- 著者
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桐原 健真
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究の目的は、18世紀末から19世紀中葉にかけて「帝国」ということばを用いた日本知識人における自他認識の転回に光をあてることである。「帝国」は古典的な漢語ではなく、18世紀末に蘭学者が、オランダ語keizerrijkから翻訳した新しいことばである。日本知識人の多くは、「帝国」のステータスを、「王国」や「公侯国」といった他のいかなる君主国よりも優越していると考えた。儒学的教養を身につけたこれら知識人は、「皇帝」が他の君主たちよりも優越していることを知っていたので、彼らは、中国古典に見いだせないこの新奇なことばを、たやすく受け容れることができたのである。彼らにとって幸いであったのは、ヨーロッパにおいて刊行された多くの地理書が、「日本は帝国である」と叙述していたことである。翻訳書を含むこれらの書籍おいて、こうした記載を読んだ日本知識人は、日本の優越性と独立性を確信するようになった。日本排外主義が、海外の書籍によって形成されたことは、まことに皮肉であったと言える。