著者
脇田 和美 杉野 弘明 鈴木 崇史 森本 昭彦
出版者
日本沿岸域学会
雑誌
沿岸域学会誌 (ISSN:13496123)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.55-67, 2023-03-31 (Released:2023-04-17)
参考文献数
47

2015年、瀬戸内海の目指す姿が「きれいな海」から「豊かな海」へ転換され、各地域が目標を設定して取り組むことが求められている。本研究は、瀬戸内海の将来像を描く上で最も基礎的な情報の一つとして、沿岸住民の持つ瀬戸内海の望ましい姿を明らかにした。兵庫県・香川県住民880名を対象にWEBアンケート調査を行い、自由連想法により得られた回答をテキスト分析し、上位頻出語について年代別・県別にコレスポンデンス分析した。その結果、①瀬戸内海がこのままきれいな海で、住民に海の恵みを与え続け、それを基盤とした地域の発展を望むこと、②20~30代は地域の発展を、50~60代は現状の環境維持を、40代はその中庸を望む傾向があること、③兵庫県回答者は食料供給サービスとしての海産物の豊かな海を、香川県回答者は文化的サービスとしてのゴミのないきれいな海を望む傾向があること、が明らかとなった。「きれい」は主に景色、水質、ゴミのない、の3つを意味すること、「豊か」は主に食料資源としての海産物を意味することも確認された。今後は、幅広い関係者が合意できる目標設定に向け、多様な利害関係者がそれぞれに望む「豊かな海」のさらなる具体化が必要である。
著者
森本 昭彦 ブラナプラサプラット アヌクル 三野 義尚 兼田 淳史 郭 新宇
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

タイの首都バンコクに面する北部タイランド湾は高い生産性を持ち、タイの水産業にとって重要な海域である。近年の急激な経済発展により大量の有機物や栄養塩が4つの大きな河川を通して湾内に流入し、その結果富栄養化となり赤潮や貧酸素水塊など海洋環境が悪化している。実際、北部タイランド湾の東部の貝の養殖場では、貧酸素水塊によると思われる大量斃死が毎年起こっている。このような状況にもかかわらず、北部タイランド湾での観測データは限られており、湾全体の溶存酸素の分布やその季節変化は分かっていない。本研究では、北部タイランド湾全域をカバーする観測点において、2014~2015年にかけて計7回の船舶観測を実施した。その結果、貧酸素水塊は6月~11月の間見られ、底層での溶存酸素濃度は1mg/l以下とほぼ無酸素状態であることが分かった。また、貧酸素水塊の分布は6月に湾奥中央部のチャオプラヤ川沖、その後湾奥北東部に広がり9月には湾のほぼ半分の海域で貧酸素化し、11月には湾奥北西部へと分布域が変わっていた。注目すべきことは、貧酸素水塊が6月~11月にかけて分布域を湾東部から湾西部へと変わることである。熱帯に位置するこの湾では、水温は鉛直的に一様であり密度成層は河川からの淡水供給により形成される。したがって、貧酸素水塊の分布は河川からの低塩分水の分布と関係すると予想されるが、両者を比較したところ必ずしも一致していなかった。一方、水中の酸素消費速度は、上層でのクロロフィルa濃度と高い相関を持っており、鉛直的な有機物の供給が貧酸素水塊の形成に大きく関係していることが示唆された。成層強度、酸素消費速度、クロロフィルa濃度などと底層での溶存酸素濃度を比較したが、これらの比較から貧酸素水塊の東から西への分布の移動を説明できなかった。 貧酸素水塊の分布位置が変わる月は、南西モンスーンから北東モンスーンに変わる時期であった。このことは、風の場の変化による湾内の流れの変化し、その結果として貧酸素水塊が移流されている可能性を示唆する。そこで、3次元の数値モデルを構築した。本モデルは、南の開境界で潮汐変動を与え、また主要な河川からの河川流量、海面での風と熱フラックスを与えることで、観測を行った2014年~2015年の潮流、密度流、吹送流を再現した。モデルは湾内の潮汐、水温・塩分分布をよく再現できた。この物理モデルの結果を見ると、貧酸素水塊の分布域が湾の東側から西側へ変わる時に下層の流動場が変化していることがわかった。現在、この物理モデルに栄養塩、植物・動物プランクトン、デトリタス、溶存酸素を構成要素とする低次生態系モデルの結合を行っている。発表時には、物理-低次生態系モデルの結果から、貧酸素水塊の形成とその挙動の要因について示す予定である。
著者
川村 隆一 筆保 弘徳 山本 勝 富田 裕之 森本 昭彦 柳瀬 亘 吉田 聡 宮本 佳明
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2019-06-28

台風と爆弾低気圧による被害事例が日本全国広範囲で多発している。両ストームの発達・進路予測の改善、関連するストーム起源の極端現象の発生予測、そして変わりゆく気候環境下で両ストームの活動度がどのように変調するのかを解明する事は減災の観点からも喫緊の課題である。その問題解決に大きな不確実性をもたらしているのが黒潮・黒潮続流が熱・水蒸気供給を介して両ストームに与える影響である。暖水渦のような海洋中規模渦と低気圧の空間規模は1 桁程度異なっており、スケール間大気海洋相互作用の実態は依然として未解明である。そこで本課題では台風と爆弾低気圧の発達プロセスに果たす中緯度大気海洋相互作用の包括的研究を展開する。