著者
大井 徹 中下 留美子 藤田 昌弘 菅井 強司 藤井 猛
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-13, 2012 (Released:2012-07-18)
参考文献数
38
被引用文献数
4

これまで明らかではなかった西中国山地のツキノワグマの食性について,山中で採取した糞と人里周辺で有害捕獲された個体の胃内容物を基に,食物品目毎に出現率,偏在度指数,相対重要度を算出し,季節変化と年変化を分析した.その結果,春には植物の栄養器官中心,夏にはしょう果中心,秋には堅果中心へと季節変化するという本州中部以北のツキノワグマの食性と類似の傾向がみられた.ツキノワグマが越冬するために重要な秋の食物においては,コナラ属果実,ミズキ属果実が,相対重要度が他のものより顕著に高く,かつその年変動の程度が小さいため,通常,ツキノワグマが安定的に依存している食物と考えられた.一方,ツキノワグマの大量出没時には,この二種類の果実の相対重要度が顕著に低くなるという特徴が見られ,これらの樹種の結実程度がクマの人里への出没に大きく影響している可能性が示唆された.また,人里に出没したクマの食物では,これまで指摘されてきたカキ,クリの果実,農畜産物以外に,草本の葉など植物の栄養器官の相対重要度が高いことが特徴的であった.
著者
鵜野-小野寺 レイナ 山田 孝樹 大井 徹 玉手 英利
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.61-69, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
33

絶滅が危惧される四国のツキノワグマの繁殖状況を把握するため、2005年から2017年までに捕獲された13頭の血縁解析を行った。19種類のマイクロサテライト遺伝子座を用いて親子判定を行った結果、4組の母子ペア、5組の父子ペアが確認された。繁殖が確認された個体はメス4頭、オス2頭で、少数のオスの繁殖への参加が確認された。血縁解析の結果から、繁殖オスは同胞兄弟である可能性が高いと考えられる。アリル多様度は他の地域個体群よりも低い傾向がある一方で、ヘテロ接合度の観察値が期待値よりも有意に高いことから、繁殖個体数が極めて少ない可能性が考えられる。血縁解析の結果に基づきCreel and Rosenblattの方法で算出した推定個体数は約16-24頭となった。
著者
間野 勉 大井 徹 横山 真弓 高柳 敦 日本哺乳類学会クマ保護管理検討作業部会
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.43-55, 2008-06-30
参考文献数
22
被引用文献数
4

日本に生息する2種のクマ類個体群の保護管理の現状と課題を明らかにするため,クマの生息する35都道府県を対象に,保護管理施策に関する聞き取り調査を2007年7月から9月にかけて実施した.調査実施時点で,11県が特定計画に基づいた施策を実施しており,9道県が特定計画の策定中あるいは策定予定と回答した.特定計画によらない任意計画に基づく施策を実施していたのは5道県であった.12都県はツキノワグマに関する何らかの管理計画,指針などを持たなかった.特定計画及び任意計画を実施している道府県の主な管理目標として,1)個体群の存続と絶滅回避,2)人身被害の防止,及び3)経済被害軽減の3項目が挙げられた.数値目標を掲げていた10県のうち8県が捕獲上限数を,2県が確保すべき生息数を決めていた.特定計画,任意計画の道府県を合わせ,捕獲個体試料分析,出没・被害調査,堅果豊凶調査,捕獲報告などが主要なモニタリング項目として挙げられた.また,個体数,被害防止,放獣,生息地,普及啓発などが主要な管理事業として挙げられた.地域個体群を単位として複数の府県が連携した保護管理計画は,西中国3県のみで実施されていた.被害に関する数値目標の設定とそのモニタリング,個体群動向のモニタリング手法の確立,地域個体群を単位としたモニタリング体制の確立が,日本のクマ類の保護管理上の最大の課題であると考えられた.<br>
著者
山田 文雄 大井 徹 竹ノ下 祐二 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.55, 2013 (Released:2014-02-14)

福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が開始されつつあるが,野生動物の管理については人間活動の制限もあり不十分な点が多い.今回の集会では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルや大型狩猟動物を対象に,研究成果や社会的問題を紹介し,今後のあり方を議論する.今後,行政機関にどのような働きかけが必要か,要望書の提出も見据えながら議論を行う.本集会は,2012年5月に開催した4学会合同シンポジウムを受けて,日本哺乳類学会保護管理専門委員会と日本霊長類学会保全・福祉委員会の共同開催とした.1.「福井県におけるニホンザルの生息状況と餌食物の歩車占領の実態、及び今後の保護管理の問題点」  大槻晃太(福島ニホンザルの会) サルの主要な餌を分析し,放射能汚染による餌への影響や放射能汚染に伴う耕作状況の変化によるサルの行動変化を明らかにした.人間活動の再開に向けたニホンザルの保護管理の問題点などについても話題提供したい.2.「福島市の野生ニホンザルにおける放射性セシウムの被ばく状況と健康影響」  羽山伸一(日本獣医生命科学大学) 世界で初めて原発事故により野生霊長類が被ばくしたことから,演者らの研究チームは,福島市に生息するニホンザルを対象に低線量長期被ばくによる健康影響に関する研究を 2011年 4月から開始した.サルの筋肉中セシウム濃度の経時的推移と濃度に依存した健康影響に関する知見の一部を報告する.3.「大型狩猟動物管理の現状と人間活動への影響  仲谷 淳(中央農業総合研セ)・堀野眞一(森林総研東北) イノシシやシカなどの大型狩猟獣で食品基準値を超える放射性セシウムが検出され,福島県を中心に獣肉の出荷規制が継続されている.狩猟登録者数が減少し捕獲数にも影響する一方,農業等の被害増加が懸念されている.最新の放射性セシウム動向と,震災地域における狩猟者の意識変化について紹介し,今後の大型狩猟獣対策の方向を考える.4.「福島件における野生動物の被爆問題と被害管理の現状と課題」  今野文治(新ふくしま農業協同組合) 東日本震災から 2年が経過したが,山林等の除染は困難を極めており,年間の積算線量が 100mSv/hを越える地域も存在する.多くの野生動物への放射能の影響が懸念されており,基礎的なデータの収集と保全に向けた対応が急務である.一方,避難指示区域の再編が進められており,帰宅が進むにつれて被害管理が必要となっている.新たな問題が発生する地域での野生動物と人間の共生に向けた情報の共有と整理が重要となっている.5.総合討論「今後の対応と研究について」  山田文雄・大井 徹(森林総合研究所),竹ノ下祐二(中部学院大学),河村正二(東京大学)企画責任者 山田文雄(森林総合研究所)・大井 徹(森林総合研究所・東京大学大学院農学生命科学研究科)・仲谷 淳(中央農業総合研究センター)・竹ノ下祐二(中部学院大学)・河村正二(東京大学)
著者
金森 弘樹 田中 浩 田戸 裕之 藤井 猛 澤田 誠吾 黒崎 敏文 大井 徹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.57-64, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
7
被引用文献数
10

西中国地域のツキノワグマUrsus thibetanusの「特定鳥獣保護管理計画」は,第一期(2003~2006年度)と第二期(2007~2011年度)とも,広島県,島根県および山口県の三県で共通の指針の下に策定された.生息頭数調査は,個体の捕獲による標識再捕獲法を用いて2回実施され,1999年当時は約480頭,また2005年当時は約520頭と推定された.有害捕獲は1960年代から始まったが,2000年代に入ると年平均100頭以上へと急増した.とくに,大量出没した2004年には239頭,2006年には205頭にも達した.1996~1999年に比べて2000~2006年は,高齢個体も多数捕獲される傾向にあったが,捕獲個体の性比には変化はなかった.三県の放獣率や除去頭数の差は,地域によって異なったが,これは地域住民や行政の意識の違いに起因すると考えられた.放獣個体の再捕獲率は低かったが,学習放獣による奥地への定着や被害の再発防止効果は十分に検証できなかった.今後は,個体群のモニタリングの継続,錯誤捕獲の減少,地域住民への普及啓発の努力などがいっそう必要である.
著者
大井 徹 Thao Sokunthia Meas Seanghun 濱田 穣
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.49, 2012-06-20 (Released:2012-09-22)
参考文献数
16

We conducted a field survey of the distribution of primates at 73 sites in Cambodia, primarily in the Rattanakiri Highlands and the Cardamom, Elephant, and Dangrek Mountains, in 2008 and 2010, based on interviews with local residents, and observations of pet monkeys, wild monkeys, and monkeys fed at temples. In the Rattanakiri Highlands, information on Nycticebus pygmaeus, N. bengalensis, Macaca fascicularis, M. leonina, M. assamensis, M. mulatta, M. arctoides, Pygathrix nigripes, Nomascus gabriellae, and Trachypithecus margarita was obtained, although the presence of M. mulatta and M. assamensis should be confirmed in further studies. In the Cardamom Mountains, information on N. pygmaeus, N. bengalensis, M. fascicularis, M. leonina, M. assamensis, M. mulatta, M. arctoides, T. germaini, and Hylobates pileatus was obtained, although information on N. pygmaeus, M. assamensis, M. mulatta, and M. arctoides should be confirmed in further studies. In the Dangrek Mountains, information on N. bengalensis, M. fascicularis, and M. leonina was obtained. The habitat loss and degradation caused by large timber concessions, agricultural concessions, and illegal hunting are major threats to primates. Primates are protected by the Forest Law of 2002. Nevertheless, local residents are not aware of the law, and many consume and trade wild meat and animal parts. Unrecovered weapons and explosives from the civil war have accelerated excessive hunting of wild animals. Captive breeding of M. fascicularis for international trade for use in pharmaceutical testing and biomedical experiments might also threaten the wild populations, and its effect on wild populations should be examined carefully in future studies. Another problem is the translocation of wild monkeys to Buddhist temples, which affects the natural distribution of endemic genetic variation.
著者
山田 文雄 大井 徹 竹ノ下 祐二 河村 正二
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

福島原発事故で放出された放射性物質による野生動物への蓄積と影響についての調査研究が開始されつつあるが,野生動物の管理については人間活動の制限もあり不十分な点が多い.今回の集会では,野生哺乳類のモニタリングや管理問題について,特にニホンザルや大型狩猟動物を対象に,研究成果や社会的問題を紹介し,今後のあり方を議論する.今後,行政機関にどのような働きかけが必要か,要望書の提出も見据えながら議論を行う.本集会は,2012年5月に開催した4学会合同シンポジウムを受けて,日本哺乳類学会保護管理専門委員会と日本霊長類学会保全・福祉委員会の共同開催とした.1.「福井県におけるニホンザルの生息状況と餌食物の歩車占領の実態、及び今後の保護管理の問題点」  大槻晃太(福島ニホンザルの会) サルの主要な餌を分析し,放射能汚染による餌への影響や放射能汚染に伴う耕作状況の変化によるサルの行動変化を明らかにした.人間活動の再開に向けたニホンザルの保護管理の問題点などについても話題提供したい.2.「福島市の野生ニホンザルにおける放射性セシウムの被ばく状況と健康影響」  羽山伸一(日本獣医生命科学大学) 世界で初めて原発事故により野生霊長類が被ばくしたことから,演者らの研究チームは,福島市に生息するニホンザルを対象に低線量長期被ばくによる健康影響に関する研究を 2011年 4月から開始した.サルの筋肉中セシウム濃度の経時的推移と濃度に依存した健康影響に関する知見の一部を報告する.3.「大型狩猟動物管理の現状と人間活動への影響  仲谷 淳(中央農業総合研セ)・堀野眞一(森林総研東北) イノシシやシカなどの大型狩猟獣で食品基準値を超える放射性セシウムが検出され,福島県を中心に獣肉の出荷規制が継続されている.狩猟登録者数が減少し捕獲数にも影響する一方,農業等の被害増加が懸念されている.最新の放射性セシウム動向と,震災地域における狩猟者の意識変化について紹介し,今後の大型狩猟獣対策の方向を考える.4.「福島件における野生動物の被爆問題と被害管理の現状と課題」  今野文治(新ふくしま農業協同組合) 東日本震災から 2年が経過したが,山林等の除染は困難を極めており,年間の積算線量が 100mSv/hを越える地域も存在する.多くの野生動物への放射能の影響が懸念されており,基礎的なデータの収集と保全に向けた対応が急務である.一方,避難指示区域の再編が進められており,帰宅が進むにつれて被害管理が必要となっている.新たな問題が発生する地域での野生動物と人間の共生に向けた情報の共有と整理が重要となっている.5.総合討論「今後の対応と研究について」  山田文雄・大井 徹(森林総合研究所),竹ノ下祐二(中部学院大学),河村正二(東京大学)企画責任者 山田文雄(森林総合研究所)・大井 徹(森林総合研究所・東京大学大学院農学生命科学研究科)・仲谷 淳(中央農業総合研究センター)・竹ノ下祐二(中部学院大学)・河村正二(東京大学)
著者
大井 徹 大西 尚樹 山田 文雄 北原 英治
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.17-24, 2008-06-30
参考文献数
23
被引用文献数
1

京都府のツキノワグマは,由良川(福知山市より下流部)の東側に分布する丹波個体群と西側に分布する丹後個体群に分かれるが,丹波個体群では,丹後個体群より若齢のオスがより多く有害捕獲される傾向が認められた.その原因を明らかにするために捕獲方法,捕獲理由,捕獲月,捕獲場所の景観,メスの分布と捕獲されたオスの年齢の関係を検討した.捕獲地点の分布を検討したところ,性成熟したオスは,交尾期になると,性成熟したメスが生息する可能性の高い地域に集まる傾向が示唆されたが,そのようなメスの生息地域の内と外で捕獲されたオスの年齢を比較しても差異は認められなかった.検討した要因の中では,唯一捕獲場所の景観の影響が認められ,森林で捕獲されるオスは若齢のものが多い傾向があることがわかった.丹波個体群ではクマハギ防除のために7~10月に森林中で多くの有害捕獲が行われる一方,丹後個体群では8~11月に農業被害や人身被害防止のため集落・農地近くでの有害捕獲が多く行われており,このことが背景となって丹後個体群と丹波個体群の捕獲個体構成の差異が生み出されていると示唆された.一方,この差異は野生個体群の構成の違いを反映している可能性もあり,留意する必要がある.<br>
著者
間野 勉 大井 徹 横山 真弓 山崎 晃司 釣賀 一二三 高柳 敦 山中 正実
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.39-41, 2008-06-30

日本におけるクマ類の調査研究や特定鳥獣保護管理計画の発展に寄与することを目指して,この特集を企画した.本特集は,日本哺乳類学会2007年度大会で開催されたクマに関する3つの自由集会の成果をまとめたものであり,特定鳥獣保護管理計画の実施状況や,新たな手法として注目されるヘア・トラップ法によるクマ類の密度推定の問題点などを概観する11編の報告と,2編のコメントから構成される.<br>