- 著者
-
森際 康友
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
この研究の目的は、法科大学院における授業科目としての「法曹倫理」を支える理論的な基盤を打ち固めることにあった。法曹養成機関における法曹倫理教育についてのイギリス・フランス・ドイツ・アメリカ・中国などの取り組みを調査し、それぞれの特徴をその背景にある歴史と法理論との関係で明確にした。すなわち、立法府中心の法体制と思想によって運営されているフランスと司法府を重視したアメリカとを両極におき、ドイツ、イギリスなどをその中間に属するものと位置づけ、司法府を担う法曹に要請されるエートスとその実現を促進・担保する諸制度を取り上げ、それらを運用するためのいわばソフトウェアとして、そこでの倫理規定や原理を解釈した。研究期間の3年で上記5カ国とわが国の法曹倫理教育の現状把握を行った。とくに、司法府の役割が国際的にますます注目されつつ現在、公的イデオロギーとは別に、法曹倫理教育現場では実質的にどのようなエートスが法曹に要請されているかを、日本に焦点を当てつつ見極めるよう努めた。ここ得られた成果を、実践面そして理論の面で活用した。まず実践面では、法科大学院におけるカリキュラム策定作業の中で成果を活かした。配当年次の決定について、各国の比較を行うことなどにより長短を検討し、名古屋大学法科大学院では第三年次後期とした。第2に、私が主催する、地域の法科大学院での法曹倫理担当者および法曹倫理に関心を持つ実務家・研究者からなる愛知法曹倫理研究会での研究活動を軸にして、わが国法科大学院における標準的法曹倫理教育のモデル教育内容を提示すべく、教科書編纂に励んだ。その成果は、名古屋大学出版会より『法曹の倫理』として近刊の予定である。また、法科大学院における法曹倫理の教育方法の開発にも力を注ぎ、その成果は、16年12月、「法曹倫理教育の理念と課題」シンポジウムにおいて発表した。その理念として、実務の場で尊敬を呼ぶ法曹像の確立とその教育的実現、その課題として、理論的基礎の充実、国際的視野の確立、そして現場の葛藤が伝わる教育手法の開発、が提起された。また、実務家と研究者の協働がなければ、法曹倫理学の樹立とそれに基づく教育方法の確立は困難であることが強調され、地域およびインターネットを利用した全国的ネットワークの確立の必要性が浮彫となった。理論面では、弁護士倫理について、多面的な考察ができ、その成果は教科書に盛り込まれた。また、裁判官倫理研究の面で大きな進展があった。同じ16年12月、ドイツの裁判官アカデミーでの講演が好意的に受け入れられた。法曹倫理の要は、よい法解釈が提供できる法曹が持続的に社会に供給されること、という観点からドイツの法曹史と日本のそれとの比較などを行い、「法の欠缺は存在しない、あるのは法律の欠缺だけである」とのテーゼを展開したものである。こういった研究成果のわが国への還元に取り組みたい。