著者
島袋 善夫 植田 真紀 寺島 祥充 寺倉 まみ 橋川 智子 山田 聡 寺嶋 宏曜 市川 朋生 村上 伸也
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.146-161, 2007
参考文献数
95

ヒト歯髄細胞による,グリコサミノグリカンであるヒアルロン酸およびヘパラン硫酸産生に及ぼすFGF-2の影響について検討を行った.矯正による便宜抜去の歯から歯髄を除去し,10%FCSを含むα-MEMにて継代を行い歯髄細胞として実験に供した.Alkaline phosphatase(ALPase)活性はBesseyらの方法に準じて測定し,硬組織形成能はDahlらの方法に準じて解析した.ヒアルロン酸およびヘパラン硫酸量はそれぞれ,ヒアルロン酸結合タンパクを応用した競合法あるいはエライザ法を用いて測定した.各種細胞外基質発現,ヒアルロン酸合成酵素,およびヘパラン硫酸合成関連酵素のmRNA発現はRT-PCR法を用いて解析した.ヒト歯髄細胞は4種のFGF受容体を発現していた.FGF-2は10mmol/lβ-グリセロリン酸と50μg/ml L-アスコルビン酸を加えた石灰化培地にて,長期培養時に上昇するALPase活性および石灰化ノジュール形成を可逆的に抑制した.FGF-2はヒト歯髄細胞によるI型コラーゲン,DMP-1,およびDSPP mRNA発現を抑制した.一方,ヒト歯根膜細胞に対しては,I型コラーゲン発現とPLAP-1の発現を抑制した.III型コラーゲンに対しては両細胞とも変化がなかった.ヒト歯髄細胞はFGF-2刺激を受けてもヘパラン硫酸産生は変化しなかったのに対し,一方,ヒト歯根膜細胞はFGF-2刺激を受けてヘパラン硫酸産生量が増加した.また,ヘパラン硫酸合成関連酵素は両細胞ともFGF-2刺激を受けても変化しなかった.ヒアルロン酸の産生に関しては,ヒト歯髄細胞およびヒト歯根膜細胞ともにFGF-2刺激を受けて,ヒアルロン酸の産生亢進とHAS1およびHAS2 mRNA発現の亢進が認められた.以上のことより,FGF-2はヒト歯髄細胞のプロテオグリカン産生を調節しており,歯根膜細胞のそれとは異なっていることが示唆された.
著者
石川 烈 吉江 弘正 村上 伸也 栗原 英見 和泉 雄一 西原 達次 岡野 光夫
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

現在行われている歯周治療では歯周炎の進行を阻止することにとどまり、歯周炎により破壊された組織を健常な状態に戻す再生治療には至っていない。歯周組織の再生研究は3段階の過程として示すことができる。第1段階は組織再生誘導法と呼ばれる処置で、破壊された歯周組織への上皮の侵入を阻止し、周囲の組織からのその部位への細胞増殖を待ち、定着させる方法である。これに対して第2段階の進歩は単に待つのみではなく、成長因子等を加えることにより積極的に再生を導き出そうとするものである。本研究班では川浪らはBMP-2を、和泉らはGDF-5を、村上らはβ-FGFを用いて研究を進め、それぞれの成果を示しているが、いずれも期待させる成果を得ている。第3段階の進歩は再生を導く歯周組織細胞を欠損部に直接用い、更に確実に再生を導こうとする研究である。即ち自己細胞移植を軸とした組織工学を応用した新しい歯周組織再生治療法を世界に発信することである。栗原らは骨髄からの間葉系細胞を用いて、吉江らは骨膜間葉細胞を用い、五味らは歯髄細胞を用い、大石らはヘルトビッヒ上皮鞘細胞を用い、太田らは自己増殖細胞歯根膜組織を用いてその再生機構を追求した。石川らは岡野の開発した温度応答性培養皿を用い、ヒト歯根膜細胞のシートを用いた歯周組織の再生を試みた。この結果、自己歯根膜シートを歯周組織欠損部に移植することにより、ほぼ完全なセメント質とシャーピー線維を伴う歯周組織の再生が得られることを見出した。渡辺はその臨床応用を可能にするCPCを構築した。基礎研究として小方らは石灰化機構に重要な役割を果す骨シアロタンパク質の転写促進機構を明らかにし、西原らはムコ多糖類のコンドロイチン硫酸の破骨細胞分化抑制機構を明らかにした。これらの研究は2回にわたって研究成果報告会として発表され、公開された場で充分な討議を行い、真の再生治療への可能性が高まった。