著者
桑木野 幸司
出版者
千葉大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本年度は、三年間の研究作業のまとめとして、資料の最終分析作業を徹底するとともに、過去の分析過程を整理し、論文ないしは著作として発表する作業を中心に行った。まず、16世紀末のフィレンツェで活躍した修道士Agostino Del Riccio(1541-98)が執筆した農業百科全書『Agricoltura sperimentale』(経験農業論)および『Agricoltura teorica』(理論農業論)の手稿を、テキストデータに起こし、校訂版出版に必要な作業および注記を施した。その分析結果をもとに、この農業論中で語られる理想庭園構想の空間を再構築し、そこに見られる百科全書的知識の表象方法が同時代の記憶術やエンブレム文学と強い関連を持つことを指摘し、当時の建築空間の持っていた知的密度の剔抉に成功した。その成果は、『地中海学研究』誌上にて2009年に掲載されることが決定している。また西欧初のミュージアム理論書として知られるSamuel Quiccheberg『Inscriptione vel tituli theatri amplissimi』(1565)の分析をさらに深め、著者が本書で展開する理想ミュージアム空間の構成を再構築したうえで、その中で展覧される百科全書的知識と建築空間との密接な影響関係を明るみに出した。その成果をまとめた英語の論文を、科学史雑誌『NUNCIUS』(Olschki)に投稿中である。さらにやはり16世紀末に執筆された記憶術著作Cosma Rosselli『Thesaurus memoriae artificiosae』(1579)を詳細に分析し、同著で提示される、記憶の基盤として機能するさまざまな仮想空間の特性を分析した。とくに、修辞学の理論と建築空間の構成の通底を明らかにした。その成果は、2009年出版予定の論文集『鈴木博之先生退官記念論文集』に掲載されることが決定している。
著者
桑木野 幸司
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.66, no.540, pp.301-306, 2001
被引用文献数
1

Dominican friar Agostino del Riccio (1541-98) was an ardent gardener who wrote agricultural theses on practical gardening and many other works about natural history. In one thesis, he projected an ideal garden for a sovereign, gathering many elements derived from contemporary gardens. These elements, which contained many natural objects, strongly reflected Riccio's interests about natural history. This study examins his ways of representing the natural world, and identifies parallel ways of representation in contemporary studies of natural history, recently termed Emblematic Natural History by history of science scholars.
著者
桑木野 幸司
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、初期近代のイタリアにおける芸術文化を、領域横断的なアプローチによって、より深く理解することを目的とした。ルネサンス文化が発展し、芸術や文芸、科学、思想の面で人類史上稀に見る成果を生み出したこの時期、テクストとイメージと空間は密接な関連をもって、創造の場面において融合していたが、これまでそうした側面には光があたってこなかった。本研究では記憶術を理論的中心に据えたうえで、百科全書主義やコモンプレイスの伝統、エンブレムやインプレーザといった文字と図像を融合させた領野を分析し、さらにそれらと建築・庭園・都市空間との関わりを考察することで、新たな知見を多数明らかにすることが出来た。
著者
桑木野 幸司
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

初期近代に大流行を閲した知的方法論である記憶術が、単なる情報整理技術にとどまらず、同時代の視覚芸術や建築・庭園学においても様々なかたちで応用されていた点を、トスカーナ大公国を中心とした芸術史の展開を置くことで、具体例に即して示すことに成功した。具体的には、アゴスティーノ・デル・リッチョの理想庭園構想に記憶術が応用されていたこと、そしてコスマ・ロッセッリの提案する記憶ロクスに、ピサのカンポサントの図像が適用されていることを示した。