- 著者
-
松田 厚範
- 出版者
- 豊橋技術科学大学
- 雑誌
- 特定領域研究
- 巻号頁・発行日
- 2007
今年度は、高温相を持たない硫酸水素カリウム(KHSO_4)とリンタングステン酸(WPA)の複合体をミリング処理により作製し、得られた複合体の構造および導電率をCsHSO_<4->WPA系複合体と比較し、ヘテロポリ酸-硫酸水素塩系複合体の構造とプロトン伝導性について検討を行った。χKHSO_<4->(100-χ)WPA複合体の無加湿条件における導電率の導電率は、KHSO_4含量によって大きく変化した。WPA(χ=0)およびKHSO_4(χ=100)の無加湿条件下における伝導性は低く、100℃での導電率はそれぞれ、1×10^<-7>S/cmおよび5×10^<-6>S/cmの値であった。しかしながら、KHSO_4含量が80mol%以上になると、導電率が上昇し、χ=90および95の複合体では、160〜50℃の範囲で1×10^<-2>〜1×10^<-3>S/cmの非常に高い導電率を維持することがわかった。伝導の活性化エネルギーは23kJ/molと見積もられ、先に報告した90CsHSO_<4->10WPA複合体よりも低いことも明らかとなった。超プロトン伝導相を持たないKHSO_4とWPAの複合体が、高温超プロトン伝導相を持つCsHSO_<4->WPA系複合体と同様に、室温から160℃程度の広い温度範囲で高いプロトン伝導性を維持したことから、WPAのケギンアニオンPW_<12>O_<40>^<3->とKHSO_4あるいはCsHSO_4のHSO_4^-アニオンがブレンステッド酸-塩基対の形で水素結合を形成することが導電率の向上に関係していると考えられる。以上の結果より、中温無加湿条件下で高いプロトン伝導性を示す材料を合成するには、オキソ酸とヘテロポリ酸の間に形成される、水素結合ネットワークを設計することが、本質的に重要であり、必ずしも超プロトン相が関与する必要はないことが実証された。