著者
古岡 秀文 長谷川 光 古林 与志安 松井 高峯
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.557-560, 1999-05-25
参考文献数
13
被引用文献数
1

北海道の十勝地方に繁養されていた14歳の雄のアラブ種を, 下位運動ニューロンの系統変性疾患である馬運動ニューロン病(EMND)と病理学的に診断した. 検索馬の脊髄腹角には, EMNDに特徴的な神経細胞の好酸性細胞質内封入体を伴う変性腫脹や軸索腫大が観察された. 末梢神経の検索では, ときに大食細胞の浸潤を伴う髄鞘崩壊からなるWallerian型の軸索変性が頻繁に観察された. また, 電子顕微鏡学的に神経細糸の蓄積からなる薄い髄鞘に被われた軸索腫大もしばしばみられた. 神経線維のときほぐし標本では, 髄球を伴う髄鞘崩壊, 分節性の脱髄や軸索腫大が観察された.
著者
松井 高峯 牧野 壮一 石黒 直隆
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

羊のスクレイピー、牛の海綿状脳症(BSE)、およびクロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)に代表される伝達性海綿状脳症(プリオン病)の病原体(プリオン)は病原体特異的な核酸を持たないことから、遺伝子型別および抗原型別は病原体型別には応用できない。しかしプリオンは生物学的性状あるいは生化学的性状によりある程度区別可能である。そこで本研究では、日本の羊スクレイピーの病原体に多様性("株")が存在するか否かを明らかにするための一連の実験を行なった。また、プリオンの多様性を規定するPrP以外の宿主の遺伝的要因についても検討を加えた。我が国で過去10年間に日本で発生した羊スクレイピーの11例を選抜し、マウスに接種して伝達性と羊脳内に蓄積したPrP^<Sc>の蛋白質分解処理抵抗性を調べた。その結果、使用した11例のスクレイピーは生物性状および生化学性状の異なる3群に分類された。つまり日本には複数のスクレイピー病原体が存在することが明らかとなった。本研究のような多数の羊スクレイピーを材料としてその性状を詳細に比較検討した研究はこれまでに英国で報告があるのみで、日本では本研究が初めての例である。本研究で得られた成績は、日本に存在するスクレイピー病原体が動物種を越えて牛や人間に感染する危険性を評価するための重要な知見となる。人ではアポリポプロテインE(ApoE)の特定の遺伝子型が、アルツハイマー病の危険因子であり、またCJDの病型に関与することが示唆されている。そこで本研究では、羊スクレイピーにおいてApoEが病型や病原体株の多様性に関与するか否かを検討した。まず羊ApoE遺伝子をクロ―ニングして塩基配列を決定した。次に羊ApoE遺伝子の多型を調べた結果、羊には3種のApoE遺伝子型があることが明らかとなったが、羊ApoE遺伝子の多型とスクレイピー病原体の生物性状および病型に関連は認められなかった。