著者
直井 工 Veilleux C. C. Garrett E. C. 松井 淳 新村 芳人 Melin A. D. 東原 和成 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.32, pp.42-42, 2016

<p>霊長類は3色型色覚の進化に伴い、嗅覚を退化させたと解釈されてきたが、近年の全ゲノムデータの整備に伴い、恒常的3色型色覚の狭鼻猿類と多型的色覚の広鼻猿(新世界ザル)類の間ではORの機能遺伝子数や偽遺伝子数に大きな違いがないことがわかっている。新世界ザルは食性や色覚の多様性が顕著であるため、嗅覚と食性や色覚との関連を検証するのに適している。しかし、全ゲノムデータの公開されている少数の種を除いて、新世界ザル類のOR遺伝子レパートリーは未解明である。そこで本研究は、新世界ザル全3科と多様な色覚型を網羅して、フサオマキザル(オマキザル亜科:3アリル2-3色型色覚)、セマダラタマリン(マーモセット亜科:3アリル2-3色型色覚)、アザレヨザル(ヨザル亜科:1色型色盲)、チュウベイクモザル(クモザル亜科:2アリル2-3色型色覚)、マントホエザル(ホエザル亜科:恒常的3色型色覚)、ダスキーティティ(ティティ亜科:3アリル2-3色型色覚)を対象に、各1個体の高純度ゲノムに対して、真猿類のOR遺伝子の全571orthologous gene groupのターゲットキャプチャーと次世代シークエンシングを行った。一方、種内変異を調べるために、ノドジロオマキザルとチュウベイクモザルの野生群を対象に、リガンド感受性の幅が異なることが他の哺乳類で知られている、一部のOR遺伝子(OR1A1,OR51L1,OR2A25)に対して、PCRとサンガーシーケンシングを行った。本発表ではその経過について報告する。</p>
著者
遠藤 瑞輝 白須 未香 Williamson R. E. Nevo O. Melin A. D. 東原 和成 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.32, pp.43-43, 2016

<p>霊長類は、視覚や聴覚、嗅覚といった感覚を通じて外界の情報を認知している。中でも視覚に関する知見は多く、3色型色覚を持つ霊長類は、遠方の果実などの食べ物を見分ける際に有利であると考えられてきた。しかし、近年の研究から従来の視覚重視の考えに疑問が持たれるようになってきた。オマキザルやクモザルの野外観察の結果、自然界で背景となる葉と視覚上のコントラストが低い果実ほど頻繁に匂い嗅ぎを行い、果実の成熟を判断しているという結果が得られている。しかし、霊長類が食する果実の匂い成分が、成熟に応じてどのように変化しているのか、またこれらの匂いが霊長類の果実の選好性にどのように関与しているのかは、未知である。匂いの他にも、果実は、成熟に応じて色や大きさ、固さなどの様々な性質を変化させることが知られており、霊長類が、果実採食においてどのような特徴を重視し、選択するのかを解明することは、霊長類がどのような感覚を使って採食するのかを理解するうえで非常に重要である。そこで私たちはコスタリカのグアナカステ保全区内サンタロサ地区において、色覚多様性が既知であるノドジロオマキザル(<i>Cebus capucinus</i>)が実際に食する果実の採集を行った。果実は、シリカ母材のカーボングラファイト含有である吸着剤とともに密閉したオーブンバッグに入れ、匂いを捕集した。果実1種につき成熟段階ごとに3段階に分け、それぞれ5回ずつ匂い捕集を行った。現在、4種の果実の成分分析、及び分析結果を基にした主成分分析までが完了している。その結果、いくつかの果実において、成熟段階に応じて果実の揮発性有機物(VOC)の総量や組成が変化していることわかった。また、種によっては熟度による色の変化よりも匂いの変化の方が大きいという結果も得られている。今後より詳細な解析と検討が必要だが、今回の分析の結果、果実の匂いが霊長類の採食行動に大きな手掛かりとなっていることが予想される。</p>
著者
津田 恭介 生熊 晋 河村 正朗 太刀川 隆治 酒井 浄 田村 千尋 甘粕 治
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Chemical and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:00092363)
巻号頁・発行日
vol.12, no.11, pp.1357-1374, 1964-11-25 (Released:2008-03-31)
被引用文献数
126 208

The structures of both tetrodonic acid hydrobromide and 6, 11-diacetylanhydrotetrodotoxin hydroiodide were established by chemical and X-ray crystallographical research. Based upon structures of both these salts and upon other chemical information, we determined that tetrodotoxin and anhydrotetrodotoxin have zwitterionic hemilactal structures.
著者
河村 正二
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.325-336, 2012-05-01 (Released:2013-05-01)
参考文献数
112
被引用文献数
1

ヒトの網膜には色覚,すなわち色を感じるために赤,緑,青に対応した3種類の視覚センサー=視覚オプシンが存在する.脊椎動物の中で魚類と霊長類は色覚が多様性に富む点で特異である.たとえば新世界ザルはオプシン遺伝子のアレル多型によって2色型と3色型からなる高度な色覚多型を示す.この多型は強い自然選択圧により維持されているが,2色型と3色型のどちらか一方が有利とは必ずしもいえない.ここでは,魚類と霊長類の視覚センサー遺伝子の適応と進化の経緯を検討する中で,色覚の多様性の意味を考える.
著者
山田 文雄 大井 徹 竹ノ下 祐二 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が開始されつつあるが,野生動物の管理については人間活動の制限もあり不十分な点が多い.今回の集会では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルや大型狩猟動物を対象に,研究成果や社会的問題を紹介し,今後のあり方を議論する.今後,行政機関にどのような働きかけが必要か,要望書の提出も見据えながら議論を行う.本集会は,2012年5月に開催した4学会合同シンポジウムを受けて,日本哺乳類学会保護管理専門委員会と日本霊長類学会保全・福祉委員会の共同開催とした.1.「福井県におけるニホンザルの生息状況と餌食物の歩車占領の実態、及び今後の保護管理の問題点」  大槻晃太(福島ニホンザルの会) サルの主要な餌を分析し,放射能汚染による餌への影響や放射能汚染に伴う耕作状況の変化によるサルの行動変化を明らかにした.人間活動の再開に向けたニホンザルの保護管理の問題点などについても話題提供したい.2.「福島市の野生ニホンザルにおける放射性セシウムの被ばく状況と健康影響」  羽山伸一(日本獣医生命科学大学) 世界で初めて原発事故により野生霊長類が被ばくしたことから,演者らの研究チームは,福島市に生息するニホンザルを対象に低線量長期被ばくによる健康影響に関する研究を 2011年 4月から開始した.サルの筋肉中セシウム濃度の経時的推移と濃度に依存した健康影響に関する知見の一部を報告する.3.「大型狩猟動物管理の現状と人間活動への影響  仲谷 淳(中央農業総合研セ)・堀野眞一(森林総研東北) イノシシやシカなどの大型狩猟獣で食品基準値を超える放射性セシウムが検出され,福島県を中心に獣肉の出荷規制が継続されている.狩猟登録者数が減少し捕獲数にも影響する一方,農業等の被害増加が懸念されている.最新の放射性セシウム動向と,震災地域における狩猟者の意識変化について紹介し,今後の大型狩猟獣対策の方向を考える.4.「福島件における野生動物の被爆問題と被害管理の現状と課題」  今野文治(新ふくしま農業協同組合) 東日本震災から 2年が経過したが,山林等の除染は困難を極めており,年間の積算線量が 100mSv/hを越える地域も存在する.多くの野生動物への放射能の影響が懸念されており,基礎的なデータの収集と保全に向けた対応が急務である.一方,避難指示区域の再編が進められており,帰宅が進むにつれて被害管理が必要となっている.新たな問題が発生する地域での野生動物と人間の共生に向けた情報の共有と整理が重要となっている.5.総合討論「今後の対応と研究について」  山田文雄・大井 徹(森林総合研究所),竹ノ下祐二(中部学院大学),河村正二(東京大学)企画責任者 山田文雄(森林総合研究所)・大井 徹(森林総合研究所・東京大学大学院農学生命科学研究科)・仲谷 淳(中央農業総合研究センター)・竹ノ下祐二(中部学院大学)・河村正二(東京大学)
著者
横川 京児 河村 正敏 新井 一成 塩川 章 太田 秀一
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.419-428, 1991-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
28
被引用文献数
1

大腸癌の予後を左右する重要な因子に血行性転移があげられる.特に肝転移は予後に大きく関与しており, 静脈侵襲の程度を観察することにより, 肝転移の危険性を予測することが十分可能であると考えられる.今回著者らは, 進行大腸癌治癒切除症例における静脈侵襲状況をVictria blue-H・E染色を用い観察し, 静脈侵襲の有無, 侵襲程度, 侵襲部位および侵襲静脈径を検索し, これらの肝転移への関与, ならびにその臨床病理学的意義を検討した.対象は, 教室における過去8年間 (1981.1~1988.12) の初発大腸進行癌切除症例378例中単発大腸癌治癒切除症例220例である.静脈侵襲陽性は141例 (64.1%) であり, これらの静脈侵襲頻度をv1; 1~2個, v2; 3~6個, v3; 7個以上, に分け, また, 侵襲静脈径を各症例の最も太い静脈径によりS・M・L群に分類し検討した.侵襲頻度別にみるとv1: 80例 (56.7%) , v2: 48例 (34.0%) , v3: 13例 (9.3%) , 侵襲径ではS群: 18例 (12.8%) , M群: 95例 (67.4%) , L群: 28例 (19.9%) であり, 両者の問に相関関係がみられ, 侵襲頻度が多いものほど, 侵襲径の大きい群に属した.v (+) 例では中分化癌, a2+Sが有意に高率であった.静脈侵襲頻度, 侵襲静脈径と占居部位, 組織型, 深達度およびリンパ節転移との問に相関をみられなかったが, リンパ管侵襲のうち1y3とに相関関係を認めた.予後の検討では, v (-) , v (+) 症例の5生率はそれぞれ84.2%, 58.6%と有意差がみられ, 静脈侵襲頻度が高い症例ほど, また静脈侵襲径が太いほど予後不良であった.肝再発は17例 (7.7%) にみられ, うち16例がv (+) であった.静脈侵襲頻度別にみると, v0: 1.2%, v1: 5.0%, v2: 12.5%, v3: 46.2%, 侵襲静脈径別では, S群: 5.6%, M群: 7.4%, L群: 28.6%, また, 漿膜下層静脈侵襲の有無で比較すると, ssv (+) : 16.3%, ssv (-) : 3.6%であり, 静脈侵襲頻度の高いもの, 侵襲静脈径の太いもの, ssv (+) で有意に肝再発がみられた (p<0.05) .また, 占居部位, 組織型, リンパ管侵襲およびリンパ節転移では相関関係がみられず, 深達度のみに肝再発との相関関係を認めた.以上, 大腸癌における静脈侵襲状況は術後肝再発を予測するうえできわめて重要であり, これらの危険因子の大きい症例では治癒切除症例であっても厳重な経過観察が必要であると考えられた.