著者
宮崎 さやか 山田 静雄 東野 定律 渡邉 順子 水上 勝義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.301-311, 2019-07-25 (Released:2019-07-31)
参考文献数
27

目的:高齢者の排尿障害にはポリファーマシーが関連すると言われているものの,ポリファーマシーによる排尿障害のリスクに,薬剤数あるいは種類のいずれが影響するのかは明らかではない.また薬剤と排尿障害の関連について,尿失禁のタイプ別に検討した報告はきわめて少ない.本研究では,これらの点を明らかにすることを目的とした.方法:在宅医療受療中の65歳以上で要介護1~5いずれかの認定を受け,処方薬5剤以上,抗がん剤による加療を受けていない者を対象とし,訪問看護ステーションに質問紙調査の回答を依頼した.また,排尿チェック票を用い排尿症状を判別した.結果:167名(女性97名,男性70名,平均年齢83.8歳)を分析対象とした.5~9剤処方が59.3%,10剤以上が40.7%であり,男性の10剤以上で,排尿障害のリスクに有意傾向を認めた.排尿障害と薬剤の種類の関連については,女性の場合,腹圧性尿失禁では,αアドレナリン受容体拮抗薬が,切迫性尿失禁ではベンゾジアゼピン系薬剤が有意なリスクであることが示された.機能性尿失禁では,αアドレナリン受容体拮抗薬が有意なリスク低下を認め,コリンエステラーゼ阻害薬は有意なリスクであることが示された.αアドレナリン受容体拮抗薬とベンゾジアゼピン系薬との併用で,腹圧性および切迫性尿失禁のリスクはそれぞれ単剤投与時より高値を示した.またαアドレナリン受容体拮抗薬とコリンエステラーゼ阻害薬の併用で,腹圧性尿失禁のリスクが著明に高まることが示された.男性ではいずれの排尿障害に対してもリスクとなる薬剤は抽出されなかった.結語:本研究結果より,薬剤による排尿障害には男女差がみられる,排尿障害のタイプによって関連する薬剤が異なる,リスクのある薬剤の併用によりリスクが著明に高まるなどの可能性が示唆された.
著者
大夛賀 政昭 筒井 孝子 東野 定律 筒井 澄栄
出版者
静岡県立大学経営情報学部
雑誌
経営と情報 : 静岡県立大学・経営情報学部研究紀要 (ISSN:09188215)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.65-76, 2011-11

現在、政策的にその構築が推進される地域包括ケアシステムでは、住み慣れた住居での生活を支えるためのケアサービスを提供するシステムが求められている。 しかし、これまでの研究においては、家族介護者によるケアの代替やレスパイトケアの必要性を定性的に把握した研究成果はあるものの、実際に家族介護者が提供したケア時間が計測されたデータを用い、さらに、これを認知症の有無別に提供時間や時間帯の分析結果から検討した研究はほとんどない。 そこで、本研究においては、在宅要介護高齢者を対象とした1週間の自記入式タイムスタディ調査データを用いて、家族が提供したケアの内容とその時間帯別の提供時間と、ケア提供の日内変動に着目した分析を認知症の有無別に実施した。 研究の結果、認知症あり群では、食事やBPSDへの対応に関する 「身の回りの世話」 や医療的処置や巡視・観察という 「専門的な治療・処置」 のケア提供時間がなし群より長く、時間帯別分析からは、認知症あり群は、なし群と比較して、ケア発生割合が夜間も高い傾向が示された。 これらの結果からは、認知症の要介護高齢者に対しては、とくに夜間の身体介護ニーズや医療的ニーズに対する定期訪問やBPSDの発現への随時訪問といった24時間巡回型サービスを組み合わせた支援の必要性が示唆された。\\nThe community-based integrated care system currently promoted by the Japanese government was designed to enable users to stay in a familiar setting by providing integrated home care services. However, even though some studies have focused on the necessity to provide support and respite care to family caregivers, very few studies are providing data concerning the caring time actually spent by family caregivers, and even less are making a distinction between demented and non-demented persons.This research is based on data collected during a week through a self-reported time study conducted on elderly persons in need of care and staying at home. A data analysis was conducted to identify separately for demented and non-demented persons the content of care provided by family caregivers, the time spent to care, the corresponding time period, and the daily fluctuations in care provision.Results showed that the time spent to provide personal care, which includes meals and care for BPSD, as well as the time spent by specialist to provide medical care and routine visit services, was longer for demented persons than for non-demented persons. Besides, the analysis of time periods showed that care was provided more often to demented persons and more frequently at night.These results reveal the need to provide special care to demented persons that combines routine visit services at night to cover medical and nursing care needs, as well as nursing care services that can also be provided at night when BPSD are manifesting and around the clock home visit services.
著者
筒井 孝子 大夛賀 政昭 東野 定律 山縣 文治
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.29-40, 2012

本研究の目的は,児童自立支援施設において小規模ケアおよび家庭的養育を具現化してきた小舎夫婦制と交代制によって提供されたケアの内容および時間,ケアに関わる職員の負担感に関する実証的データを比較し,これらのケア提供体制の特徴を明らかにすることである.その方法として,児童自立支援施設2施設において,他計式1分間タイムスタディ調査データを用いての分析を行った.研究の結果,小舎夫婦制の入所児童の情緒・行動上の障害の程度は,交代制より比較的重く,また,提供されたケア内容は身の回りの世話に関するケア時間が長かった.さらに,小舎夫婦制での提供時間は交代制よりも長かったが,交代制に比較すると負担感は軽かった.今後は,すでに運営が困難となっている小舎夫婦制に変わる新たな体制を模索するとともに,すでに実施されている交代制においても人事マネジメント等のあり方を改めて検討する必要があると考えられた.
著者
東野 定律 木村 綾 岩本 真弓 堤 悠香
出版者
静岡県立大学経営情報学部
雑誌
経営と情報 : 静岡県立大学・経営情報学部研究紀要 (ISSN:09188215)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.31-41, 2018-03

本研究では、 静岡県内の介護事業所に行った調査結果と現在キャリアパス制度を導入している介護事業所に対するヒアリング調査を行った結果を基に、 キャリアパス制度を導入することで得られる効果、 導入するにあたっての課題を明らかにし、 介護事業所におけるキャリアパス制度の導入と整備に今後必要であると考えられる内容について提示することを目的とした。 分析した結果、 静岡県内の介護事業所において、 人事評価の仕組みや基準を示していない事業所が約4割を占め、 全体の51.4%が職員に人事評価の仕組みや基準が十分に伝わっていないという状況が明らかになった。 また、 キャリアパス制度がある法人では、 職員の行っている仕事やその役割が明確になっており、 賃金にも仕事の評価が反映する仕組みがあることが示された。 さらに、 調査結果から人事評価を行うにあたって問題を持っている事業所については、 時間がないシステムやノウハウがないといった問題の他に、 評価を行う評価者の能力や人材の問題、 職員に対して人事評価基準の重要性に関する認識を持たせることが課題として挙がった。 今後、 長期的に介護人材の確保や定着の推進を図るためには、 介護職員が将来の展望を持って介護の職場で働き続けることができるように、 能力や技術等に応じた公平な能力評価や人事評価が適切になされることが重要であり、 こうしたキャリアパスに関する仕組みを、 介護事業所に導入していく必要があるといえる。