著者
末廣 忠延 渡邉 進
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.309-313, 2012 (Released:2012-08-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

〔目的〕コルセット使用の有無が腰部安定化運動中の体幹筋活動に及ぼす影響を検討した.〔対象〕健常成人男性10名(平均年齢21.3±0.5歳)とした.〔方法〕ダーメンコルセットを装着した条件としなかった条件でブリッジ,バードドッグ,下肢伸展拳上時の体幹筋活動を測定した.〔結果〕コルセットを装着した条件において,ブリッジとバードドッグ[右上肢・左下肢拳上]で右の内腹斜筋の活動が,また右下肢伸展拳上で右の内腹斜筋と腹直筋の活動が有意に低値を示した.〔結語〕コルセットを装着したブリッジ,バードドッグ,下肢伸展挙上の腰部安定化運動では内腹斜筋の活動が低下するため,より頻回に腰部安定化運動を行い,ローカル筋群の賦活を促していく必要があると考えられた.
著者
末廣 忠延 水谷 雅年 石田 弘 小原 謙一 藤田 大介 大坂 裕 高橋 尚 渡邉 進
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.329-333, 2016 (Released:2016-04-29)
参考文献数
23
被引用文献数
2

〔目的〕慢性腰痛者における腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋活動開始時間との関係を明らかにすることとした.〔対象〕慢性腰痛者25名とした.〔方法〕股関節伸展時の筋活動開始時間を測定した.腰部の臨床不安定性の試験として,prone instability test(PIT)と腰椎屈曲時の異常な動きを評価した.腰部の臨床不安定性と股関節伸展時の筋活動開始時間との関係は,相関係数を用いて分析した.〔結果〕PITの陽性の結果が両側の多裂筋と対側の脊柱起立筋の活動遅延と相関した.〔結語〕慢性腰痛者において腰部の臨床不安定性の陽性の結果と股関節伸展時の背部筋群の活動遅延が相関することが明らかになった.
著者
石田 弘 末廣 忠延 小野 晃路 黒住 千春 渡辺 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0686, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】頸部深層屈筋群(頭長筋,頸長筋)には頭頸部屈曲作用(上位頸椎の屈曲と頸椎前彎の減少)がある。この頸部深層屈筋群の機能を間接的に評価する方法が頭頸部屈曲テストである。頸部痛患者では,頸部深層屈筋群の機能低下が生じており,頭頸部屈曲テストの際には,代償的に表層の胸鎖乳突筋の筋活動が増加する(Jull 2000;Jull et al. 2004;Sterling et al. 2001)。また,頸部痛患者では,頸部深層屈筋群の筋厚が健常者と比較して薄いことも報告されている(Javanshir et al. 2011)。そこで,本研究では,頸部深層屈筋群の筋厚を測定することで頭頸部屈曲機能を間接的に評価し,健常者においても頸部深層屈筋群の筋厚が薄いほど頭頸部屈曲テスト時の胸鎖乳突筋の筋活動量が大きいという仮説の証明を目的とした。【方法】対象は健常男性13名(平均年齢19.6±1.2歳,身長169.2±4.0cm,体重61.9±12.6kg)とした。まず,背臥位で被験者の頸部後面にチャタヌーガグループ製の圧バイオフィードバックユニットStabilizerのパッドを置き,圧パッドを20mmHgに加圧した。そして,5段階の目標値を設定して(22,24,26,28,30mmHg),頭頸部屈曲運動によって2mmHg毎に圧を上昇させる頭頸部屈曲テストの練習を被験者に行わせた。頭頸部屈曲テストの練習後,安静時の右頸部屈筋群(頸部深層屈筋群,胸鎖乳突筋)の筋厚を測定した。筋厚は,アロカ社製の超音波診断装置SSD-3500SXの10MHzのリニア型プローブを使用し,Bモードで計測した。測定は背臥位で,どちらの筋も甲状軟骨の喉頭隆起から1.5横指下の高位で画像化を行った。特に表層にある筋は接触させる力によって筋厚が変化するため,胸鎖乳突筋の画像化の際には,プローブの接触圧を鮮明な画像が映る最小限度とした。撮影は各2回で,頸部深層屈筋群では独自に考案した対角幅(Ishida et al. 2014),胸鎖乳突筋は最大膨隆部の前後幅を測定し,計測した各筋の厚さ(mm)の平均値を解析に用いた。また,筋厚比を,頸部深層屈筋群の筋厚を基準とした胸鎖乳突筋の筋厚で算出した(胸鎖乳突筋/頸部深層屈筋群)。筋厚を測定した後に,頭頸部屈曲テスト時の右胸鎖乳突筋活動を記録した。筋電計はNoraxon社製のMyosystem1200を用い,観測周波数帯域は10-500 Hz,サンプリング周波数は1kHzとした。皮膚処理後,電極を中心間距離2.5cmで胸鎖乳突筋の筋腹の下1/3に貼付した。被験者に5段階の目標値(22,24,26,28,30mmHg)に圧を上昇させ,保持できていることを確認しながら各3秒間の筋電図を2回記録し,中間1秒間の積分値を算出した。その後,正規化のためにヘッドリフト3秒間の筋活動量を1回記録し,中間1秒間の積分値を算出した。5段階の目標値を保持している際の胸鎖乳突筋の積分値をヘッドリフト時の積分値で正規化し,2回の平均値を解析に用いた。統計にはIBM SPSS Statistics 22を用い,Pearsonの相関係数で筋厚に関するパラメータと頭頸部屈曲テスト時の胸鎖乳突筋の筋活動量との関係を検討した(p<0.05)。【結果】胸鎖乳突筋の筋厚は11.1±2.1mm,頸部深層屈筋群の筋厚は8.8±1.5mm,筋厚比は1.3±0.3であった。5段階の目標値(22,24,26,28,30mmHg)を保持している際の胸鎖乳突筋の筋活動量との相関係数は,胸鎖乳突筋の前後幅(0.153,0.285,0.329,0.285,0.163),頸部深層屈筋群の対角幅(-0.577*,-0.556*,-0.400,-0.317,-0.202),筋厚比(0.604*,0.649*,0.559*,0.443,0.240)であった(*:p<0.05)。【考察】本研究において,頭頸部屈曲テスト時の胸鎖乳突筋の筋活動量は,頸部深層屈筋群の対角幅との間には22,24mmHgで有意な負の相関関係があること,筋厚比との間には22,24,26mmHgで有意な正の相関関係のあることが分かった。高い圧で相関関係がなかったことは,胸鎖乳突筋以外の表層筋も代償的に活動を高めていたことが理由と思われる。頸部深層屈筋群の筋厚は,頭頸部屈曲運動の筋力を間接的に示すと考える。頸部深層屈筋群の筋厚が薄いことは頭頸部屈曲運動の筋力が低いことを示し,健常者においても,代償的な胸鎖乳突筋の筋活動量増加が認められたことは興味深い。また,筋厚比の相関係数の方が頸部深層屈筋群の筋厚単独よりも高かったことから,最小限の胸鎖乳突筋の筋活動で行う特異的な頭頸部屈曲運動の重要性がより強調されると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,頸部深層屈筋群による頭頸部屈曲運動という機能と,筋厚という構造にも焦点を当てて頸部の運動療法を考える必要性があることを示している。
著者
末廣 忠延 石田 弘 小原 謙一 藤田 大介 大坂 裕 渡邉 進
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-33, 2018-04-30 (Released:2018-08-12)
参考文献数
19

【目的】目的は健常者と慢性腰痛者における腹臥位での股関節伸展運動時の筋活動量を比較することである。【対象】対象は健常成人20名と慢性腰痛者20名とした。【方法】筋活動の測定は表面筋電計を使用し,被験筋は対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,多裂筋,同側の大殿筋,ハムストリングスとした。被験者は腹臥位となり膝を伸展位で股関節を伸展10°に保持した際の筋活動量を測定した。群間の筋活動量の比較にはMann-Whitney のU 検定を使用した。【結果】大殿筋の活動は,健常者に比較して慢性腰痛者で有意に高値を示した。他の筋については有意差を認めなかった。【考察】慢性腰痛者は股関節伸展時に健常者よりも高い大殿筋の活動を示すことが明らかとなった。この原因としては,大殿筋の筋力低下や股関節伸展側の骨盤の水平面上での腹側への回旋が生じた状態で股関節を伸展したことが要因として考えられた。
著者
末廣 忠延 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb0501, 2012

【はじめに、目的】 近年、腰痛患者や腰部手術を受けた患者はローカル筋群の機能不全が生じることが報告されている。これらのローカル筋群の機能不全が長期間に渡る腰痛悪化の原因となる可能性を示し,またさらなる損傷を受けやすい状態を招くとされており,早期より体幹筋のローカル筋を中心とした腰部安定化運動が実施されている。腰椎術後の腰部安定化運動では安静・固定を目的にコルセットを装着したままでしばしば施行される。しかし,コルセット装着下での腰部安定化運動中の筋活動を調べた報告はない。そこで本研究では,コルセットの使用の有無が腰部安定化運動中の体幹筋活動に及ぼす影響を検討することを目的に実施した。【方法】 対象は,健常な男性10名(平均年齢21.3±0.5歳)とした。測定課題はブリッジ,下肢伸展挙上の2種目とし,下肢伸展挙上は左右両側行った。ブリッジは背臥位で腰椎を中間位に保持したまま股関節伸展0°まで挙上し保持させた。下肢伸展挙上は背臥位で非挙上側の股関節を屈曲45°とし,挙上側の膝関節を伸展位で踵が床から30cmになるまで挙上し保持させた。測定条件は,コルセットを装着しない条件(以下,コルセットなし条件)とコルセットを装着した条件(以下,コルセット条件)との2条件とし,装具はダーメンコルセット(以下,コルセット)を使用した。筋活動量の測定には表面筋電計(Vital Recorder2:キッセイコムテック株式会社製)を用い,サンプリング周波数は1000Hzとした。測定筋は右側の腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,胸部脊柱起立筋,腰部脊柱起立筋,腰部多裂筋とした。得られた筋電波形は筋電図の解析ソフト(BIMUTAS2: キッセイコムテック株式会社製)を使用し,バンドパスフィルター(10 ~ 500 Hz)処理を行った後,全波整流し,中間3秒間の平均積分筋電値(IEMG)を求めた。各測定筋について, MVC時のIEMGで正規化し%MVCの値とした。統計はSPSS ver. 16.0 を用い,Wilcoxsonの符号付き順位検定を用いて比較した(p<0.05)。【倫理的配慮、説明と同意】 被験者全員に対し本研究について十分な説明を行い,同意を得た。【結果】 (コルセットなし条件,コルセット条件)の順で数値を示す。ブリッジの内腹斜筋(6.2±7.4%,4.2±4.0%)では,コルセット条件がコルセットなし条件に対して有意に筋活動量の低下を示した。その他の5筋は有意差を示さなかった。また同側の下肢伸展挙上の腹直筋(7.1±3.5%,5.1±2.3%)と内腹斜筋(27.9±17.9,25±16.3)でコルセット条件がそれぞれコルセットなし条件に対して有意に筋活動量の低下を示した。その他の4筋は有意差を示さなかった。【考察】 内腹斜筋の活動は,コルセットの使用によりブリッジ,同側の下肢伸展挙上において有意に低値を示した。これは内腹斜筋の鼡径靭帯からの線維が関与していると考えられる。この筋線維は腸骨と仙骨に圧迫を加え,仙腸関節の剛性を高めるように作用する。Snijdersらは,足を組んだ座位姿勢では足を組まない座位姿勢と比べ仙腸関節の圧迫力を強め,骨盤の安定化を代償し内腹斜筋の活動が低下することを報告している。本研究でも,コルセットの使用により受動的に仙腸関節の圧迫力が働いたと考える。これにより仙腸関節の安定化が図られ,内腹斜筋の働きが代償されたために筋活動量が低下したと考える。また,同側の下肢伸展挙上ではコルセット条件で腹直筋の活動量も低下した。下肢伸展挙上の主動作筋である腸骨筋,大腿直筋,長内転筋は,下肢挙上時に骨盤を前方回旋させるトルクを発揮する。これを阻止するために腹直筋や対側の大腿二頭筋が働くことで骨盤の前方回旋を防止する。しかし,コルセット条件では,コルセットが上前腸骨棘から肋骨弓までを覆うことにより,骨盤の前方回旋に対してコルセットが拮抗するように働き,骨盤の前方回旋を阻止する腹直筋の活動量が低下したと考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究より,腰部安定化運動中の体幹筋活動はコルセット使用で内腹斜筋の活動量が低下することが示された。このことから腰部術後など急性期でコルセットの使用が余儀なくされる場合ではコルセットを装着していない時よりもより頻回に腰部安定化運動を行い,ローカル筋群の賦活を促していく必要性が示唆された点で意義がある。
著者
末廣 忠延 石田 弘 小原 謙一 藤田 大介 大坂 裕 渡邉 進
出版者
日本ヘルスプロモーション理学療法学会
雑誌
ヘルスプロモーション理学療法研究 (ISSN:21863741)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-33, 2018

<p>【目的】目的は健常者と慢性腰痛者における腹臥位での股関節伸展運動時の筋活動量を比較することである。【対象】対象は健常成人20名と慢性腰痛者20名とした。【方法】筋活動の測定は表面筋電計を使用し,被験筋は対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,多裂筋,同側の大殿筋,ハムストリングスとした。被験者は腹臥位となり膝を伸展位で股関節を伸展10°に保持した際の筋活動量を測定した。群間の筋活動量の比較にはMann-Whitney のU 検定を使用した。【結果】大殿筋の活動は,健常者に比較して慢性腰痛者で有意に高値を示した。他の筋については有意差を認めなかった。【考察】慢性腰痛者は股関節伸展時に健常者よりも高い大殿筋の活動を示すことが明らかとなった。この原因としては,大殿筋の筋力低下や股関節伸展側の骨盤の水平面上での腹側への回旋が生じた状態で股関節を伸展したことが要因として考えられた。</p>
著者
末廣 忠延 水谷 雅年 石田 弘 小原 謙一 大坂 裕 高橋 尚 渡邉 進
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】腹臥位での股関節伸展運動(Prone hip extension:以下,PHE)は,腰椎骨盤の安定性の評価としても使用され,股関節伸展に関与する筋活動のタイミングや腰椎骨盤の過剰な動きの有無が検査される。PHE時の筋活動の開始時間を調査した先行研究は,健常者を対象とした腰部多裂筋,脊柱起立筋,大殿筋,ハムストリングスを被験筋としているが,一致した結果が得られていない(Vogtら1997,Lehmanら2004)。また腰痛者でのPHE時の筋活動を調査した研究においては,健常者と比較して大殿筋の活動開始の遅延や広背筋の過剰な活動が報告されている(Brunoら2007,Kimら2014)。このように腰痛者においてPHE時の後斜走スリングを担う大殿筋,広背筋は,健常者と異なる筋活動パターンを示す。しかしながら,PHE時の広背筋の活動開始時間について調査した研究はなく,PHE時の正常な広背筋の活動開始時間は不明となっている。そこで本研究は,PHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間を明らかにすることで腰椎骨盤の安定性のメカニズムを解明することを目的とした。【方法】対象は健常男性20名(平均年齢23.4±4.0歳,身長168.9±8.4cm,体重61.2±11.0kg)とした。筋活動の測定は表面筋電計Vital Recorder 2(キッセイコムテック社製)を用い,被験筋は,対側の広背筋,両側の脊柱起立筋,両側の多裂筋,股関節伸展側の大殿筋と大腿二頭筋とした。測定肢位は,リラックスした状態で両上肢は体側とし,足関節以遠をベッド端から出した腹臥位とした。また頸部は,被験者の前方に設置したLEDライトが見えるようにわずかに頸部を伸展した。被験者は,光信号に反応して可能な限り速く,膝を伸展したまま股関節の伸展を実施し,その際の筋活動を測定した。なお,股関節を伸展する足は,非利き足とし,測定は3回実施した。筋活動開始時間の決定は,安静時の筋活動の平均振幅の2標準偏差を超える点とし,データ分析には,各筋がフィードフォワード活動であったかを検出するために,各筋の開始時間と大腿二頭筋の相対的な差を分析した。各筋の相対的な活動開始時間を求める式は,各筋の筋活動開始時間-大腿二頭筋の活動開始時間で算出した。従って,負の値は,その筋が大腿二頭筋の前に活動したことを示す。統計学的解析では,統計解析ソフトSPSS 22.0(IBM社製)を用い,反復測定分散分析とTukeyの多重比較検定を実施し,各筋の相対的な筋活動開始時間の差を検出した。なお,危険率は5%未満とした。【結果】相対的な筋活動開始時間は,同側多裂筋(-3.8±9.2 ms),対側多裂筋(7.0±13.5 ms),対側の腰部脊柱起立筋(8.3±14.1 ms),同側の腰部脊柱起立筋(22.6±21.6 ms),対側の広背筋(24.5±26.1 ms),大殿筋(51.6±57.9 ms)の順であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。また同側の腰部多裂筋は同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも有意に速く活動した。【考察】フィードフォワード活動は,主動作筋の筋活動開始の100ms前から50ms後と定義される(Hodgeら1997)。そのため本研究のすべての体幹筋は,フィードフォワードの活動であった。すべての体幹筋は,大殿筋よりも有意により速く活動した。これは,大殿筋が働く前に体幹を安定化させるためだと考えられる。また同側の多裂筋の活動は,同側の腰部脊柱起立筋,対側の広背筋,大殿筋よりも早期に活動した。これは,PHE時に多裂筋が最も早期に活動したとするTateuchiら(2012)の結果と類似している。彼らは,多裂筋の活動開始が遅延すると骨盤の前傾角度が増加すると報告している。また腰部多裂筋は,腰椎の分節的な安定性に関与すると報告されている(Richardsonら2002)。これらのことから本研究で多裂筋が早期に活動したことは,股関節が伸展する前に腰椎の分節的な安定性を増加させるために生じたと考えられる。対側の広背筋の活動は,大殿筋よりも早期に活動した。骨盤の安定性は,広背筋,胸腰筋膜,大殿筋の後斜走スリングの筋膜などによって担っている。そのため広背筋が早期に活動したことは,大殿筋が活動する前に胸腰筋膜の緊張が高まり,大殿筋の活動開始時に効率よく骨盤部の安定性が高められたと思われる。【理学療法学研究としての意義】健常者におけるPHE時の体幹・股関節伸筋群の活動開始時間が明らかとなった。本研究の結果をPHEの正常運動の基礎的資料とし,今後,腰痛を持つ者との差を検討することにより腰痛者の理学療法に寄与できる点で意義がある。
著者
山内 正雄 末廣 忠延 西尾 祐二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P2010, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】肩腱板損傷は、理学療法の臨床現場において比較的発生頻度の高い整形外科疾患である.今回我々は、肩腱板損傷にて肩甲上腕関節の関節可動域制限により、著しく日常生活動作に制限をきたした患者に対するManual therapyを経験した.そこで、その経過を報告するとともに、若干の考察を加えて報告する.【症例】45歳、女性.2008年5月頃に、誘因なく肩関節の可動域制限を認めた.放置していたが夜間痛のため背臥位で眠れなくなり、6月に当院を受診し左肩関節周囲炎と診断され、物理療法と理学療法を開始となる.一般的な理学療法を施行していたが、左肩関節可動域の悪化が認められ、肩関節造影により左肩腱板損傷の診断となりManual therapy開始となった.症例には当発表について説明し、同意を得ている.【理学的評価】左肩関節可動域は、屈曲50度、伸展-10度、外転30度、外旋-50度、内旋60度であった.運動の大半は肩鎖関節と胸鎖関節と体幹で行われ、肩甲上腕関節の動きはほとんど認められなかった.ゼロ肢位にすると肩甲骨が下方回旋し内側縁が浮き上がった.左右の肩甲骨を同じ位置に保持すると、肩甲上腕関節は屈曲30度、水平内転50度、内旋60度の位置になった.肩甲上腕関節のJoint playはHypomobile、End feelはLess elastic、Impingement signは陽性、大円筋、肩甲下筋、大胸筋の内旋筋群の短縮と棘上筋と上腕二頭筋に圧痛を認めた.【経過】9月4日よりManual therapyを開始した.当初は週に3回、肩甲骨をベルトで固定し肩甲上腕関節屈曲・外転・伸展に内・外旋を加えた最大可動域でのTraction、大胸筋・上腕二頭筋のマッサージと筋のストレッチを行った.Joint playと関節可動域が少し改善した9月10日から、肩甲上腕関節屈曲・外転・伸展に内・外旋を加えた亜最大可動域でのGride、肩甲骨付着筋のマッサージと筋のストレッチを加えて行った.10月下旬には、結滞と洗髪動作が困難なものの、それ以外の日常生活動作は可能になった.【考察】肩関節周囲炎や肩腱板損傷によって肩関節に可動域制限を生じた場合、肩関節のどの部位で可動域制限があるのかを評価しないで、上腕骨という長い梃子を用いた一般的な徒手的関節可動域訓練や棒体操が多く行われている.しかし、肩関節は肩甲骨・上腕骨・鎖骨等で構成される複合関節であるため、肩甲上腕関節の著しい可動域制限があった場合に、長い梃子を用いて可動域改善訓練を行うと、肩鎖関節の関節包が伸張されHypermobileとなり可動域が改善したようにみえることが少なくない.しかし実際には、肩甲上腕関節の可動域はほとんど改善されていないだけでなく、肩鎖関節が不安定になってしまう.肩甲骨をベルトや楔等でしっかり固定することで、肩鎖関節のHypermobileを予防し肩甲上腕関節だけの動きを改善する必要性があると考える.