著者
新井 冨生
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.317-320, 2021-03-25

定義・概念 髄様癌は2000年に出版されたWHO分類 第3版で初めて記載された比較的新しい概念の腫瘍であり1),それまでは低分化腺癌として取り扱われてきた.低分化腺癌は一般的に悪性度が高く予後不良とされているが,大腸癌では充実胞巣型,髄様型を示す低分化腺癌の一部に比較的予後良好な症例が存在することが指摘されてきた.その後,分子病理学的手法を用いた研究が進み,髄様癌の疾患概念が確立した.この研究が進む過程で髄様癌は種々の名称が用いられていたが,WHO分類 第3版1)が出版されてからはmedullary carcinomaに統一された.本邦では2013年8月に改訂された「大腸癌取扱い規約 第8版」2)で,髄様癌という名称で初めて記載された. 髄様癌は発癌機序の観点から散発性と遺伝性の2種類に大別される.散発性の髄様癌は高齢者,女性,右側結腸に好発し,リンパ節転移も低率で比較的予後良好という臨床病理学的特徴を示す3).分子病理学的には,BRAF遺伝子変異,ミスマッチ修復遺伝子の一つであるMLH1遺伝子のプロモーター領域のメチル化とそれに伴うMLH1蛋白質発現の減弱,マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability;MSI)という特徴を有する.遺伝性の髄様癌は,ミスマッチ修復遺伝子(MLH1,MSH2,MSH6,PMS2など)の変異によるLynch症候群の一つの病型としての腫瘍である.
著者
関 智行 新井 冨生 山口 雅庸 石川 文隆 齊藤 美香 大平 真理子 平野 浩彦 石山 直欣
出版者
一般社団法人 日本老年歯科医学会
雑誌
老年歯科医学 (ISSN:09143866)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.315-321, 2010

ビスフォスフォネート (以下BPs) 製剤は骨代謝異常疾患に対して有効であり, その使用症例が近年増加しているが, それにともないBPs製剤に関連した顎骨壊死 (Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw, 以下BRONJ) の報告も増加している。今回, われわれは多発性骨髄腫に対してBPs静注剤の投与を受けた患者で, 上下顎骨壊死をきたした剖検例を経験し, 口腔露出部顎骨と骨が露出していない下顎骨を病理組織学的に比較検討を行ったので報告する。<BR>症例は77歳男性。初診時, 上顎右側第二小臼歯部に骨露出を認めた。多発性骨髄腫に対してBPs静注剤の長期投与の既往があることからBPs関連顎骨壊死を考慮し, 抗菌薬投与と局所洗浄を行った。また, 多発性骨髄腫による骨症状がないことからBPsを中止した。初診3カ月後, 下顎右側犬歯から第二小臼歯部に新たな骨露出を認めた。初診6カ月後には上顎右側第一小臼歯が自然脱落した。初診8カ月後に間質性肺炎悪化にともなう呼吸不全で死亡した。剖検が行われ, 口腔に露出していた上下顎骨は病理組織学的に骨壊死を呈していた。また, 粘膜に被覆され骨が露出していない右側第三大臼歯頬側の下顎骨を検体として採取し病理組織学的に検索した結果, 骨小腔には骨細胞が散見され, 骨髄組織に慢性炎症像が認められた。<BR>BRONJにおいては, 顎骨壊死が露出領域を超えて顎骨未露出領域まで拡大している可能性が示唆された。
著者
江崎 行芳 沢辺 元司 新井 冨生 松下 哲 田久保 海誉
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.116-121, 1999-02-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
17
被引用文献数
8 10

「老衰死」の有無を考察するため, 老年者の最高グループである百歳老人 (百寿者) 42剖検症例の死因を検討した. 対象は, 最近までのおよそ20年間に東京都老人医療センターで剖検された男性9例, 女性33例で, この性別比は全国百寿者のもの (1対4) にほぼ一致する.臨床経過や諸検査値を充分に考慮して剖検結果を検討すると, これら42症例の全てに妥当な死因があった. 死因となったのは, 敗血症16例, 肺炎14例, 窒息4例, 心不全4例などである. 敗血症の半数近くは腎盂腎炎を原因としており, 肺炎の多くが誤嚥に起因していた. 悪性腫瘍は16例に認められたが, その全てに前記死因のいずれかがあり, 悪性腫瘍自体が主要死因となったものは1例も存在しなかった.超高齢者では, (1) 免疫機能の低下, (2) 嚥下・喀出機能の低下, が致死的な病態と結びつきやすい. しかし, このことと「老齢であるが故の自然死」とは関わりがない.「老衰死」なる言葉に科学的根拠があると考え難い.
著者
森本 悟 髙尾 昌樹 櫻井 圭太 砂川 昌子 小宮 正 新井 冨生 金丸 和富 村山 繁雄
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.8, pp.573-579, 2015 (Released:2015-08-21)
参考文献数
17
被引用文献数
1

症例は62歳の女性である.頭痛で発症し,3ヵ月にわたって進行する認知機能障害,発熱および炎症反応の持続を呈した.頭部MRI画像で皮質および白質に多発性病変をみとめ,造影後T1強調画像にて脳溝や脳室上衣に沿った造影効果をみとめた.認知機能障害およびMRI所見が急速に進行したため脳生検を施行.クモ膜下腔に多数の好中球浸潤および多核巨細胞よりなるリウマチ性髄膜炎類似の病理像をみとめるも,関節リウマチの症状はなかった.各種培養はすべて陰性で,抗菌薬,抗結核薬および抗真菌薬治療に反応なく,経口ステロイド療法が奏功した.2年後の現在も寛解を維持している.