著者
髙橋 遼 田中 友也 美﨑 定也 杉本 和隆
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11851, (Released:2020-11-20)
参考文献数
20

【目的】人工膝関節全置換術(以下,TKA)後の深部静脈血栓症(以下,DVT)に対する予防が重要である。しかし,DVT の理学的予防法の報告は限られている。本研究の目的は,TKA 後のDVT 予防に対する当日理学療法の効果を検証することとした。【方法】研究デザインは,性にて層別化したランダム化比較試験とした。当院で初回TKA を受けた440 名の患者のうち,適格基準を満たした84 名がPT ケア群と対照群に割りつけられた。PT ケア群は,術後当日に下肢挙上位にて下腿マッサージおよび足関節他動的底背屈運動を同時に実施した。メインアウトカムは,術後翌日のDVT 発生割合とした。【結果】術後翌日DVT の発生割合は,PT ケア群11.9%(5/42 名),対照群40.5%(17/42 名)となり,PT ケア群のほうが有意に減少した(リスク比0.29,p=0.003)。【結論】TKA の術後当日理学療法は,DVT 予防に有効であることが示唆された。
著者
廣幡 健二 古谷 英孝 美﨑 定也 佐和田 桂一 杉本 和隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0207, 2012

【目的】 近年,人工膝関節置換術後症例の術後活動レベルは高くなり,日常的移動手段として自転車を利用するだけで無く,余暇活動として荒地以外でのサイクリングも許容されている.当院でも術後に自転車を日常移動手段として求め,利用する症例は多いが,その一方で自転車駆動困難な症例も存在する.自家用の自転車やトレーニング用の固定式自転車において駆動時に必要な術肢膝関節可動域については調査されていない.本研究では,人工膝関節置換術患者の自転車エルゴメータ(cycle ergometer;CE)駆動時おける膝関節屈曲角度を駆動条件毎に調査し,自転車駆動動作の可否を決定する一つの判断基準を作成することを目的とした.【方法】 当院にて2011年6月~2011年9月の期間に片側Total Knee Arthroplasty(TKA)または片側Unicompartmental Knee Arthroplasty(UKA)を施行した症例を対象とした.その他整形外科疾患,中枢神経系疾患の既往を有する者は除外した. 測定項目はCE駆動時膝屈曲角度,CE駆動時自覚的快適度,他動的膝ROMとした.CE駆動時膝屈曲角度の測定にはデジタルインクリノメータ(日本メディックス,デュアラーIQ)を用いた.CEのサドルの位置は,乗車時に1)下死点のペダル上に足部を置き膝15°屈曲となる高さ,2) 膝15°屈曲・足関節最大底屈位にて前足部(MP関節より遠位)が床面に接地する高さ,の2段階とした.ペダルに対する足部の位置は,a)下腿長軸延長線上の踵骨とb)MP関節との2段階とした.上記のサドルと足部の位置を変えた4条件[1-a,1-b,2-a,2-b]にて測定を行った.駆動動作において対象には体幹,骨盤帯での代償動作を行わないように指示し,駆動中の膝最大屈曲角度を測定した.代償動作が著明または駆動困難な場合は,測定を中止した.CE駆動時自覚的快適度は各条件において,「不快」~「快適」4段階のリッカート尺度を用いて聴取した.他動的膝屈曲ROMは背臥位にてゴニオメータを用いて測定した.自覚的快適度から対象を快適群と不快群に分け,その2群の基本属性と各測定項目に対し記述的統計処理を行った.また他動的膝屈曲ROMに対するCE駆動時膝屈曲角度を%ROM(CE駆動時膝屈曲角度/他動的膝屈曲ROM*100)として算出した.【倫理的配慮、説明と同意】 倫理的配慮として,東京都理学療法士会の倫理審査委員会に倫理審査申請書を提出し承認を得た(承認番号:11東理倫第1号).対象者には事前に研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】 対象は16名(男性4名,女性12名,平均年齢72.4歳,平均術後経過日数58.6日)で,術式はTKA7名,UKA9名であった.全対象の術肢膝屈曲ROMは平均118±10°であった.各条件における測定可能人数とCE駆動時膝屈曲角度は1-a)で16名,79±5°,1-b)14名,90±1°,2-a)13名,91±7°,2-b)10名,104±5°であった.各条件における快適群の人数と,その対象の術側他動的膝屈曲ROM [平均±標準偏差(最小値)]は1-a)で15名,119±10°(105°)であり,1-b)13名,120±9°(110°),2-a)12名,122±8°(110°)で2-b)では快適群2名,不快群8名であり,快適群で133±4°(130°),不快群で119±7°(110°)であった.%ROMは条件1-a),1-b),2-a)の快適群では順に66%,75%,75%であり, 2-b)において快適に駆動できた対象は78%,不快群では87%と高値を示した.【考察】 今回の4つの測定条件では1-a),1-b),2-a),2-b)の順でCE駆動時膝屈曲角度は増加していた.算出した%ROMが75%程度であれば快適にCE駆動が可能であり,90%近くなると不快であった.自転車利用を検討するには,他動的膝屈曲ROMだけでなく,機能的な駆動時の膝屈曲可能ROMを考慮する必要が考えられ,これについては今後も検討が必要である.自転車利用においてサドル高は「両足が地面につく高さ」が推奨されており,今回の結果では条件2-a)にあたる駆動環境が安全性と快適性に優れているのではないかと考えられる.自転車利用困難なTKA,UKA術後患者に対し安全な自転車駆動を達成させるためには,過度なサドル高の調整だけでなく,足部の位置に対する指導も膝関節機能を補う有効な生活指導となると考えられる.【理学療法学研究としての意義】 人工膝関節術後の症例に対し,適切な自転車駆動方法を指導することは,術後QOLや患者満足度の向上につながると考える.
著者
杉本 和隆 高西 優子 今井 光信 木村 和子
出版者
日本エイズ学会
雑誌
日本エイズ学会誌 (ISSN:13449478)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.23-30, 2005

目的: 日本は他の先進諸国に比べ推定国民HIV感染率が低いにも関わらず, 献血のHIV陽性検体出現率は高い. そこで, 諸外国の献血者選定方法, 特にHIV感染リスクを有する者の献血を防止する手法を調査し, 我が国の血液安全対策に資する.<BR>対象及び方法: ベルギー, スイス, 英国, スウェーデン及びカナダの血液サービスを対象に, 文献, 調査書送付及び訪問面接により調査した.<BR>結果: 各国とも無償かっ自発的な献血によって血液を収集している.<BR>対象国に共通して見られた血液の安全性確保の方策は, 次のとおりである: 献血時のHIV/AIDS教育, 教育内容の理解の確認, 証明書による本人確認と献血者情報の管理, 問診表と署名の活用, 面接研修を受けたスタッフによる面接と責任, 並びに献血後の血液使用辞退の申し出の勧奨. 初回献血前に血液センターへのコンタクトを求め, 事前教育や事前検査を行っている国もあった. また, HIV検査を一般の医療機関で受けられ, 医療保険が適用される. 特に, 初回面接を念入りに行っており, 感染リスク行為が献血希望者に具体的に提示されることが, 高い教育効果を上げると思われた.<BR>結論: 対象国では献血希望者に対するHIV/AIDS教育と理解の確認が徹底されている. また, 登録時の本人確認, 面接官の訓練と責任による慎重な面接及び一般のHIV検査の利用しやすさが, 感染リスク保持者の献血の減少に寄与しているものと思われた.