- 著者
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江尻 桂子
- 出版者
- 一般社団法人 日本発達心理学会
- 雑誌
- 発達心理学研究 (ISSN:09159029)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.2, pp.154-164, 1994-12-15 (Released:2017-07-20)
「これまでにない新しいもの」とは, 様々な既有知識を組み合わせることによって産み出される。では, この「知識の組み合わせ」とは, いつ頃からできるようになるのか。また, これを外的な援助によって促すことができるのか。以上の問題意識のもとに本研究は, 「この世に存在しないX (人間・家) を描く」という課題を用いて, 子どもの想像画の発達的変化と教示による効果について検討した。実験Iは, 幼児・小3・小5, 各45名を次の3条件に分けて行った。課題遂行前に「存在しないX」の例を言語的に与える (ヒント群) , 言語的かつ視覚的に与える (見本群〉, 何も与えない〈統制群) である。分析は, まず各絵について, どのような方略を使用してXを描いているかを判定した (e.g. 顔が三角形の人間→「要素の形の変化」) 。そして, 各方略の出現頻度を年齢, 条件ごとに比較した。その結果, 1. ヒント群, 見本群は統制群に比ベ, 高度な方略の使用が多くなること, 2. これらの条件下では, 幼児でも「組み合わせ」方略 (異なる概念カテゴリーを組み合わせてXを描く) を使用できること, 3. ただし, 幼児の行う組み合わせは微細で部分的なものが多く, 小3, 小5のように大幅で全体的なものではないことが明らかになった。実験IIでは, こうした教示による効果が持続するかどうかを検討するため, 幼児37名を対象に, 教示前, 教示直後, 1週間後の反応を調べた。教示を与えた群は, 教示直後, 1週間後, いずれにおいても統制群に比べて成績が高く, 効果の持続が確かめられた。