- 著者
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上村 明
- 出版者
- 日本沙漠学会
- 雑誌
- 沙漠研究 (ISSN:09176985)
- 巻号頁・発行日
- vol.33, no.1, pp.67-76, 2023-06-30 (Released:2023-06-30)
- 参考文献数
- 10
本論文は,過去約10年間にモンゴルの牧畜民が経験した変化について,2009年から2011年と2021年から2022年にトゥブ県バヤンウンジュール郡において行った調査のデータにもとづき論ずる.調査は,無作為抽出した牧畜民世帯に対するアンケートと自由形式のインタビューによって行われた.調査の結果,牧畜民は,突然の砂嵐,春の冷雨,夏の干害,降水量のピークが夏の初めから秋に移るなど,異常気象が以前とくらべて頻繁に起こるようになったと考えていることが明らかになった.それとともに,多くが顕著な牧地の悪化を認識している一方,世帯の所有する平均の家畜頭数は2011年に比べて2022年は約2倍になり,家計は変わらないかよくなったと認識している.牧畜民世帯の状況を見ると,牧畜民の平均年齢は上昇し,単独で牧畜を営む世帯が増えた.さらに,ほとんどの世帯は夫婦のみが牧畜に従事しており,そこに労働負荷が集中している.これに対して,家計の向上によって,牧畜移動を容易にする韓国製トラックやワゴン等の導入が進み,車の燃料代などの移動コストの負担力も増している.もっとも大きな変化は,長距離の移動をするようになったことである.とくに,50 km以上の移動を行った世帯の割合が顕著に増えている.牧地の悪化と家畜の増加によって必要に迫られ,長距離の移動を余儀なくされていることは,牧畜民が営地や牧地に対して,排他性の強い権利でなく,より弱い権利を求める傾向を生んでいると考えられる.