- 著者
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藤崎 憲治
- 出版者
- 岡山大学農学部
- 雑誌
- 岡山大学農学部学術報告 (ISSN:04740254)
- 巻号頁・発行日
- no.83, pp.p113-132, 1994-02
- 被引用文献数
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昆虫の分散多型性とは,「飛翔能力に影響を及ぼす多型性」と定義される.それは,大きく,翅多型性,飛翔筋多型性,及び飛翔行動多型性に分類される.さらに,このような分類では必ずしも包含できない,もう一つの分散多型性として,相変異性がある. 分散多型性の中でも,とりわけ翅多型性あるいは翅二型性は,もっとも顕著な例である.翅型は,単純なメンデル遺伝を行う場合もあるが,通常はポリジーン支配が多い.そのいずれも,短翅化に促す幼若ホルモンのあるレベルに対する遺伝子型の閾値反応により,翅型が決定されると考えられている,しかし,同じ遺伝子型であっても,幼虫期の環境条件により翅型は変化することが多いので,翅多型性は表現型の上できわめて可塑性な性質でもある. 卵形成と飛翔とはトレード・オフの関係(卵形成-飛翔症候群)にあるので,短翅化は,繁殖開始を早め,かつ産卵数を増大させる効果を持つことが多い.このことは,飛翔器官の形成と維持に関するエネルギーを,いち早く卵巣成熟に転換させることで達成されているものと考えられる.したがって,昆虫の翅多型性は,生息環境の異質性に対する適応としての移動性が大きなエネルギーコストを含み,それ故に他の適応度形質を制約することのジレンマから抜け出す一つの進化的道筋であるとみなされる. 飛翔行動多型形は,通常の長翅からばかりなる種で見られる,飛翔能力における変異性であり,翅多型あるいは翅二型性へと至る進化の出発と考えられる. したがって長翅型の方が祖先型であり,生息場所の安定化にともない二次的に短翅型が出現したものとみなされている.飛翔筋多型性は,これら二つの分散多型性の中間に位置づけられる性質である. 一方,相変異性の場合は,低密度で生じる独相を祖先型として,高密度で生じる群生相が二次的に進化したものであり,不規則に変動する予測不能な環境に対する適応でると考えられている. この総説は,昆虫の分散多型性の適応的意義と進化について,主に近年の成果を中心に紹介し,今後の研究のあり方を考察したものである。