著者
木村 洋二 ハンナロン チャーン 板村 英典
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.55-106, 2006-03-30

2004年5月10日の記者会見における皇太子の「人格否定」発言を日本の4大新聞がどのように報道したか、荷重グラフを作成して比較分析した。はじめに、同じく王室を戴くタイ国における王室報道を概観した。記事の割付けと面積をグラフィカルに表現するパターングラフ(NWP)を開発するとともに、「敬意度」を測定するために記事の開始段数を指標化(SRW)した。タイにおいてはすべての王室報道が第1段から掲載されるのに対し、日本の新聞にはかなりのバラツキが見られた。産経、読売が「敬意度」の得点が高く、朝日、毎日の得点が低いことがグラフ表示から明らかになった。
著者
竹内 洋 木村 洋二 雨宮 俊彦 吉岡 至
出版者
関西大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は、新聞の見出しに着目した荷重分析の理論的・方法論的検討を行い、以下の3つのテーマに関する報道を対象として取り上げて分析した。また、多重媒介コミュニケーションモデルの理論的精緻化を図り、ネツトワークにおける信頼と不信の荷重変換ダイナミックスについて検討を加えた。1.地下鉄サリン事件とオウム真理教問題:本分析では、見出しにおける「サリン」と「オウム」という語句の出現頻度と文字面積の大きさを計測し、得られた各値を通時的な荷重グラフに表示することから、朝日・産経・毎日・読売新聞の報道における各紙の視点の違いを明らかにした。さらに、この2つのキーワードの配置に応じて5段階の評点を与え、サリン事件とオウム真理教との意味的な結びつきの強さを定量的に分析した。2.戦後日本における「いじめ」報道:1945〜2007年までの朝日新聞データベースを用い、現在、教育問題として語られる「いじめ」が、戦後から現在に至るまでの報道によって誘導され形成された言説(=「世論」)であることを明らかにし、その時系列的変遷を考察した。「いじめ」と「教育」に関連する意味ネットワークを相互比較することによって、分析におけるキーワードの選定とその意義が示された。3.東アジア問題-東シナ海ガス田の開発:2004年の中国による東シナ海ガス田開発に関する報道をもとに、日中両国の国益に関わる問題について、「ガス」という語を手がかりとして荷重分析を行うことにより、暗黙のうちに示された「国益の優先」と「日中友好」という各紙の立場の違いを明らかにした。記事の見出しに特化した本分析法は、簡便化による分析の即応性が見出された。本研究によって、客観報道の神話に隠れた荷重バイアスを視覚・データ化し、社会的現実がメディアの重みづけ報道によって相互構築されていく過程を実証的に分析する新しい手法の有効性を検証することができた。
著者
木村 洋二 渡邊 太
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.119-164, 2005-03-25

最終戦争による世界の破滅を生き延ぴた修行者が、理想社会を建設する。そのような救済のヴィジョンを抱いていたオウム真理教は、1995年に地下鉄サリン事件を起こした。救済を目指すはずの修行者たちは、なぜ無差別のテロリズムを遂行したのか。この問題を、感情論理のネットワーク分析の視点から渡邊が考察する。宗教的に意味付与されたテロリズムは、献身の感情論理にもとづく。ソシオン理論によると、献身の感情論理は、否定の否定が肯定になる、という弁証法的なネットワーク動作として説明できる。真摯な自己否定は、他者への隷従を帰結する。このとき、献身の対象であるグルに対する不信や指示に従うことの迷いは、必ずしも献身のネットワークからの解放につながらない。オウムの修行者の感情論理においては、葛藤し、迷った挙げ旬に、結局指示に従ってしまうという構造があった。この構造は、現在自分が置かれている状況に対する疑問を抱いたときに、その状況から離脱することを不可能にする。不自由に気づくことが、さらなる不自由へと人を巻き込むようなネットワーク構造がある。閉ざされた環境において、批判的視点を確保する可能性について考察することが本稿の課題である。
著者
木村 洋二 板村 英典 池信 敬子
出版者
関西大学
雑誌
関西大学社会学部紀要 (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-56, 2005-10-31

私たちはこれまで、北朝鮮による「日本人拉致」問題を日本の4大新聞がどのように報じてきたか、その報道姿勢を、見出し構成のあり方を中心に、2回にわたって分析してきた(木村・板村・池信2004、2005)。3回目にあたる本稿は、2004年11月9日から14日にかけて平壌で開かれた「第3回日朝実務者協議」に関連して、「拉致」問題を各紙がどのように荷重(重みづけ)して報道したかを分析する。見出しに「拉致」という用語が出現する頻度とその文字の大きさを測定し、時系列で変化を見るために前回同様に「荷重グラフ」を作成する。返還された「遺骨」が偽物であると判明した12月9日以降、各紙とも「経済制裁」の必要を訴える論陣を張った。「制裁」の使用頻度と文字面積についても時系列で荷重グラフを作成した。「制裁」の頻度や使用法にかなり荷重差がみられる。また、「制裁」の文字が含まれている見出し文あるいは文節の構成自体が、読者に正負の異なった印象を与えるのではないか、との仮説から、若干の意味論的構文分析を手がけるとともに、構文法の違いによってもたらされる見出しの分極性と印象強度をたずねる予備的なアンケート調査を試みた。