著者
武地 一 山田 裕子 杉原 百合子 北 徹
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.207-216, 2006-03-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
42
被引用文献数
5 5

目的: もの忘れ外来通院中のアルツハイマー型痴呆症 (AD) 患者における行動・心理学的症候 (BPSD) として捉えられる周辺症状と中核症状である認知機能障害, および介護負担感との関連を明らかにする. 方法: もの忘れ外来通院中の46組のAD患者・家族介護者を対象とした. BPSDの調査には Cummings らにより開発された Neuropsychiatry Inventory (NPI) を用い, Teri らの研究を参考に下位領域として記憶に関する症候を加えた. 認知機能の評価にはMMSE, word fluency, 時計描画テスト等を, 介護負担感の測定には Zarit 介護負担尺度および抑うつ尺度CES-Dを用いた. 結果: BPSDとして記憶に関する症候, 無為, うつ, 妄想, 興奮, 不安が多く見られ, 特に記憶と無為に関しては幅広い症状が高頻度に見られた. BPSDは介護負担感に強い影響を与えており, 中でも不安, 興奮, 異常行動が介護負担感に強い相関を示すことが明らかとなった. MMSE以外の認知機能得点の低下およびADL低下も Zarit 介護負担尺度と有意な相関を示したが, 多変量解析ではNPIのみが有意に関連していた. 一方, 介護者の抑うつ度は患者の近時記憶低下と関連が深い可能性が示唆された. BPSDと認知機能との関連では妄想, 無為がMMSEの低下と関連すること等, 認知機能の低下とBPSD悪化に関連が示されたが, 質問項目ごとの詳細な検討により記憶, うつに関する症候についてはむしろ認知機能が高い患者に多い項目もあることが示された. 結論: もの忘れ外来通院中のAD患者のBPSDや認知機能障害の詳細な項目まで検討することにより, 介護家族負担感や抑うつとの間や患者要因相互の間に様々な関係があることが明らかになった. このような関係を把握することにより, 効果的な病態評価と援助が行えるものと思われる.
著者
杉原 百合子 武地 一 山本 晃輔 岩崎 陽子 横光 健吾
出版者
同志社女子大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2019-10-07

健常な高齢者あるいはMCIの段階からの、効果的・実用的な認知症予防プログラム開発が、わが国のみならず世界的にも喫緊の課題である。本研究では、①日本・スウェーデン共同で「嗅覚感応デジタルデバイスゲームを応用した認知症予防プログラム」を開発すること、②開発した認知症予防プログラムの高齢者に対する効果を縦断的に測定すること、を目的とする。そのために、スウェーデンで構築されている「嗅覚ゲーム」の研究チームに、日本から認知症診療・ケアを専門とする医学・看護学の研究者および「嗅覚」を専門とする研究者グループが参画し、認知症の人の特性等を考慮した予防プログラムの開発及び効果測定に主導的な役割を果たす。
著者
松本 泰章 中川 晶 小林 剛史 山本 晃輔 岩崎 陽子 真板 昭夫 杉原 百合子
出版者
嵯峨美術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、アーティストと美学研究者が精神医学・高齢者看護・心理学各分野の研究者とともに学際的研究体制を構築し、高齢者のための匂いのアートを使った記憶想起と、それに伴う発話行為の効果を計測し、高齢者の感情の活性化、発達課題の達成、さらには認知機能維持・向上に資することを目指す。既に本メンバーは先行する「なつかしさを喚起する匂いのアート研究」で成果を上げており、この研究体制と問題を引き継ぐ形で回想法の構築へと発展させる。匂いのアートを用いた回想法で、現代の超高齢社会の問題解決に資する実践的アート研究を実施する。
著者
山縣 恵美 渡邊 裕也 木村 みさか 桝本 妙子 杉原 百合子 小松 光代 岡山 寧子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.369-379, 2020-06-15 (Released:2020-07-02)
参考文献数
33

目的 高齢者の閉じこもり予防および改善の支援に向けて,地域在住自立高齢者を対象とした体力測定会に参加した者の2年間の閉じこもりに関する状態の変化とその関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 亀岡市10地区の高齢者6,696人に対し2011年7月に日常生活圏域ニーズ調査(以下,ベースライン調査)を実施し,その回答者に2012年3~4月に体力測定会を開催し1,379人が参加した。この1,379人に対し2013年9月に再度体力測定会の案内を郵送し,参加を希望した638人に質問紙調査(以下,追跡調査)を実施した。本研究の対象者は,両調査で閉じこもり関連項目に回答した522人とした。分析には,ベースライン調査より基本属性,日常生活状況,健康状態,基本チェックリスト,生活機能に関する項目を,追跡調査より閉じこもりに関する項目を用いた。閉じこもりは,基本チェックリストの2項目のうち,1項目以上該当したか否かで評価した。両調査から,1) 非閉じこもりであった者が,そのまま非閉じこもり(非閉じこもり維持群)であったか,閉じこもり項目に該当(閉じこもり移行群)したか,2) 閉じこもり項目該当者が,それを改善(閉じこもり改善群)したか,そのまま(閉じこもり継続群)であったかで対象者を分類した。各群の特性を比較後,ロジスティック回帰分析を行い,閉じこもりに関する状態の変化に関連する要因を明らかにした。結果 ベースライン調査で非閉じこもりであった375人中,非閉じこもり維持群が326人(86.9%),閉じこもり移行群が49人(13.1%)であった。また,閉じこもり項目に該当した147人中,閉じこもり改善群が85人(57.8%),閉じこもり継続群が62人(42.2%)であった。2年後に新たに閉じこもり項目に該当する要因として,社会的役割が低いこと(OR=1.481,CI=1.003-2.185)が,閉じこもり改善の要因として,治療疾患がないこと(OR=14.340,CI=1.345-152.944),知的能動性が高いこと(OR=2.643,CI=1.378-5.069)が選択された。結論 2年間の縦断研究より,非閉じこもりであっても社会的役割の乏しい高齢者への支援の必要性が,また,閉じこもり項目該当者に対しては,治療疾患,知的能動性を考慮した支援の必要性が示唆された。