著者
渡辺 黎也 日下石 碧 横井 智之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.49-60, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
55

コウチュウ目やカメムシ目などの水生昆虫は、水田やため池を主な生息場所としているが、圃場整備や近代農法への転換によって生息環境が改変され、全国的に減少傾向にある。そのため近年では慣行農法の水田に対し、殺虫剤や除草剤の使用を抑えた環境保全型農業の水田を推進する動きが高まっている。水生昆虫群集の動態に影響を与える要因としては、農法以外にも水田内外における生息環境に関わる複数の要因が挙げられるが、それら要因についての知見は少なく総合的な解決が求められている。本研究では、水田内の環境要因および景観要素が水生昆虫群集(コウチュウ目、カメムシ目)に与える影響について調査した。 調査は2017年4月から9月に、茨城県つくば市近郊の5地域から環境保全型水田と慣行水田を1組以上、計16枚を対象に行なった。タモ網を用いた掬い取りを行ない、水生昆虫と餌生物(両生類幼生、ユスリカ科、カ科等)の個体数を種もしくは分類群ごとに記録した。水田内の環境要因として、調査地ごとに水質(水温、水深、電気伝導度、pH)と水田内に生育する植物の植被率、薬剤使用の有無、湛水日数を調査した。また地理情報システム(GIS)を用いて、調査水田を中心としてバッファー(半径500、1,000、2,000、3,000、4,000、5,000 m)を発生させ、各バッファーに占める景観要素(水田、その他の水域、森林、人工物、その他)の面積の割合を算出した。 調査の結果、水生昆虫の群集組成は農法によって異なっており、水田内の要因のうち湛水日数と餌個体数、水温が群集組成に影響を与えていた。さらに各要因の効果として、分類群数に対しては餌個体数と水温が正の効果を与えていた。また、慣行農法は水生昆虫の分類群数と個体数の双方に負の効果を与えていた。分類群数および個体数の決定に有効な空間スケールはそれぞれ水田周囲の半径3,000 mと2,000 mであり、その他の水域や森林が分類群数や個体数に正の効果を与えていた。以上より、水生昆虫の分類群数や個体数の維持には環境保全型農業の推進に加え、水田内への安定した餌生物の供給や、半径2,000または3,000 m内にその他の水域や森林など様々な環境が存在することが重要であることが示された。
著者
香取 郁夫 田丸 真弓 横井 智之
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.77-84, 2010-05-25 (Released:2010-06-08)
参考文献数
29
被引用文献数
1 4

Osmia orientalis has potential as a crop pollinator and this study examined its curious nesting habits. They were successfully induced to nest in empty snail shells placed in a field (19.8% nesting rate). The nesting rate was higher for larger shells of Euhadra amaliae than for smaller shells of Satsuma japonica. The rate was also higher for intact than damaged shells, but was not affected by the freshness of the shells. As a nesting environment, the insects preferred grass fields rather than denuded areas, spaces adjacent to buildings, or a forest edge. The overall sex ratio of O. orientalis within the shell nests was male biased (59.2% males). The sex distribution within the shell nests was as follows: when O. orientalis nested in S. japonica shells, all cells contained males; when they nested in E. amaliae shells, the innermost and second innermost cells were highly male biased, while the ratio of females increased gradually toward the outermost cells and was highest in the second outermost cells, while the male ratio recovered in the outermost cells. Finally, we discuss the possibility of using and the methods of managing O. orientalis as a crop pollinator.
著者
宮下 直 滝 久智 横井 智之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

1.ミヤマシジミの調査① 畦畔管理によるミヤマシジミの寄生率への影響: 継続調査している畦畔管理実験区内で各世代のミヤマシジミ幼虫密度と、寄生の有無、アリ随伴を記録した。主な寄生者はサンセイハリバエで、共生アリの随伴個体数は負に、幼虫密度と高刈り操作は正に効いていた。土壌由来のシヘンチュウによる寄生率は、高刈り操作と降水量による正の有意な影響があった。草丈を抑える畦畔管理は2種類の寄生者からのトップダウンを軽減する効果が期待できると示唆された。 ② 畦畔管理によるミヤマシジミの局所個体群サイズへの影響:2018年~2021年までの各世代の幼虫個体数を全生息地パッチで記録した。その結果、実験を行っている生息地パッチは実験していない生息地パッチに比べて、個体数増加しているパッチの割合が有意に高く、適した時期と強度の撹乱は局所個体群サイズを増加させることがわかった。2.ソバの送粉サービス① 各昆虫種の送粉効率の推定:早朝から夕方にかけて、ソバに訪花する昆虫をビデオで撮影した。撮影した花序は結実率を推定した。送粉効率を推定するモデルとして、資源制限を考慮した階層モデルを構築した。解析の結果、一回訪花あたりの結実率はミツバチ類やハエ類、コウチュウ類が高く推定され、送粉サービス量はセイヨウミツバチとコウチュウ類で高い結果となった。 ② 畦畔管理による送粉サービスへの影響:ソバの播種から収穫直前まで畦畔での草刈りを控えた維持区と、通常の草刈り区において、訪花昆虫と結実率を調査した。その結果、草刈り区よりも維持区で訪花昆虫個体数と結実率が高く、コウチュウ類やハナアブ類の個体数が増加していた。また、畦畔の開花植物の訪花昆虫と夜間に植物体上で休息している昆虫を調査した結果、どちらの機能も重要で、送粉サービス維持には生息地としての機能の多様性が必要であることが示唆された。