著者
木本 喜美子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.27-40, 2000-07-31 (Released:2010-05-07)
参考文献数
33
被引用文献数
3 6 2

本稿は、戦後日本の家族と企業社会との関係を「家族賃金」という概念から分析することにある。日本において性別分業を組み込んだ〈近代家族〉モデルは、終身雇用、年功賃金、企業福祉を柱とする日本的経営のもとで、強固な基盤が据えられた。とくに「生活給」賃金思想に支えられた大企業の労働者家族は、物質的生活基盤とひきかえに、夫を競争的な「企業内人生」へと駆り立てていった。「減量経営」を経た1970年代以降こうした動向は明確化し、家族と企業社会とは強い絆で結ばれるところとなった。だが同時に1970年代以降のスクラップ・アンド・ビルドの進展のもとで地域間移動をともなう配置転換、出向等が多発するなかで、家族の側から「家族帯同」を拒否する傾向が強く現れ、1980年代以降単身赴任が社会現象として注目されるにいたった。物質優先主義が、「家族成員相互の情緒的関係」を欠いた〈近代家族〉の中心軸になっており、この傾向は1990年代にも基本的にひきつがれている。
著者
木本 喜美子 千葉 悦子 宮下 さおり 勝俣 達也 高橋 準 中澤 高志 萩原 久美子 野依 智子 早川 紀代
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、地方圏における女性労働史の実態調査による事例研究から、戦後日本の<女性労働と家族>の史的再構成への視座を得ることをめざしている。方法的関心は、近代家族論と階級・階層論を女性労働史に接合することにおかれる。具体的には、大手機業場を擁した福井県勝山市の織物産業における女性労働者に焦点をおき、その生活史の考察が中心となる。すでに調査を終えている零細機業場の集積地帯、福島県川俣町の事例も比較検討の対象として取り上げる。以上を通じて、主婦化が進展したとされる高度成長期に、結婚・出産後も継続的に就業する女性のライフコースが成立していたこと、およびその家族的諸条件および地域的特性を明らかにした。
著者
木本 喜美子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.17-28, 2006-03-20 (Released:2009-08-04)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本稿の目的は, 雇用流動化が家族-企業間関係にいかなる変容をもたらしているのかを検討することにある。バブル経済の崩壊後の雇用流動化が日本的慣行を揺るがしているとすれば, この日本的雇用慣行を媒介としてとり結ばれた家族と企業社会の安定的で密な関係に変化を生じさせていることになる。だが統計データを解読すると, 雇用流動化の担い手は若年層, 女性層, 男性高齢層である。男性中年期・壮年期層に影響をもたらすとみなされてきた「成果主義」の導入も, 喧伝されたほどの変化をもたらしておらず, この層の雇用の安定性は保たれている。また個別企業の人事戦略をみても主として女性の正社員数が絞りこまれ, 若年層と女性の非正規化, そして非正規内部の多層化が推進されてきている。以上から見るならば, 2005年時点でも家族-企業間関係は大きく揺らいではおらず, 中核層と周辺層の隔離と後者の分断化が進行しているといわなければならない。
著者
木本 喜美子 笹谷 春美 千葉 悦子 高橋 準 宮下 さおり 中澤 高志 駒川 智子 橋本 健二 橋本 健二 萩原 久美子
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、長期雇用、年功賃金などの日本的雇用慣行が適用される「男性職」とは区別される形で、いかにして「女性職」が形成されてきたのかを探ることを通じて、女性労働史を再構成することを目的としている。そのために、女性労働の集積地域である福島県北・川俣町の織物産業に従事した女性労働者を調査対象としてとりあげ、そのライフヒストリー分析を軸に、雇用労働と家族生活とがどのように接合されてきたのかを明らかにした。