著者
土屋 哲郎 松田 智明 長南 信雄
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.172-182, 1993-06-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1

ジャガイモ塊茎の維管束の分布と連絡を, 連続切片を作製して光学顕微鏡で観察した. ストロン着生部から塊茎に入った維管束は皮層の外篩部, 維管束環の複並立維管束, 周辺髄の内篩部と分かれる. 皮層の外篩部と維管束環の維管束はいずれも周皮と平行な網状の分岐・連絡をもっており, 周辺髄の内篩部では目 (側芽) に向かう篩部と塊茎の中心方向に向かう篩部とが立体的な網状の連絡をもっている. 維管束環の外篩部と内篩部は, それぞれ皮層の外篩部および周辺髄の内篩部と, いずれも放射方向の連絡をもっている. 周辺髄は射出髄によって地上茎の島状の維管束に対応する房に区切られているが, これらの房は目の基部で互いに分離融合をしている. 急速肥大期の観察によると, 塊茎内各組織のデンプン密度は維管束の分布と関係があり, 皮層と周辺髄の篩部の周囲で特に高く, 維管束の分布しない中心髄では低いことが示された. このような維管束の分布と走向から, 塊茎肥大期における塊茎内での同化産物の転流経路を推定した. また, 塊茎内各組織の維管束の分布とデンプン蓄積の関係について検討した.
著者
服部 優子 松田 智明 新田 洋司
出版者
日本作物学会関東支部
雑誌
日本作物学会関東支部会報 (ISSN:13416359)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.102-103, 2003

平成14年度は北関東の平野部において, 早生および中生品種を中心に精玄米の一部に白色不透明部を有する不完全登熟粒が多発し, 各地で一等米比率および品質の低下問題が生じた. とくに茨城県内では, 土浦市などを含む南部地域での被害が著しく, 北部地域と比較して一等米比率は著しく低下した. これらの要因としては, 高温登熟の影響が考えられているが, その詳細については不明な点が多い. そこで本研究では, 低品質化が目立った茨城県南部産の「コシヒカリ」における不完全登熟粒の胚乳構造を, 福島県産「コシヒカリ」とともに走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した.
著者
大川 峻 松田 智明 新田 洋司
出版者
日本作物学会東北支部
雑誌
日本作物学会東北支部会報 (ISSN:09117067)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.127-128, 2007

これまでに急速凍結-真空凍結乾燥法によって可視化される炊飯米の微細骨格構造のうち、炊飯米の表面に伸展する「細繊維状構造」および内部に認められる「海綿状構造」の網目の発達程度が良食味米の構造的指標となること、また、炊飯に伴って良食味米では細胞壁やタンパク顆粒は分解されるが、低食味米では分解されずに残存することなどを指摘した。本報では、これらの構造的指標を用いて新しい水稲良食味米系統「北陸200号」の微細骨格構造を走査電子顕微鏡レベルで評価した。
著者
高橋 一典 松田 智明 新田 洋司
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.47-53, 2001-03-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
27
被引用文献数
4 4

炊飯に伴うデンプンの糊化についての基礎知見を得るため,1998年産コシヒカリ,きらら397およびタイ米(インド型長粒種,単一銘柄)を供試して,米粒中のデンプン粒の糊化過程を経時的な微細構造の変化として走査電子顕微鏡により詳細に追跡した.炊飯開始後10分(炊飯釜内中央部の温度45.0℃)でコシヒカリではアミ口プラスト包膜の表面から分解が開始された.炊飯開始後15分(51.3℃)には,炊飯開始前に長径で約3~4μmであったデンプン粒は約4.5~5μmに膨潤し,精白米の第1層目の胚乳細胞内のデンプン粒で,表面から繊維状の糊が伸展した.網目状の構造はデンプン粒の表面から内部に向かって形成が進行した.アミ口プラスト内のデンプン粒は互いに網目状構造で融合し,一体化して多孔質の糊となり不定形化した.炊飯開始後20分(98.5℃)には,コシヒカリの米粒の表層部では,きらら397やタイ米と比較して網目の拡大した微細骨格構造が形成された.アミ口プラスト単位で一体化した不定形の糊状構造は,炊飯開始後25分(98.5℃)には,さらに胚乳細胞を単位として一体化するのが認められた.炊飯に伴うデンプン粒の膨潤と網目状構造および不定型の糊状構造の形成は,米粒の表層部ほど早く始まり中央部では遅かった.網目の大きさは米粒の表層部で大型化し,中央部では小型であった.本観察からデンプン粒の糊化とは「緻密」な構造体であるデンプン粒が,その主成分であるアミロペクチンの分子内に氷分子を取り込み,膨潤し,分子密度の低下した構造体に変化することであると考えられた.
著者
原 弘道 松田 智明 月橋 輝男 松田 照男
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.485-497, 1995-12-15
参考文献数
26
被引用文献数
2 4

クリ果実における渋皮組織の発達とタンニンの蓄積過程ならびに渋皮剥皮の難易について形態学的な検討を行った.<BR>1.ニホングリ果実の発育初期における渋皮のタンニンは渋皮細胞の液胞に蓄積されており, 液胞内に顆粒が分散しているもの, 液胞膜に沿って集合しているもの, 液胞内全体の電子密度が高くなっているものおよび液胞がタンニンで埋めつくされているものなどいくつかのタイプが見られたが, 収穫期の渋皮細胞ではほとんどの細胞が多量のタンニンで埋め尽くされていた. タンニンが高密度に蓄積された細胞は渋皮の中央, 外層部分に多く, 子葉に近い細胞のタンニン蓄積は少なかった.<BR>2.渋皮の剥皮には渋皮組織と子葉組織の接着程度によっていくつかの様相がみられたが, 品種に固有の様相は認められなかった.<BR>3.収穫期において渋皮の剥皮が困難であった果実の渋皮は, タンニンの蓄積が多く, 子葉に接する細胞の電子密度が高く, 細胞壁の崩壊が認められた. また, 渋皮と子葉の間には低電子密度のマトリクスと電子密度の高い網目状構造が特徴的に認められた.<BR>4.電子密度の高い部分は子葉表皮細胞壁にも浸潤していたが, これらの構造は, 従来推定されていた渋皮と子葉を接着するタンニン様物質によるものと考えられた.<BR>5.一方, チュウゴクグリの果実は渋皮の剥皮が容易であり, 渋皮が薄く, タンニンの蓄積密度が低く, 子葉に接する細胞の退化は遅かった.<BR>6.これらの観察結果は, 渋皮剥皮の難易が渋皮組織細胞に蓄積されたタンニンの多少だけでなく, 中間層および子葉に接する細胞の退化とも密接に関係していることを示唆している.
著者
新田 洋司 伊能 康彦 松田 智明 飯田 幸彦 塚本 心一郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.315-320, 2008-07-05
被引用文献数
2 3

茨城県産米は従来より,整粒歩合,千粒重,粒厚,1等米比率が低いことが指摘され,改善が要望されていた.そして,茨城県等では2004年から「買ってもらえる米づくり」運動(以下「運動」)を展開している.本研究では,茨城県の作付面積が新潟県についで全国第2位(2004年)である品種コシヒカリについて,千粒重・粒厚と食味関連形質を調査して「運動」目標値等と比較した.そして,それらの形質の相互関係について検討した.調査は,茨城県内各地で品種コシヒカリを化学肥料によって一般的に栽培している20水田を対象とした.育苗,移植,管理,収穫作業等は当該水田管理者の慣行法によった.収穫後,収量および収量構成要素,精玄米の大きさ,食味関連形質等を調査した.収量は330〜617kg/10aの範囲にあった.玄米の粒厚は1.93〜2.02mm の範囲にあり,平均は1.99mmであった.玄米千粒重(20.3〜22.7g)の平均は運動目標値と同じ21.5gであった.玄米の粒厚と千粒重との間には有意な相関関係は認められなかった.一方,精米のタンパク質含有率(乾物重換算で5.3〜7.4%)の平均は6.4%であり,運動目標値よりも低かった.精米のアミロース含有率(18.3〜19.8%)の平均は18.9%であった.精米のタンパク質含有率,アミロース含有率,食味値と玄米千粒重または粒厚との間には,有意な相関関係は認められなかった.以上の結果,比較的千粒重か大きく粒厚が厚い玄米では,精米のタンパク質含有率やアミロース含有率が玄米の大きさに規定されない場合のあることが明らかとなった.また,本研究で用いた2005年茨城県産コシヒカリの食味および食味関連形質は,おおむね良好であったと考えられた.