著者
高橋 原 鈴木 岩弓 木村 敏明 堀江 宗正 相澤 出 谷山 洋三 小川 有閑
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

東日本大震災の被災地において、大量死に直面し悲嘆を抱える人々は様々な形で死者の霊の表象と向き合っており、それが「心霊体験」として表現されたときに、宗教者は地域文化や各宗派の伝統を参照しながら臨機応変に対応していることが明らかになった。本研究ではその対応の特徴として、 (1)受容と傾聴、(2)儀礼の提供、(3) 倫理的教育、(4)自己解決(自然治癒)の了解、という諸点を指摘したが、これは、さまざまな支援者が存在する中で、宗教者が担い得る「心のケア」の特質を考える時に貴重な示唆を与えるものである。
著者
相澤 出
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.577-594, 2021 (Released:2022-03-31)
参考文献数
31

本稿では東北地方の過疎地域の家族の変化を,家族の介護に対する向き合い方に着目することによって提示する.地域医療を担い,自らも地域住民である医師と看護師の視点から捉えられた患者と家族の姿は,現代の過疎地域の家族の一面と,過去との差異を鮮明なものとする.検討するのは,宮城県登米市の事例である.先行研究において登米市は,多世代同居の直系家族と同居志向の強さが典型的に見出される地域とされてきた.しかし,登米市の今日の在宅医療の現場での聞き取り調査からは,地域社会や家族のあり方に変化の兆候が確認された.介護負担の増大に対して,介護施設の積極的利用が家族によってなされていた.この地域は在宅医療の担い手や社会資源に恵まれており,医療や福祉の専門職も家族の介護負担を軽減するためのケアに積極的である.こうした条件下で,過去とは違い,同居家族による介護は家族や親族,地域社会のなかで規範的に期待されるものではなくなりつつある.さらに患者や介護に直面する家族は,多様な家族成員や親族のネットワークによって支えられていた.近居や世代間の違いへの配慮の大きさなども,家族や地域に確認された.現代日本の介護をめぐる諸制度は,いまだに同居家族の介護負担を暗黙の前提としている.しかし,典型的に多世代同居が見出されるとされてきた過疎地域の介護現場にも,こうした前提にとらわれないケアや家族の姿が見出されている.
著者
相澤 出
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.39-49, 2016-12-26 (Released:2018-09-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1

地域包括ケアが推進されるなか,特別養護老人ホーム(特養)の看取りへの取り組みが増えている.しかし医師,看護師など医療職の人材不足に悩む医療過疎地域では,特養での看取りが困難な場合がある.宮城県登米市もそうした地域のひとつである.そこで,登米市の地域密着型特養のケアの当事者が,看取りの阻害要因についていかなる認識をもっているかを明らかにするため,聞き取り調査を実施した.聞き取りは,個々の施設ごとの体制や現状,取り組み,看取りの阻害要因として認識している事柄に関するものである.調査から,医療過疎地域や登米市の固有の事情と複合したかたちで,特養の看取りの阻害要因が認識されていたことが明らかになった.今後は看取りのケアを可能にする普遍的な要因の検討に加えて,地域の文脈や個々の特養が置かれた状況を視野に入れたアプローチが,地方における特養の看取りを研究する上で重要となろう.
著者
相澤 出
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.75-78, 2014-07-25 (Released:2015-08-24)
参考文献数
11
著者
相澤 出
出版者
東北社会学会
雑誌
社会学年報 (ISSN:02873133)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.15-25, 2010-07-16 (Released:2014-02-07)
参考文献数
9
被引用文献数
1

病院での死亡率が世界的に見ても大変高い日本にあって,在宅ホスピスケアという選択肢は患者・家族にとって目新しいものである.そのため,選択の是非をめぐって患者・家族は問い直しを続ける.特にその問い直しが生じるのは,病状や家族をめぐる状況の変化が生じた時である.この時,自宅でのケアを継続するか中断するかをめぐる意思決定がなされる.この意思決定は患者,家族の意向だけでなく,様々な他者(患者と家族にとって重要な他者としてのきょうだい,親族,さらには友人知人)の意見にも左右される.加えて,決定の方針も不動のものではなく,状況の変化にあわせて動揺し続ける場合も多い.本稿では,社会学ではほとんど研究がされていない在宅ホスピスケアの現場について事例に即しながら紹介し,患者と家族が在宅での療養生活を選択するプロセス,迷い,決定について,現場では実際にどのような事態が生じているのかを記述する.
著者
相澤 出
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.147-169, 2018-12-28 (Released:2021-11-24)
参考文献数
18
被引用文献数
2

本稿は、症例レベルでの医師の実践、他職種との連携に着目し、医療過疎地域における地域ケアシステムの展開過程と、それを可能にした条件を検討したものである。事例は、宮城県登米市における医師の実践であり、ターミナル期の症例におけるショートステイの活用に注目した。調査から、療養場所の確保が困難な患者への対応に始まり、家族の介護負担の軽減、患者と家族の生活の成り立ちの支援など、多様な事例の経験の積み重ねを通じてショートステイの活用の幅が拡がり、医療過疎地域におけるターミナル期の療養の場のひとつに位置づけられるまでの過程が明らかになった。そこには医師が患者と家族の生活の質(QOL)にこだわりつつ、地元で在宅の看取りを可能にする条件を模索する試みがあった。その模索のなかで、事例が内包した困難があえて引き受けられ、これが契機となり、制度のブリコラージュ的な活用がなされた。これにより、制度の柔軟かつ当地域での前例のない転用というかたちでの創造性の発揮と困難の克服がなされ、そこから多様な事例への適用が進んでいた。同時に、こうしたターミナル期のショートステイの活用を可能にした諸条件も確認された。こうしたケアの現場での創造性の発揮が、地域ケアシステムの自己組織的な形成、機能の向上の契機のひとつとなっている。
著者
相澤 出
出版者
東北社会学研究会
雑誌
社会学研究 (ISSN:05597099)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.85-107, 2017-02-28 (Released:2021-12-18)
参考文献数
13
被引用文献数
1

医療者や医療資源の不足は特別養護老人ホーム(特養)の看取りの阻害要因になりうるが、そうした地域の特養でも、医師や看護師の確保に苦労しつつも、看取りまで手がけるところがある。本稿ではそうした事例である、宮城県登米市の二か所の特養を調査し、医療過疎地域の特養の看取りを可能にする条件を検討した。初めて看取りに取り組んだ事例からは、嘱託医の理解の重要性と、特養側が懐く看取りの不安の克服の過程が明らかとなった。看取りのケアを軌道に乗せた事例からは、それを可能にしたいくつかの条件が見えてきた。すなわち、特養の位置する地域の特性(在宅医療の担い手との連携、地縁血縁の相対的な強さ、地域内で得られた特養と診療所の連携への信頼、地域の文化など)が活かされていること、同時に、医療が支配的にならない地域連携や多職種連携がなされ、職種間での協力と補完が密になるなかで、チームケアが成熟したという点である。
著者
諸岡 了介 相澤 出 田代 志門 桐原 健真 藤本 穣彦 板倉 有紀 河原 正典
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究プロジェクトでは、ケア実践との関連において現代日本における死生観の実態を明らかにすべく、各種の質的調査や、思想史的・宗教史的考察、海外事情の研究といった分担研究を集約しながら、在宅ホスピスを利用した患者遺族を対象とした大規模な調査票調査を実施した。調査票調査では、宮城県・福島県における在宅ホスピス診療所6カ所の利用者2223名に依頼状を送付して、663通の回答が得られた。その分析から、在宅療養時の患者や家族の不安感やニーズの詳細とともに、宗教的関心に経済的・社会的関心が絡み合った死生観の具体相が明らかにされた。