著者
田中 裕 岩渕 和久 中村 有紀 岡本 健 平野 洋平 石原 唯史 近藤 豊 末吉 孝一郎
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

多臓器不全は大きな侵襲や重篤な感染症が契機となることが多く、治療に難渋しその死亡率も未だ高い。生体侵襲時には補体活性化が生じ、TMAが引き起こされる。TMAは全身臓器の微小血管の血栓形成と、血管内皮細胞障害を呈する。しかし生体侵襲時の補体活性化による多臓器不全の機序については明らかでない。本研究目的は侵襲時の多臓器不全の病態を補体活性化によるTMAという新たなる視点から解明することである。侵襲時における、(1)補体活性の定量評価、(2)TMAとの関連、(3)補体活性化と白血球・血小板連関、(4)補体活性の制御による多臓器不全抑制の検討を行う。
著者
末吉 孝一郎 吉岡 伴樹 船越 拓 鈴木 義彦 藤芳 直彦 森本 文雄 渋谷 正徳
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.434-439, 2008-07-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

患者は60歳の女性。運動会で突然の心肺停止状態となり,bystander CPRが施行された。電気的除細動で心拍再開し当院へ救急搬送となった。冠動脈造影(coronary angiography; CAG)にて急性心筋梗塞(acute myocardial infarction; AMI)と診断し経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention; PCI)を施行した。集中治療室(intensive care unit; ICU)へ入室し抗凝固療法が施行されたが,カテコラミン投与下にても循環動態は安定せず,貧血の進行と肝逸脱酵素の上昇を認めた。第2病日に施行した腹部造影CTでは肝右葉に被膜下血腫と実質損傷を認め,肝左葉実質の損傷も認めたためこれが出血源と考えられた。被膜下血腫により圧排された肝右葉は均一に造影されず,肝実質組織内圧上昇による血流障害を認め,肝コンパートメント症候群であると診断した。まず抗凝固療法を中止し,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)及び濃厚血小板液(platelet concentrate; PC)投与による凝固能改善を図り,人赤血球濃厚液(red cells MAP; MAP)投与を行ったが循環動態の改善を認めなかったため,腹部血管造影を施行した。腹部血管造影では動脈相での明らかな造影剤の血管外漏出(extravasation)は認めなかったが,肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization; TAE)を行うことで循環動態は安定した。以後,全身状態は改善したが,血腫の縮小を促進させるために穿刺ドレナージを行い,第73病日に独歩退院となった。肝コンパートメント症候群の報告例は極めて稀であり,肝虚血に対しては減圧による虚血の解除が必要であると報告されている。しかしながら本症例ではTAEにて保存的に治癒せしめることができた。