著者
森下 正康
出版者
和歌山大学
雑誌
和歌山大学教育学部教育実践総合センター紀要 (ISSN:13468421)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.87-100, 2001

今日のいじめや不登校,学級崩壊などの問題行動の背景に,自己制御機能の発達や思いやり,攻撃性の問題が関与していると考えられる。これまで子どもに対する母親の影響について検討してきた。今回は,主として父親の態度がどのような影響を与えるか,さらに父親の態度と母親の態度の組合せパターンが子どもの自己制御機能等の発達にどのような影響を与えるかを検討した。和歌山県下の市部と郡部の計5つの幼稚園と保育園から3,4,5歳児を対象に,担任教師と母親,父親に評定を求めた。子どもについては,自己抑制,自己主張,思いやり,攻撃性の4特性に関して担任教師に評定を求め,養育態度については,受容,統制,矛盾,実権について,母親父親それぞれに自己評定を求めた。すべてのデータがそろった489名について分析した。主要な結果は次の通りであった。(1)男子について,母親が愛情豊かな場合あるいは父親が愛情豊かで統制がゆるやかな場合,思いやりが形成される。女子について,愛情豊かで統制がゆるやかな父親の場合は自己抑制が発達する。それに対して,冷たくて厳しい母親の場合は女子の自己抑制が育たず攻撃性が高くなる。また,冷たくて厳しい父親の場合は女子の思いやりが育たず攻撃性が高くなる可能性がある。(2)母父の態度の組合せパターンについてまとめると次のようになる。両親の暖かい受容的な態度は女子の自己抑制の発達にとって重要である。それに対して,両親の冷たく拒否的な態度は子どもの攻撃性を高める。(3)両親共に統制がゆるやかな場合,女子の自己抑制の発達にプラスの影響を与えるが,男子の自己主張の発達にマイナスの影響を与える。また,母親だけが厳しく統制的な場合は子どもに高い攻撃性を形成させる。(4)両親共に矛盾しない一貫した態度をもっている場合は,男子の自己抑制や自己主張の発達にプラスの影響を与える。(5)自己主張は,男子の場合は父親が,女子の場合は母親が子育ての実権を持っている方が発達する。両親が実権を持っている場合には,男子の自己制御や思いやりの発達に対してマイナスの影響を与える可能性がある。
著者
森下 順子 森下 正康
出版者
和歌山大学
雑誌
和歌山大学教育学部紀要. 教育科学 (ISSN:13425331)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.43-50, 2006-02-28

母と子の相互作用の中で子育てが進行し、母親が子どもに影響するように、母親自身も子どもから影響されると考えられる。本研究の目的は、子ども自身が持って生まれた気質が、母親の行動や養育態度にどのような影響を及ぼすかを検討することであった。3才児をもつ母親475名を対象に、子どもの気質・母親の行動特徴・養育態度について調査を行い428名のデーターを得た。主要な結果は次の通りであった。(1)パニックになりやすい男児の特徴が、母親の激しい感情表出をひきおこすことが明らかとなった。男児は、パニックになった場合、一般的に動きも激しいため、母親も激しく反応してしまうと考えられる。(2)情緒が安定している男児の特徴が、母親の受容的な関わりをひきおこすことが明らかとなった。育てにくい子どもの場合は、受容的な関わりができずに悩んでいる母親が多かった。(3)パニックになりやすい、あるいは外界に対しての反応が無頓着な女児の特徴が、母親の統制的な関わりをひきおこすことが明らかとなった。一般的に男児と違い女児は、パニックになったとしても、統制的な関わりで対応でき、また、無頓着で反応が鈍い子どもには、母親は、より統制的な関わりになると考えられる。(4)情緒の安定している女児の特徴が、母親の統制的でない関わりをひきおこすことが明らかとなった。穏やかな育てやすい女児から、母親も影響をうけ、お互いに受け入れられるよい関係になると考えられる。以上の結果から、母親の養育態度だけを問題視するのではなく、子どもからの影響も考えられるため、まわりの人たちは母親を受容的にサポートする必要がある。
著者
森下 正康
出版者
The Japanese Psychological Association
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.145-152, 1979
被引用文献数
1

A hypothesis was tested that an affectionate bond with parents (parental affiliation) makes a child to take in the attitude and behavioral pattern of the parents (anaclitic identification). Eighty-five female students in a college and their parents were asked to answer a questionnair on value judgement, personality, and parental affiliation. The children had value system and personality similar to those of their parents as they perceived, rather than the actual parents themselves. There was a correlation between the degree of resemblance (between a child and the parents) and the degree of parental affiliation, partly supporting the hypothesis.
著者
森下 正康
出版者
和歌山大学
雑誌
和歌山大学教育学部紀要. 教育科学 (ISSN:13425331)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.33-41, 2006-02-28

本研究の目的は、幼児について、父母のどのような態度パターンにおいてどのようなモデリングが生じているかを明らかにすることであった。そのために、次のような仮説を立てた。仮説1.受容的な態度や統制のゆるやかな態度を示す親に対して、向社会的行動のモデリングが生じるだろう。仮説2.その反対に、拒否的な態度や統制的な態度を示す親に対しては、攻撃行動のモデリングが生じるだろう。仮説3.リーダーシップを持つ親に対して、向社会的行動や攻撃行動のモデリングが生じるだろう。これらの仮説を検証するために、3,4,5歳児の父親と母親に対して、子どもおよび自分自身について向社会性と攻撃性に関する評定と養育態度に関する評定を求めた。また、幼稚園の担任教師に対して子どもの向社会性と攻撃行動に関する評定を求めた。すべてのデータがそろった244組について分析した。モデリングの指標としての親子間の相関(類似性)と父母の態度パターンとの関連を検討したところ、子どもについて父親母親の評定に共通する次のような結果が得られた。(1)男児について、父親が統制的で母親が統制のゆるやかなパターンの場合、男児の向社会性得点と母親の向社会性得点との間に有意な正の相関があった。また、父母のリーダーシップが共に高い場合、男児の向社会性の特徴は母親の向社会性の特徴と類似していた。(2)女児について、父母共に受容的な場合、女児の向社会性の特徴は父親の高い向社会性の特徴と類似していた。(3)父母共に統制的な場合、男児の攻撃性の特徴は母親の攻撃性の特徴と類似し、全般に高い攻撃性を示していた。また、父親の方がリーダーシップをもつ場合、男児の攻撃性の特徴は母親の攻撃性の特徴と類似していた。以上、部分的に仮説1. 2が支持されたが、仮説3は反対の結果もあった。また、向社会性にしても攻撃性にしても男児は母親を向社会性および攻撃性のモデリング対象としているのに対して、女児は父親を向社会性のモデリング対象としている可能性があるということが示唆された。