著者
楠本 良延 小池 文人 藤原 一繪
出版者
日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 : 日本造園学会誌 : journal of the Japanese Institute of Landscape Architecture (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.65, no.5, pp.563-568, 2002-03-30
被引用文献数
4 2

神奈川県域で1969-2000年に取得された826地点の残存自然植生のデータベース化を行い, TWINSPANならびに植物社会学的表操作により自然植生の分類を行った。これにより調査地の自然植生を14タイプに分類した。次に環境データとして, 地形, 気候, 土壌, 地質, その他の環境データを構築し, GISを用いて植生調査地点の環境値を抽出し, ロジステック回帰分析を用いることにより各植生タイプの成立環境要因を定量的に把握した。さらに, このモデルを用いて潜在自然植生図を作成した。この研究により, 個々の自然植生の成立する環境が明らかになるとともに, 客観的な方法による潜在自然植生図の作成が可能となった。自然植生の保全や回復の基礎的な情報となるものと期待する。
著者
早川 宗志 楠本 良延 西田 智子 前津 栄信
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.147-157, 2015

日本では沖縄県石垣島にのみ分布する絶滅危惧IA類テングノハナIlligera luzonensis (C.Presl) Merr.の開花調査,標本調査,系統解析を行った.石垣島産テングノハナは午前中にのみ開花した.石垣島産テングノハナの花期は既報の夏開花(7-8月)ではなく,春(3-5月)と秋(10-12月)の2回開花であったため,夏開花の台湾産テングノハナとは異なった.さらに,石垣島産テングノハナはフィリピン産と葉緑体DNAの塩基配列が異なった.以上より,石垣島産テングノハナは,台湾産と花期が異なり,フィリピン産と系統的に異なることから,固有の系統群である可能性が示唆された.
著者
稲垣 栄洋 楠本 良延
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.365-368, 2016

市場の国際化が進む中で,世界の農業は効率化や省力化が強く求められている。そして,農業の近代化に伴って昔ながらの伝統農業は失われつつある。しかしながら,手間を省くことなく,むしろ手間を掛けて良品質な農作物を生産してきた伝統的な日本農業の中にも,重要な強みが含まれていることだろう。静岡県で古くから行われてきた「茶草場農法」もまた,良質な茶を生産するために行われてきた伝統農法である。かつて日本の農山村では,畑の肥料や家畜の飼料,茅葺屋根の材料などに用いるために「かや場」と呼ばれるススキ等を優占種とした半自然草地を有していた。しかしエネルギー革命後,人々の生活が近代化する中で,ススキは用いられなくなり,里山の半自然草地は今や国土の1%にまで減少している。ところが,静岡県の茶園周辺には,今でも管理された「茶草場」と呼ばれる半自然草地が見られる。そして,秋から冬にかけて茶草場の草を刈り取り,天日で乾燥させてから,茶園の畝間に敷いていく「茶草場農法」という伝統的な農法が今も守られているのである。草を刈り,束ねて干し,茶園に敷くという作業は今でも手作業で行われており,大変な重労働である。しかし,茶園に草を入れることで茶の香りや味が良くなるとされており,茶農家は良いお茶を作るために手間ひまを掛けてきた。この農家の作業によって,半自然草地が維持され,草地の生物多様性を保全されていたのである。草刈りによって維持される日当たりの良い草地では,さまざまな里山の植物を見ることができる。また,茶草場で見られる植物には,茶の湯の席に活けられる茶花も多い。「茶草」を活用した茶生産が,失われつつある草原の植物を保全し,「茶花」を守り伝えてきたのである。農業や農山村は,生物多様性を保全することが指摘されている。しかし,農業の生産性を高めようとすれば,生物を犠牲にすることが多い。一方,生物を保全しようとすれば,農業の生産性を犠牲にしなければならないこともある。茶草場農法は,高品質な茶を生産するという農業生産性を高める努力が,生物多様性を保全してきた貴重な例の1つである。かつて良質な茶は,高い価格で取引されてきた。しかし近年では,ペットボトル用の安価な茶の需要が高まる一方,高級茶の価格が低迷しており,高級茶と下級茶の価格差は縮小傾向にある。そのため,昔ながらの茶草場農法を行う農家も,減少しつつある。
著者
楠本 良延 稲垣 栄洋 平舘 俊太郎 岩崎 亘典
出版者
独立行政法人農業環境技術研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

静岡県の茶産地では茶畑にススキを主とした刈敷を行う農法が広く実施されている。この刈敷の供給源となっている半自然草原を茶草場という。空中写真とGISの解析から掛川市東山地区では茶畑の65%に相当する半自然草地が維持されていた。わが国の半自然草地が減少しているなかで茶草場は重要で貴重な草原性植物の生息地として評価できる。茶草場は伝統的な里山景観と農業活動によって維持される生物多様性保全の良い事例だと考えられるため、その成立・維持機構を明らかにする。