著者
江上 園子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.154-164, 2017 (Released:2019-09-20)
参考文献数
50

本研究は,キャリア女性の出産前後にわたる「母性愛」信奉傾向の変化を量的・質的に分析・検討したものである。具体的には,研究Iでは先行研究の1,260名のデータを用いて「母性愛」信奉傾向が「女性による子育ての正当化」と「母親の愛情の神聖視」の二次元に分類される可能性を確認的因子分析にて検証し,研究IIでは初産女性10名と経産女性10名を対象にしてそれぞれの因子得点の出産前後での変化の有無と女性たちが語る内容の変容をテーマティック・アナリシスにより探ることとした。結果として,初産の女性においては産後に「母親の愛情の神聖視」得点が上昇するが,経産の女性に関しては産前産後の得点変化が見られなかった。同様に,初産の女性では産後に「母親の愛情の神聖視」にかかわる肯定的な内容が多く語られたが,経産の女性ではそのような変化も見られなかった。また,初産女性の産前産後の変容の背景には①「母性愛」信奉傾向に対する印象の変化や②母親としての自分の評価や③自分のキャリアの再定義という大きな3つのテーマが関連していることが示唆された。
著者
江上 園子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.122-134, 2005-08-10 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
5

母親の「母性愛」を信奉する傾向がポジティヴな結果をもたらすだけではなく, 子どもの発達水準の認知という要因との交絡によっては養育場面でネガティヴに転化するという可能性を実証した。研究Iでは, この「『母性愛』信奉傾向」を「社会文化的通念である伝統的性役割観に基づいた母親役割を信じそれに従って養育を実践する傾向」と定義し, 「『母性愛』信奉傾向尺度」を作成し, 信頼性・妥当性についての検討を行った。研究IIでは, この尺度を用いて, 「母性愛」信奉傾向が高く子どもの発達水準を低いものであると認知している母親の場合は, 怒りの感情制御が困難になるという仮説の検証を行った。その結果, 「母性愛」信奉傾向と子どもの発達水準との交互作用が怒りの感情制御に影響することを一部で明らかにした。つまり, 子どもの発達水準が高い場合は「母性愛」信奉傾向の高さはポジティヴに作用するが, 発達水準が低い場合はポジティヴに作用せず, むしろネガティヴな影響を与えうることが示唆された。したがって本研究は, ポジティヴ/ネガティヴの二分法的に議論されがちな「母性愛」を両方の可能性を秘めたものとして解釈し, 「母性愛」を「両刃の剣」であると結論した。
著者
江上 園子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.169-180, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
34
被引用文献数
5 3

本研究は, 幼児を持つ夫婦304組(合計608名)を対象にして, 父親と母親の「母性愛」信奉傾向が両者の抱く夫婦関係満足度と養育態度へ与える影響を家族システムの観点から検証したものである。分析の結果, 父親(夫)の場合, 自身と母親(妻)の「母性愛」信奉傾向は夫婦関係満足度に影響しないが, 母親の場合は父親と自身の「母性愛」信奉傾向の交互作用効果が見られ, 夫婦双方の「母性愛」信奉傾向が低い場合に夫婦関係満足度が高く, 父親の「母性愛」信奉傾向が高く自身の「母性愛」信奉傾向が低い場合に夫婦関係満足度が低いということがわかった。養育態度については, 父親の場合, 夫婦関係満足度が高いと子どもへの応答性も統制も強くなり, 積極的に子どもとかかわる姿勢が見られるということ, 自身の「母性愛」信奉傾向が2つの養育態度に異なる作用の仕方をしているということが認められた。母親の場合には父親と自身の「母性愛」信奉傾向の交互作用効果が認められ, 夫婦双方の「母性愛」信奉傾向が高い場合に応答的な養育態度が高く, 父親の「母性愛」信奉傾向が高く母親の「母性愛」信奉傾向が低い場合に応答性は低かった。父親と母親で, 「母性愛」信奉傾向の夫婦関係満足度と養育態度への作用の様相が異なることが議論された。
著者
江上 園子
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.148-156, 2007-06-25 (Released:2010-07-16)
参考文献数
28
被引用文献数
3 1

This study examined the impact of mothers' adherence to “maternal love” on maternal emotional expression toward their children. It was postulated that adherence to “maternal love” (defined as the tendency to accept and obey blindly the traditional maternal role and sociocultural belief in “desirable mothers”) would have both positive and negative effects on maternal emotional expression, depending on the mothers' occupational status and satisfaction in workplace. The results showed an interaction between mothers' adherence to “maternal love” and the mothers' satisfaction in the workplace, which affected their expression of emotion. When satisfaction in the workplace was rated in the middle, it was positively associated with positive emotional expression. When satisfaction in the workplace was rated as high, it was both positively and negatively associated with positive emotional expression for full-time workers. Moreover, when satisfaction in the workplace was rated as in the middle, it was negatively associated with negative emotional expression, and when satisfaction in the workplace was rated as low or high, it was positively associated with negative emotional expression for all workers. These findings confirmed that mothers' adherence to “maternal love” is “the double-edged sword”.