例の分析に基いて,冬眠の可能性が高いことを報告した.その後も情報収集を進め,2013年春までの 3年間に新たに 15の発見例が加わり,全部で 28例となった.この内,最新の 10例はすべて,発表者の二人が 2013年春に探して見つけたものである.今回の 10例より前には,1例を除いてすべて偶然の発見で,発見時に例外なくコウモリを手にとるなどの干渉が行われ,コウモリを元の場に戻した場合でもその後の経過観察が行われた例はなかった.探して見つけた 2007年の1例についてはコウモリに触れることなくしばらく観察が行われたものの,その後の経過観察は行われなかった.今回,研究目的で探索して 10例の発見に成功し,撹乱を避けた経過観察が初めて行われた.10例の内,1例はすでに死亡していたことが最終的に判明した.残り9例の内 1例を除いては発見時,体の動きがみられず休眠状態にあったと考えられた.発見後,撹乱を避けて観察を続けた結果,日没後 46分から 94分の間にその場を離れるのが確認された.その前には,顔を上げ,周囲を見回す仕草が確認できた.それまでの間,時々姿勢変化があった例も,まったくなかった例もあった.8例については穴から飛び去る瞬間も確認され,1例では飛び立ち時の写真撮影にも成功した.4例については,赤外線サーモグラフィ装置によって,その場を離れるまでの間,体温が上昇する過程を観察できた.5例については,翌朝,同じ穴に戻っていないことが確認された.さらに,1例は発見時の穴の形状から,穴が積雪下で形成され,コウモリが雪の中にいたことが強く示唆された.4例では,発見時,雨で体毛が濡れていたものの飛び立ちが確認されたことから,休眠中の雨濡れは生存の決定的な障害とはならないことがわかった.
著者
松井 哲哉 飯田 滋生 河原 孝行 並川 寛司 平川 浩文
出版者
THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.92, no.3, pp.162-166, 2010
被引用文献数
1 1 1

ブナ自生北限域における, 鳥によるブナ種子散布の限界距離を推定する試みの一環として, 北海道黒松内町のブナ林内において, 晩秋期に捕獲したヤマガラ1羽に小型の電波発信機を装着し, ラジオテレメトリ法により5日間追跡した。交角法と最外郭法によりヤマガラの行動圏を推定した結果, 1日の行動圏は2.1 haから6.5 haと推定され, 全体では11.4 haであった。また, 1日の行動圏から推定したヤマガラによる種子散布の限界距離は, 163 mから529 mであった。追跡期間が本研究よりも1カ月以上長いが, 海外のカラ類の行動圏はカナダコガラで平均14.7 ha, コガラで12.6 haであり, 本研究の調査手法はある程度有効であると示唆された。ブナ自生北限域において, ブナの孤立林分は互いに水平距離で約2∼4 km離れているため, 行動範囲の狭いヤマガラが運んだブナの種子起源で成立したとは考えにくい。
著者
平川 浩文 佐山 勝彦
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.207-210, 2005-09
被引用文献数
2

北海道札幌市にある東定山渓国有林で行った自動撮影による野生生物調査において、テンがスズメバチの巣盤をくわえて歩いている写真が2枚得られた。これらは、テンがスズメバチに刺されてひどく傷害を受けることなく、スズメバチの巣を襲うことができることを示す有力な証拠である。
著者
及川 希 松井 理生 平川 浩文
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.79-87, 2013-06-30
参考文献数
13

北海道中央部に位置する大麓山(標高1,460 m)のハイマツ帯において,エゾナキウサギの自動撮影調査を4年間に6回,6月から10月までの間に時期を変えて行った.得られた写真167枚の撮影時刻に基づいて日周活動を分析した.エゾナキウサギは昼夜ともに活動していたが,6回中5回の調査で,日中より夜間の方が活発で,秋にはこの傾向が顕著だった.季節による日周活動の違いは日中の高い気温による活動抑制効果では説明できなかった.従来の報告にあった朝夕二山型の活動リズムも確認されなかった.本種を含め,ナキウサギ属の研究は日中活動が主であるとの前提で行われてきたように思われるが,この前提は見直しが必要である.<br>
著者
平川 浩文 小阪 健一郎
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.175-178, 2009-09

コテングコウモリは、シベリヤ南東部・サハリン・千島列島・朝鮮半島・日本に分布する。森林に生息する小型のコウモリ(体重4-9g)で昆虫を餌とし、春から秋にかけては草や木の枯葉を主なねぐらとする。一方、晩秋から早春にかけては樹洞の利用も観察されている。しかし、活動が低下するこの時期をどのように過ごしているのかに関する情報はきわめて限定的で不明な点が多い。本種は雪面にあいた穴の中あるいは雪面で時々発見される。我々の知る範囲で7件の報告、8例の記録がある。地域別にみると、北海道4例、栃木1例、新潟1例、広島2例(広島の1例は3個体同時に発見)である。発見時の状況はさまざまであるが、発見時、個体はすべて休眠中で生存しており、雪面あるいは雪中をねぐらとして利用していたと考えられる。しかし、これらの観察が何を意味するかについては必ずしも明らかではない。今回、我々は11月末という早い時期に雪中で休眠中のコテングコウモリを記録したので、以下報告し、その意味について考えてみたい。
著者
森田 哲夫 平川 浩文 坂口 英 七條 宏樹 近藤 祐志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

&nbsp;消化管共生微生物の活動を通して栄養素の獲得を行う動物は微生物を宿すいわゆる発酵槽の配置により前胃(腸)発酵動物と後腸発酵動物に大別される.消化管の上流に微生物活動の場がある前胃発酵の場合,発酵産物と微生物体タンパク質はその後の消化管を食物とともに通過し通常の消化吸収を受ける.一方,後腸発酵ではその下流に充分に機能する消化管が存在せず,微生物が産生した栄養分は一旦ふりだしに戻り,消化を受ける必要がある.その手段として小型哺乳類の多くが自らの糞を食べる.このシンポジウムでは消化管形態が異なる小型哺乳類を対象にこの食糞の意義について考える.<br><br>&nbsp;糞食はウサギ類に不可欠の生活要素で高度な発達がみられる.発酵槽は盲腸で,小腸からの流入物がここで発酵される.盲腸に続く結腸には内容物内の微細片を水分と共に盲腸に戻す仕組みがある.この仕組みが働くと硬糞が,休むと軟糞が形成される.硬糞は水気が少なく硬い扁平球体で,主に食物粗片からなる.一方,軟糞は盲腸内容物に成分が近く,ビタミン類や蛋白などの栄養に富む.軟糞は肛門から直接摂食されてしまうため,通常人の目に触れない.軟糞の形状は分類群によって大きく異なり,<i>Lepus</i>属では不定形,<i>Oryctolagus</i>属では丈夫な粘膜で包まれたカプセル状である.<i>Lepus</i>属の糞食は日中休息時に行われ,軟糞・硬糞共に摂食される.<br><br>&nbsp;ヌートリア,モルモットの食糞はウサギ類と同様に飼育環境下でも重要な栄養摂取戦略として位置付けられる.摂取する糞(軟糞,盲腸糞)は盲腸内での微生物の定着と増殖が必須であるが,サイズが小さい動物は消化管の長さや容量が,微生物の定着に十分な内容物滞留時間を与えない.そこで,近位結腸には微生物を分離して盲腸に戻す機能が備えられ,盲腸内での微生物の定着と増殖を保証している.ヌートリア,モルモットでは,この結腸の機能は粘液層への微生物の捕捉と,結腸の溝部分の逆蠕動による粘液の逆流によってもたらされるもので,ウサギとは様式が大きく異なる.この違いは動物種間の消化戦略の違いと密接に関わっているようにみえる.<br><br>&nbsp;ハムスター類は発達した盲腸に加え,腺胃の噴門部に明確に区分された大きな前胃を持つ複胃動物である.ハムスター類の前胃は消化腺をもたない扁平上皮細胞であることや,前胃内には微生物が存在することなどが知られているが,食物の消化や吸収には影響を与えず,その主な機能は明らかとはいえない.一方,ウサギやヌートリアと比較すると食糞回数は少ないが,ハムスター類にとっても食糞は栄養,特にタンパク質栄養に大きな影響を与える.さらに,ハムスター類では食糞により後腸で作られた酵素を前胃へ導入し,これが食物に作用するという,ハムスター類の食糞と前胃の相互作用によって成り立つ,新たな機能が認められている
著者
宇野 裕之 玉田 克巳 平川 浩文 赤松 里香
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.129-137, 2002-12-30
参考文献数
16
被引用文献数
3

2001年9月から12月に北海道東部地域において,2種類のGPS (Global Positioning System)首輪(テロニクス社:TGW-400/GPS/SOB 及びテレヴィルト社:G01-01011)の測位成功率及び測位精度の検証を行った.測位成功率の試験は4つの植生タイプ(落葉広葉樹林,針広混交林,針葉樹人工林,開放環境)及び3つの地形(谷,尾根,斜面)ごとに実施した.テロニクス社製の測位成功率は全ての環境下で97%以上であり,植生や地形の影響は受けなかった.テレヴィルト社製の成功率は83%以上であったが,林冠被度が高くなると成功率が低下した.測位精度試験の結果,誤差距離(accuracy)は,テロニクス社製を用いて4つ以上の衛星から電波を受けた場合(三次元座標)1.5~3.5m,テレヴィルト社製を用いた三次元座標の場合4.2m,3つの衛星から電波を受けた場合(二次元座標)15.6m であった.三次元座標の場合,全測位点の95%は半径30m の円内に入ることが判った.アカシカ(Cervus elaphus)を用いた飼育個体試験の結果,行動は測位成功率には影響しなかった.GPSテレメトリーは野生動物の季節移動や生息地利用を明らかにする上で有効な手法であると考えられた.
著者
平川 浩文
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.109-122, 1995 (Released:2008-07-30)
被引用文献数
1
著者
平川 浩文 木下 豪太 坂田 大輔 村上 隆広 車田 利夫 浦口 宏二 阿部 豪 佐鹿 万里子
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.155-166, 2015 (Released:2016-01-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

北海道における在来種クロテンMartes zibellinaと外来種ニホンテンM. melampusの分布の現状を明らかにするために,2000年から2015年にかけて生息記録を収集した.その結果,ニホンテンは北海道の南西部,クロテンはそれ以外の地域に広く分布していることが明らかとなった.二つの分布地域の間には石狩低地帯(石狩湾から太平洋にかけて帯状に延びる平野部)があり,クロテンの記録は石狩低地帯内の3地域でも得られた.ただし,この3地域とも石狩低地帯中心部を流れる河川を基準としてすべて低地帯の西側に位置した.今回の結果に数例の古い生息記録を合わせて,次のことが推察された.1)ニホンテンはクロテンを駆逐しながら分布を拡大したこと,2)石狩低地帯の分水嶺より南側では,低地帯の西縁部にニホンテンがまだ到達していない可能性があるが,そうであったとしても到達は間近であること,3)今後,石狩低地帯の分水嶺より南側ではニホンテンが低地帯を超えて,さらに分布拡大が進む可能性があること.
著者
松井 哲哉 並川 寛司 板谷 明美 北村 系子 飯田 滋生 平川 浩文
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

ブナ分布北限地域の最前線における正確な分布を調べるために、空中写真解析と現地調査を併用した結果、ブナの孤立林は最大約4km間隔で9箇所分布していることが判明した。これらの孤立林は、ブナの連続分布域から鳥などによって運ばれた種子が育ち、成立した可能性がある。遺伝的解析の結果、孤立ブナ林では孤立度が高く、多様度は低下する傾向がみられたものの、ブナの樹齢は120年以下の若い個体が多く、ブナは林冠のかく乱などを契機として今後もゆっくりと分布範囲を拡大すると考えられた。
著者
森田 哲夫 平川 浩文 坂口 英 七條 宏樹 近藤 祐志
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.52, 2013 (Released:2014-02-14)

消化管共生微生物の活動を通して栄養素の獲得を行う動物は微生物を宿すいわゆる発酵槽の配置により前胃(腸)発酵動物と後腸発酵動物に大別される.消化管の上流に微生物活動の場がある前胃発酵の場合,発酵産物と微生物体タンパク質はその後の消化管を食物とともに通過し通常の消化吸収を受ける.一方,後腸発酵ではその下流に充分に機能する消化管が存在せず,微生物が産生した栄養分は一旦ふりだしに戻り,消化を受ける必要がある.その手段として小型哺乳類の多くが自らの糞を食べる.このシンポジウムでは消化管形態が異なる小型哺乳類を対象にこの食糞の意義について考える. 糞食はウサギ類に不可欠の生活要素で高度な発達がみられる.発酵槽は盲腸で,小腸からの流入物がここで発酵される.盲腸に続く結腸には内容物内の微細片を水分と共に盲腸に戻す仕組みがある.この仕組みが働くと硬糞が,休むと軟糞が形成される.硬糞は水気が少なく硬い扁平球体で,主に食物粗片からなる.一方,軟糞は盲腸内容物に成分が近く,ビタミン類や蛋白などの栄養に富む.軟糞は肛門から直接摂食されてしまうため,通常人の目に触れない.軟糞の形状は分類群によって大きく異なり,Lepus属では不定形,Oryctolagus属では丈夫な粘膜で包まれたカプセル状である.Lepus属の糞食は日中休息時に行われ,軟糞・硬糞共に摂食される. ヌートリア,モルモットの食糞はウサギ類と同様に飼育環境下でも重要な栄養摂取戦略として位置付けられる.摂取する糞(軟糞,盲腸糞)は盲腸内での微生物の定着と増殖が必須であるが,サイズが小さい動物は消化管の長さや容量が,微生物の定着に十分な内容物滞留時間を与えない.そこで,近位結腸には微生物を分離して盲腸に戻す機能が備えられ,盲腸内での微生物の定着と増殖を保証している.ヌートリア,モルモットでは,この結腸の機能は粘液層への微生物の捕捉と,結腸の溝部分の逆蠕動による粘液の逆流によってもたらされるもので,ウサギとは様式が大きく異なる.この違いは動物種間の消化戦略の違いと密接に関わっているようにみえる. ハムスター類は発達した盲腸に加え,腺胃の噴門部に明確に区分された大きな前胃を持つ複胃動物である.ハムスター類の前胃は消化腺をもたない扁平上皮細胞であることや,前胃内には微生物が存在することなどが知られているが,食物の消化や吸収には影響を与えず,その主な機能は明らかとはいえない.一方,ウサギやヌートリアと比較すると食糞回数は少ないが,ハムスター類にとっても食糞は栄養,特にタンパク質栄養に大きな影響を与える.さらに,ハムスター類では食糞により後腸で作られた酵素を前胃へ導入し,これが食物に作用するという,ハムスター類の食糞と前胃の相互作用によって成り立つ,新たな機能が認められている