著者
池口 明子 横山 貴史 橋爪 孝介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2019年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.188, 2019 (Released:2019-03-30)

磯焼けへの対応には藻場造成と漁業のシフトがあり,漁家は後者を迫られることが多い.日本では各種補助金による漁場整備,資源増殖のほか,代替魚種の資源化,観光化など多岐にわたる事業が実施されている.気候変動への順応をテーマとするコモンズ論では共時的制度の記述から,通時的な制度変化の分析を重視するようになっている.分析概念として,漁業者の生態知を核とした生態-社会関係が用いられる点で,生態地理学と接合しうる.ガバナンス論はより広い政治的文脈や行政の再編に制度変化を位置付けることを可能にすると考える.本報告では,磯焼けによる資源の減少や魚種交替に対応した資源管理制度の変化をガバナンスの視点から明らかにし,地理学的課題を考察する.2017年7月,10月に長崎県小値賀町,2018年9月に北海道積丹町,寿都町において漁協・自治体水産課に聞き取り,および事業報告書等の資料収集をおこなった.また小値賀町では漁業者12名に漁法選択を中心に聞き取りをおこなった.2.磯焼けへの順応と漁村・漁場磯焼け,およびその認知の時期は地域によって異なる.積丹町では1930年頃,小値賀町では1990年頃に漁業者が認識している.したがって漁法選択や生業選択のあり方は,その時期の地域社会が置かれた状況に依存する.磯焼けで起こる資源変動も海域によって異なる.積丹町ではウニとコンブは共同漁業権漁場の水揚げの主力である.磯根資源の減少に対し,資源増殖のほか観光との結びつきを強めるなど多次元化が図られている.一方,温暖海域に位置する小値賀町では180種以上の魚種が利用されてきた.資源シフトとブランド化が磯焼けで減少した磯根資源に代わって漁家経営を支えている.3.漁法選択とガバナンスの変化:小値賀島の事例 小値賀島におけるアワビ資源管理は古くは1899年に記録があり,以来多くの取り組みがなされてきた.1966年のウェットスーツの導入で乱獲が危惧されるようになると,1976年に総量規制によるアワビの資源管理が開始された.しかし,1987年の台風被害からの復興資金として過剰な漁獲が起こった上,磯焼けで餌料不足,成熟不良となり資源減少が加速した(戸澤・渡邉2012).1996年には漁業集団・漁協・町役場・県水産センターからなる「小値賀町資源管理委員会」が発足した. アワビに代わって漁家経営を支えるようになった魚種がイサキである.1977年に夜間の疑似餌釣りが導入され,1999年にブランド化された.漁業者集団によって「アジロ」(縄張り)ルールが形成され,漁協-漁業者集団によって選別ルールが形成された.4.資源ネットワークと地域的条件 小値賀島では沖合のヒラマサ・ブリといった回遊魚が生計に重要な位置を占めるなど資源の選択肢が多い.漁協は市場との取引経験が長く,これらの資源ネットワークが柔軟性を支え,漁場と市場の学習を可能にしてきた.この背景として,共同出荷への切り替え,小値賀町の単独自治など,流通と行政の再編経験が考えられる.市場との関係を軸としたガバナンス形成は一方で,よりローカルなスケールの調整,すなわち村落組織を基盤とする紐帯や仲間関係を必要とし,新規参入という点で工夫が必要と考えられる.
著者
橋爪 孝介 児玉 恵理 落合 李愉 堀江 瑶子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.1, 2014 (Released:2014-10-01)

本研究では、水田を利用した内水面養殖業が盛んに行われてきた長野県佐久市を取り上げ、佐久鯉に焦点を当てることで地域の内水面養殖業の変容を明らかにすることを目的とする。 現在では水田養鯉はほとんど行われなくなり、一部の自給的な生産を除き、養鯉のほとんどが内水面養殖業に特化した事業者によって担われるようになった。これらの事業者は養魚事業者、加工事業者、自給的養魚者の3つに類型化できる。事業者は佐久鯉の養殖だけでは現在経営を成り立たせることは困難であり、他の収入源を確保した上でコイの取り扱いを継続している。 厳しい経済状況でコイの取り扱いが継続されている背景として、地域に根差した鯉食文化の存在を指摘できる。佐久市では正月や慶弔時にコイを食べる習慣が維持されているほか、佐久鯉まつりの開催など地域のシンボルとして佐久鯉が活用されている。また市民団体・佐久の鯉人倶楽部による佐久鯉復権運動、食育活動、佐久鯉を活用した新商品の開発など、佐久鯉の消費拡大に向けた取り組みが行われ、地域の内水面養殖業を支えている。
著者
児玉 恵理 橋爪 孝介 落合 李愉 堀江 瑶子
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.2, 2014 (Released:2014-10-01)

長野県佐久市では水田養魚という特徴的な内水面養殖業が行われ、養殖対象魚種は主にコイであった。戦後は米の収量が重視され、コイについても大型の切鯉が好まれるようになり、水田と養殖池は次第に分離した。生産面でも米は農家、コイは養殖事業者に分化した。こうした中、フナは水田での養殖(水田養鮒)が現在も行われており、農家の副業として継続されている。本研究ではフナに着目し、水田養魚の変容を明らかにすることを目的とする。