著者
野田 文雄 逆井 利夫 横塚 保
出版者
Japanese Society for Food Science and Technology
雑誌
日本食品工業学会誌 (ISSN:00290394)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.67-73, 1976
被引用文献数
2

(1) <I>S. rouxii</I>の好気培養時におけるオルソバニリン,バニリン,グアヤコールの影響を検討した結果,オルソバニリンの20ppm含有下まで,バニリン,グアヤコールの200ppm含有下まで,完全生育することが示された。<BR>(2) オルソバニリン,バニリン,グアヤコール含有下で培養された<I>S. rouxii</I>の醗酵能の高まること,またQ<SUB>CO<SUB>2</SUB></SUB>が増大し,同時にQ<SUB>O<SUB>2</SUB></SUB>が減少し代謝系が醗酵型に変化することが認められた。<BR>(3)オルソバニリン無添加培養酵母(無添加酵母),添加培養酵母(<I>o</I>-V.酵母)の菌体内成分含量について検討した結果,ビタミン類にては,<I>o</I>-V.酵母のパントテン酸,イノシトール,ビタミンB<SUB>6</SUB>含量が無添加酵母の約2-3倍量,ビオチンは1/5倍量となった。Lipids含量は差異がなかったが,全窒素含量は<I>o</I>-V.酵母が無添加酵母の約2倍量となった。アミノ酸組成にては,<I>o</I>-V.酵母のヒスチジン,アルギニン,スレオニン,バリン含量が無添加酵母の約1/2となり,逆にグリシン,アラニン含量は1.5~3.5倍量となった。また<I>o</I>-V.酵母のシステイン,メチオニン含量がゼロとなり,逆に無添加酵母に含有されていないイソロイシンが含有されていた。糖質にては,無添加酵母のGlucan, Glycogen含量が多く,逆にTrehalose, Mannan含量は少なく, Glucan/Mannan比は<I>o</I>-V.酵母の方が小さくなった。また菌体内では,<I>o</I>-V.酵母は無添加酵母に比べ, Sucrose, Cellobiose, Ramnose含量が少なく, Ribose, Arabinose含量は多くなった。核酸およびその関連物質にては,DNA含量は差異がなかったが, RNA, PCA含量は<I>o</I>-V.酵母の方が無添加酵母に比べて若干多くなった。
著者
横塚 保 大下 克典 菊地 忠昭 佐々木 正興 浅尾 保夫
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.189-196, 1969 (Released:2008-11-21)
参考文献数
30
被引用文献数
4 4

(1) 液体培養により,わが国の麹菌工業に関連の深い種麹菌類およびその他の麹菌類約70菌株について,とくに注意を要する麹菌の生産毒と考えられるAA, KA, β-NPAおよびOAの生産性を検索し,それぞれのものは個々の菌株によって生産性に非常な差異のあることを知った.同時にX-1やNo. 48のように,それらの生産に関して特異的な菌株を野生菌の中から見いだした. (2) 固体麹中のAAの定量法として,銅塩を作り分離定量する新法を設定した. (3) AA, KA, β-NPAおよびOA生産菌の代表株をそれぞれ2,3株ずつ選び出し,それらを用いて固体麹(醤油麹)を作って,それぞれの生産量の経時的変化を求めた. (4) AAは経時的変化の結果,著しくAAを生産するX-1においてですら,わが国の麹菌工業で使用する通常の製麹期間では30mg/kg koji程度しか生産されず,毒性的問題量が3030mg/kg kojiであるのに比し,きわめて少なく,通常は全く問題にならないが,その性質から,味噌,味醂,清酒工業等においては考慮すべき点のあることを指摘した. (5) KAはその毒性も弱く,毒性的問題量が15,150mg/kg kojiであるのに比し,実際の固体麹中での生産量は最高時で約2001mg/kg kojiであリ,問題なかった. (6)β-NPAは比較的毒性が強く,水溶性であり,通常の製麹期間内に生産量が最高を示す点等,問題はあったが,その生産量は特異的な生産菌No. 48ですら最高15mg/kg koji程度であり,毒性的問題量が1515mg/kg kojiであるのに比し,きわめて少なく,しかも,β-NPA自体が代謝中間産物で,容易に生産菌の代謝系によって分解される点を考慮し,問題ないことを指摘した. (7) OAは固体麹中から検出されなかった,生産を考慮しても,それは330mg/kg koji以下であり,毒性的問題量が4545mg/kg koijであるのに比して問題はなかった. (8) いずれにしろ,わが国の麹菌工業にとって純粋食品の立場から,AA, KA, β-NPAおよびOAのごとき有毒成分を最初から生産しない種麹菌を使用することが望ましく,事実,そうしたものは幾らもあるから,それらを種麹菌とすべきで,今後の種麹菌選択の一項目としてこれらの生産性を考慮すべきであることを指摘した. (9) マウスを用いて醤油および醤油麹のエーテル抽出物について毒性試験を行ない,それらの無毒性を裏づけた.
著者
横塚 保 斎藤 伸生 奥原 章 田中 輝男
出版者
Japan Society for Bioscience, Biotechnology, and Agrochemistry
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.165-170, 1969
被引用文献数
2 9

グリシンの呈味作用について研究の結果,つぎのような知見を得た.<br> (1) グリシンそれ自体は甘味を呈し,何ら旨味を呈しない.<br> (2) グリシンとL-グルタミン酸ソーダあるいはL-アスパラギン酸ソ-ダ間には旨味に関する2因子相乗効果は認められない.<br> (3) グリシンと核酸系呈味物質間にも2因子相乗効果は認められない.<br> (4) グリシンは核酸系呈味物質の旨味をL-グルタミン酸ソーダ,あるいはL-アスパラギン酸ソーダの存在下で顕著に活性化させる性質がある.すなわち,すでに知られている核酸系呈味物質とL-グルタミン酸(L-アスパラギン酸)間の2因子相乗効果とは全く別質の3因子相乗効果が,グリシン,核酸系呈味物質,L-グルタミン酸ソーダあるいはL-アスパラギン酸ソーダの3者間に存在することを見い出した.<br> (5) このグリシンの旨味増強作用は単に甘味によるものではなく,特異的な呈味作用である.<br> (6) この3因子相乗効果において,グリシン対核酸系呈味物質の混合比はかなり広範囲にわたって適用することができるが,相乗効果を有意に働かせるためには,効果的な混合比と適正な濃度が存在する.<br> (7)このグリシンの旨味増強作用は食品の新製品開発,風味改善,コスト・ダウン等に有効に応用されるものである.これらの応用面については特として公告告および出願中<sup>(24)</sup>である.