著者
筒井 孝子
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.694-700, 2016-09-18 (Released:2016-10-20)
参考文献数
14
被引用文献数
1

諸外国では,ICFを用いて,多くの社会実験や臨床適応のための研究がなされており,国際的なスタンダードとなるための過程を経つつあると言われている.しかし,このICFを用いた評価は,総コード数が膨大であることや,分類する際の評価の基準が曖昧であるという,きわめて大きな問題があることも指摘されてきた.そこで日本の政策あるいは臨床でICFを活用するためには,どのような方策が必要となるかを考察し,筆者が開発した日本語版ICFコアセットマニュアルの活用可能性とその課題を述べることを目的とした.また本稿では,多様な人々の中から特定の問題を共有する状態像をもった集団を焦点化し,これらの人々の問題解決を図ることを目的として開発されてきたツール「ICFコアセット」に着目し,2013年に日本版ICFコアセットを開発すると共に試行評価を実施した経過を述べた.研究結果からは,ICF利用における検者間信頼性は低く,現時点の状況からは日本国内での実用化を進めるのは困難であることが明らかとなった.今後,わが国で臨床実践のレベルで個別事例の評価ツールとして活用するには,ICFの正確な理解を深めるための研修が必須であると考えられる.またICFによる分類は人の機能や健康や障害の状態や,その社会的自立の状況を分類しつくすという革新的アプローチといえるが,まずはこの分類を利用した具体的なシステムが,開発されることが期待される.
著者
大夛賀 政昭 筒井 孝子 東野 定律 筒井 澄栄
出版者
静岡県立大学経営情報学部
雑誌
経営と情報 : 静岡県立大学・経営情報学部研究紀要 (ISSN:09188215)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.65-76, 2011-11

現在、政策的にその構築が推進される地域包括ケアシステムでは、住み慣れた住居での生活を支えるためのケアサービスを提供するシステムが求められている。 しかし、これまでの研究においては、家族介護者によるケアの代替やレスパイトケアの必要性を定性的に把握した研究成果はあるものの、実際に家族介護者が提供したケア時間が計測されたデータを用い、さらに、これを認知症の有無別に提供時間や時間帯の分析結果から検討した研究はほとんどない。 そこで、本研究においては、在宅要介護高齢者を対象とした1週間の自記入式タイムスタディ調査データを用いて、家族が提供したケアの内容とその時間帯別の提供時間と、ケア提供の日内変動に着目した分析を認知症の有無別に実施した。 研究の結果、認知症あり群では、食事やBPSDへの対応に関する 「身の回りの世話」 や医療的処置や巡視・観察という 「専門的な治療・処置」 のケア提供時間がなし群より長く、時間帯別分析からは、認知症あり群は、なし群と比較して、ケア発生割合が夜間も高い傾向が示された。 これらの結果からは、認知症の要介護高齢者に対しては、とくに夜間の身体介護ニーズや医療的ニーズに対する定期訪問やBPSDの発現への随時訪問といった24時間巡回型サービスを組み合わせた支援の必要性が示唆された。\\nThe community-based integrated care system currently promoted by the Japanese government was designed to enable users to stay in a familiar setting by providing integrated home care services. However, even though some studies have focused on the necessity to provide support and respite care to family caregivers, very few studies are providing data concerning the caring time actually spent by family caregivers, and even less are making a distinction between demented and non-demented persons.This research is based on data collected during a week through a self-reported time study conducted on elderly persons in need of care and staying at home. A data analysis was conducted to identify separately for demented and non-demented persons the content of care provided by family caregivers, the time spent to care, the corresponding time period, and the daily fluctuations in care provision.Results showed that the time spent to provide personal care, which includes meals and care for BPSD, as well as the time spent by specialist to provide medical care and routine visit services, was longer for demented persons than for non-demented persons. Besides, the analysis of time periods showed that care was provided more often to demented persons and more frequently at night.These results reveal the need to provide special care to demented persons that combines routine visit services at night to cover medical and nursing care needs, as well as nursing care services that can also be provided at night when BPSD are manifesting and around the clock home visit services.
著者
筒井 孝子 大夛賀 政昭 東野 定律 山縣 文治
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.29-40, 2012

本研究の目的は,児童自立支援施設において小規模ケアおよび家庭的養育を具現化してきた小舎夫婦制と交代制によって提供されたケアの内容および時間,ケアに関わる職員の負担感に関する実証的データを比較し,これらのケア提供体制の特徴を明らかにすることである.その方法として,児童自立支援施設2施設において,他計式1分間タイムスタディ調査データを用いての分析を行った.研究の結果,小舎夫婦制の入所児童の情緒・行動上の障害の程度は,交代制より比較的重く,また,提供されたケア内容は身の回りの世話に関するケア時間が長かった.さらに,小舎夫婦制での提供時間は交代制よりも長かったが,交代制に比較すると負担感は軽かった.今後は,すでに運営が困難となっている小舎夫婦制に変わる新たな体制を模索するとともに,すでに実施されている交代制においても人事マネジメント等のあり方を改めて検討する必要があると考えられた.