- 著者
-
水野 明夫
- 出版者
- 口腔病学会
- 雑誌
- 口腔病学会雑誌 (ISSN:03009149)
- 巻号頁・発行日
- vol.39, no.3, pp.489-517, 1972 (Released:2010-10-08)
- 参考文献数
- 102
- 被引用文献数
-
1
最近5年3カ月間に, 東京医科歯科大学歯学部附属病院第1口腔外科で行なわれた切除手術 (照射群31例, 対照群14例) , および病理解剖 (照射群1例) で得られた成熟下顎骨を対象とし, 口腔癌放射線治療後の放射線骨障害の病態を病理組織学的 (脱灰染色標本, およびmicroradiography) , ならびにX線学的 (摘出物X線写真) に観察した。その結果を要約すると次の通りである。1.歯周組織では歯槽骨の高度な不規則な吸収が認められた。2.骨膜では骨芽細胞, 線維細胞の減少傾向, 線維の硝子化がみられた。3.皮質および骨梁の吸収性変化として, 不規則, 奇妙な形態の吸収, 骨小腔の拡大などが観察された。4.骨細胞の障害の表現として, 空の骨小腔ならびに核を認めえない骨小腔の数の割合を求めた。その結果, 臨床的経過とかなりの対応が得られた一方, 臨床症状を伴わない潜在的な障害も相当程度あるものと考えられた。5.硬化性の変化として, 海綿質骨梁増生, 皮質外表の骨梁増生および緻密骨添加, Havers管, Volkmann管の狭窄ならびに閉塞などが認められた。6.骨髄腔, 下顎管内および吸収腔において, 線維化, 炎症性細胞浸潤, 組織融解がみられた。7.血管系の変化として, 下歯槽動脈, 細動脈に内膜の肥厚, 内腔の閉塞, 弾性線維の配列の乱れ, 崩壊, 融解がみられ, またHavexs管, Volkmann管内血管にも種種の様相の閉塞像が観察された。8.X線写真所見により, I類: 不規則な吸収が主なもの, II類: 硬化性陰影が強いもの, III類: 吸収像, 硬化像が不規則に混在するもの, IV類: 著変ないもの, の4類に分類され, III類が圧倒的に多かった。9.X線写真のX線透過像については, 組織像での皮質, および骨梁における様様の程度の吸収像が, またX線不透過像については, 種種の骨増生, 添加が基本をなしていると考えられた。10.これら下顎骨における変化の程度は, 局所的臨床所見 (特に放射線治療後の) とおおよその関連性が認められた。11.下顎骨のいわゆる放射線骨壊死の成り立ちについて, 文献的考察を加え, 若干の検討を行なった。