著者
井上 紳 牧野 睦月 太田 秀一 酒井 哲郎 斉藤 司 小林 洋一 小川 玄洋 松山 高明
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.268-274, 2010 (Released:2011-02-03)
参考文献数
14
被引用文献数
1

心房細動の発生機序は,期外収縮の連発が心房受攻性を刺激することで誘発された機能的リエントリーであると考えられている.先行する期外収縮連発の機序としては肺静脈壁左房筋袖細胞からの撃発活動が有力視されており,一方の機能的リエントリーの基質としては左房後壁周囲の心筋構造の不均一性が想定されている.そのため,それぞれが高周波通電治療の対象になっている.肺静脈壁左房筋袖は4本の肺静脈で囲まれた左房後壁を構成する心房筋と発生学的に同一とされているものの,近年の遺伝子学的検討から本来の心筋組織とは異なる肺原基の中胚葉起源説が提唱され,潜在的自動能の保持や短い不応期など,心房のほかの部分とは電気生理学的性質が異なることが示唆されている.長い肺静脈筋袖は心筋配列が複雑だが,顕微鏡的観察では肺静脈末梢側で徐々に心房筋袖細胞が小型化し,その先端では洞結節細胞に類似したものがみられる.機能的リエントリーの基質が存在する左房後壁周囲に関しては,心内膜面の肉眼的観察では櫛状筋が目立つ右房と異なり全体が白く平滑で,僧帽弁前庭部と後壁や天蓋部との境界が不明瞭である.それに対し,心外膜面の肉眼的観察では肺静脈開口部周囲を冠静脈洞筋束やMarshall筋束,Bachmann束,一次および二次中隔が取り巻き,きわめて複雑な構造を示すことがわかる.特に冠静脈洞筋束は冠静脈洞内径の2~3倍の広さで分布しており,機能的リエントリーの発生に関与すると思われる.加齢とともに間質線維化や脂肪浸潤により組織不均一性は亢進するが,左房周囲の心房筋線維化には心房の発育・分化に伴うapoptosisも関与していることが予想される.現在の非薬理学的不整脈治療は,肺静脈心房筋袖や左房周囲の大循環系静脈筋袖の付着部をアブレーション・隔離することが主流であり,組織多様性の軽減がその本質と考えられる.
著者
千葉 雅尋 重松 明男 山川 知宏 高橋 正二郎 高畑 むつみ 小林 直樹 太田 秀一
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.10, pp.2154-2160, 2019-10-10 (Released:2020-10-10)
参考文献数
7

65歳,男性.倦怠感で当院を受診した.血液検査にて汎血球減少,LD高値ならびにハプトグロビン低値であり,末梢血に破砕赤血球が認められた.血栓性血小板減少性紫斑病に特有の症状である腎機能障害,動揺する神経症状等はなかったが,血栓性血小板減少性紫斑病を想定して,血漿交換を開始した.後日vitamin B12低値が判明し,vitamin B12の補充を行い,溶血所見及び汎血球減少の改善が認められた.破砕赤血球を伴う巨赤芽球性貧血では血栓性血小板減少性紫斑病と類似した検査所見が認められることが報告されており,pseudo-TTPと呼ばれる.
著者
牧野 睦 井上 紳 松山 高明 酒井 哲郎 小林 洋一 片桐 敬 太田 秀一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.1181-1186, 2006-12-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
16

目的:冠静脈洞周囲の解剖学的特徴を明らかにすること.方法:対象は剖検心26例.下大静脈から左心耳まで房室接合部を切り出し僧帽弁に垂直に5mm幅で包埋,ヘマトキシリンーエオジン,アザンーマロリー染色を施行して光学顕微鏡下で冠静脈洞を観察, 大心静脈との境界部(似下,境界部),中央部,開口部でその性状を検討した.結果:冠静脈洞の長さは29.9±96mm,それに対し冠静脈洞を覆う筋束(冠静脈洞筋束)は37.9±10.Ommあった.冠静脈洞は境界部で僧帽弁輪上方9.6±4.5mmに位置したが,中央部6.5±3.6mm,開口部3.6±26mmと接近した.冠静脈洞筋束は開口部でもっとも厚く,また肺静脈方向に広く分布していた.全例で冠静脈洞筋束と左心房筋との部分接合を肺静脈側,心内膜側,僧帽弁輪側いずれかに認めたが,その頻度は境界部18例(69%),中央部21例(81%),開口部25例(96%)で開口部に近いほど高かった.開口部近傍では冠静脈洞筋束と左心房筋間の脂肪組織が乏しく,両者が密着する症例が増加した.結論:冠静脈洞筋束の分布は個体差が著しいが,肺静脈側によく発達していた.全例で左心房筋との接合を認め,開口部に近いほどその頻度が高かった.冠静脈洞と僧帽弁輪間の距離は開口部に比し境界部で開大する傾向がみられた.
著者
石原 里美 有泉 裕嗣 矢持 淑子 塩沢 英輔 佐々木 陽介 瀧本 雅文 太田 秀一
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.71-78, 2011-02-28 (Released:2011-09-01)
参考文献数
28

成人T細胞性白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma; ATLL)は, 臨床的にヒトT細胞好性ウイルス(human T-cell lymphotropic virus type-1; HTLV-1)感染細胞のモノクローナルな増殖を証明しない限り,組織形態学的には末梢性T細胞リンパ腫–非特定型(PTCL-NOS)との鑑別は困難である.しかし免疫組織学的にATLLとPTCL-NOSの発現に違いがあれば,HTLV-1の感染情報がない場合でも,両者の鑑別が可能と考えられる.1983年11月~2009年9月末までに昭和大学病院でWHO造血器・リンパ系腫瘍分類第4版に基づきATLL又はPTCL-NOSと診断された37例のホルマリン固定パラフィン包埋組織切片を免疫組織化学的に以下の抗体を用いて発現の違いを検討した.CD7,CD25,CD56,CCR4,TIA-1においてATLLとPTCL-NOS間で有意差が認められた.ATLL症例は全例でCD7の減弱が見られた.CD25はATLL症例の72%で陽性で,PTCL-NOSより有意に多かった(P=0.005).CCR4はATLL症例の72%で陽性で,PTCL-NOSより有意に多かった(P<0.001).PTCL-NOS症例はATLL症例に比べてCD56,TIA-1陽性例が有意に多かった(CD56,P=0.01; TIA-1,P=0.03).以上より,ATLLとPTCL-NOSを鑑別する上でCD7,CD25,CD56,CCR4,TIA-1の免疫組織化学検索が有用と考えられた.またATLLのCD25およびCCR4発現率は高く,ATLLの治療法として抗CD25抗体,抗CCR4抗体の有効性が期待された.
著者
横川 京児 河村 正敏 新井 一成 塩川 章 太田 秀一
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.419-428, 1991-08-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
28
被引用文献数
1

大腸癌の予後を左右する重要な因子に血行性転移があげられる.特に肝転移は予後に大きく関与しており, 静脈侵襲の程度を観察することにより, 肝転移の危険性を予測することが十分可能であると考えられる.今回著者らは, 進行大腸癌治癒切除症例における静脈侵襲状況をVictria blue-H・E染色を用い観察し, 静脈侵襲の有無, 侵襲程度, 侵襲部位および侵襲静脈径を検索し, これらの肝転移への関与, ならびにその臨床病理学的意義を検討した.対象は, 教室における過去8年間 (1981.1~1988.12) の初発大腸進行癌切除症例378例中単発大腸癌治癒切除症例220例である.静脈侵襲陽性は141例 (64.1%) であり, これらの静脈侵襲頻度をv1; 1~2個, v2; 3~6個, v3; 7個以上, に分け, また, 侵襲静脈径を各症例の最も太い静脈径によりS・M・L群に分類し検討した.侵襲頻度別にみるとv1: 80例 (56.7%) , v2: 48例 (34.0%) , v3: 13例 (9.3%) , 侵襲径ではS群: 18例 (12.8%) , M群: 95例 (67.4%) , L群: 28例 (19.9%) であり, 両者の問に相関関係がみられ, 侵襲頻度が多いものほど, 侵襲径の大きい群に属した.v (+) 例では中分化癌, a2+Sが有意に高率であった.静脈侵襲頻度, 侵襲静脈径と占居部位, 組織型, 深達度およびリンパ節転移との問に相関をみられなかったが, リンパ管侵襲のうち1y3とに相関関係を認めた.予後の検討では, v (-) , v (+) 症例の5生率はそれぞれ84.2%, 58.6%と有意差がみられ, 静脈侵襲頻度が高い症例ほど, また静脈侵襲径が太いほど予後不良であった.肝再発は17例 (7.7%) にみられ, うち16例がv (+) であった.静脈侵襲頻度別にみると, v0: 1.2%, v1: 5.0%, v2: 12.5%, v3: 46.2%, 侵襲静脈径別では, S群: 5.6%, M群: 7.4%, L群: 28.6%, また, 漿膜下層静脈侵襲の有無で比較すると, ssv (+) : 16.3%, ssv (-) : 3.6%であり, 静脈侵襲頻度の高いもの, 侵襲静脈径の太いもの, ssv (+) で有意に肝再発がみられた (p<0.05) .また, 占居部位, 組織型, リンパ管侵襲およびリンパ節転移では相関関係がみられず, 深達度のみに肝再発との相関関係を認めた.以上, 大腸癌における静脈侵襲状況は術後肝再発を予測するうえできわめて重要であり, これらの危険因子の大きい症例では治癒切除症例であっても厳重な経過観察が必要であると考えられた.