著者
宮野 加奈子 河野 透 上園 保仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.76-80, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

抗がん剤や放射線治療により発症する口内炎は,健常人が経験する口内炎と比較し,炎症が広範囲であり,その痛みは強く,摂食困難,抗がん剤の減量,変更を余儀なくされる場合も多い.現在口内炎に対して推奨される予防・治療法はなく,新たな治療法の確立が必要とされている.我々はこれまでに,漢方薬のひとつである半夏瀉心湯の含嗽が,抗がん剤治療により発症した口内炎に有効であることを臨床試験により明らかにし,さらに半夏瀉心湯の口内炎改善メカニズムを解明するための基礎研究を行っている.抗がん剤投与後,口腔粘膜をスクラッチして口内炎を発生させたGolden Syrian Hamsterの口内炎部位では,炎症・発痛物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)量が増加しており,半夏瀉心湯投与によりPGE2は減少し,口内炎は有意に改善された.次に,human oral keratinocyteを用い,PGE2産生に対する半夏瀉心湯の効果を解析した.その結果,IL-1β刺激によるPGE2産生は半夏瀉心湯濃度依存的に抑制され,この抑制作用には半夏瀉心湯を構成している乾姜の成分である[6]-shogaol,ならびに黄芩成分であるbaicalinおよびwogoninが重要であることが明らかとなった.さらに各成分によるPGE2産生抑制メカニズムについて解析を行ったところ,黄芩成分はIL-1β刺激により発現するシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)を阻害することにより,また,[6]-shogaolはPGE2合成関連酵素の活性を阻害することによりPGE2産生を抑制することが示唆された.以上の結果より,半夏瀉心湯の構成生薬成分がそれぞれ異なる作用点を介して総和的にPGE2産生を抑制し,口内炎を改善する可能性が示唆された.
著者
深堀 晋 王 利明 笠井 章次 吉川 大太郎 唐崎 秀則 河野 透 齋藤 博哉 長嶋 和郎
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.66-71, 2018 (Released:2018-08-01)
参考文献数
8

われわれは平成26年1月~平成29年5月までに,病理診断によって4例の分節性動脈中膜融解症(segmental arterial mediolysis:以下SAM)を経験した.年齢は60歳から88歳までで,すべて男性であった.全例に緊急手術を行い,摘出検体より中膜の空胞変性など特徴的な所見からSAMと診断した.3例は生存し,1例のみ術後第36病日に肝梗塞によって死亡したが,死因とSAMとの関連性は不明であった.今回,自験例4例と国内で渉猟しえたSAMの報告107例とを合わせ,疫学や発症部位などの特徴を報告する.
著者
河野 透
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.107, no.6, pp.876-884, 2010 (Released:2010-06-07)
参考文献数
62

抗体,免疫治療など炎症性腸疾患であるクローン病に対する内科的治療が急速に進歩してきているにもかかわらず,罹病期間中にクローン病に起因する原因で外科的治療を受ける割合は極めて高いが,そのほとんどが根治的治療ではなく,適応は限定される(狭窄,膿瘍,瘻孔).クローン病患者の腸管手術に際して可能な限り腸管温存するべきである.病変部位が残る問題点はあるが小腸病変に限れば狭窄形成術が推奨される.病変腸管切除後の吻合部狭窄による再手術率が極めて高いことが大きな問題点であり,再発形式を鑑みた新たな吻合法の開発が期待される.肛門病変では排膿ドレナージが基本であるが,早期発見が最も重要である.
著者
河野 透 葛西 眞一
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.102, no.4, pp.442-452, 2005 (Released:2005-06-06)
参考文献数
91
被引用文献数
1

炎症性腸疾患の現在の標準的外科治療の原型は四半世紀前にさかのぼる.潰瘍性大腸炎の標準的外科治療は大腸全摘,回腸パウチ肛門(管)吻合である.超音波メスの登場により肛門(管)吻合部の合併症が減少し,シンクロ法の開発により手術時間が短縮された.肛門管直腸粘膜を完全摘出し,肛門吻合するか,一部残した機械吻合がよいのかについては今後の検討課題である.手術適応としては社会的適応患者が増加している.他方,クローン病患者の手術適応に関してはできるだけ慎重にすべきで,術式に関しても腸管温存が主体で,狭窄形成術が推奨されている.クローン病による瘻孔に関してはインフリキシマブの出現で手術適応が変化する可能性があるが,今後の大規模な臨床試験が必要である.
著者
笠井 章次 唐崎 秀則 前本 篤男 古川 滋 伊藤 貴博 河野 透
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.91-96, 2018 (Released:2018-01-29)
参考文献数
15
被引用文献数
1

急性感染性電撃性紫斑病(acute infectious purpura fulminans:AIPF)は感染に惹起され急速に進行拡大する末梢の紫斑,皮膚壊死を特徴とする疾患である.死亡率は30%以上と高率で,救命し得た例でも最終的に四肢切断を要することが多い重篤な病態である.われわれはクローン病腸管切除手術後の重篤な麻痺性イレウス治療中にCitrobacter freundii菌血症からAIPFを発症したが,複数科の協力による集中治療で救命し得た40歳代女性の1例を経験したので報告する.クローン病患者は易感染状態であり,また血栓性イベントの高リスク状態でもあることから,AIPFを発症しやすい条件下にあるといえる.現時点で自験例以外にAIPFを合併した症例の報告はないが,クローン病の管理において知悉すべき病態であり,その治療においては複数科との協力の下,集学的に行うことが重要であると考えられた.
著者
河野 透
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.1, pp.13-17, 2011 (Released:2011-01-10)
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

植物由来物を利用した医薬は代替補完医療complementary and alternative medicine(CAM)の枠組みの中にあり,エビデンス重視の現代医療では異端的扱いであった.世界中から日本の伝統的医薬である漢方薬が高品質および標準化されている点に注目され始めた.その契機となったのが大建中湯の薬効機序に関する分子レベルの研究である.大建中湯は3つの生薬(山椒(さんしょう),乾姜(かんきょう),人参(にんじん))が含まれ,術後の腸管運動麻痺改善,および腸管血流改善作用が,大建中湯の主要成分であるhydroxy-α-sanshool,6-shogaolを中心にカルシトニン・ファミリー・ペプチドを介して発現していることが明らかとなった.この研究を契機に全国の大学病院で二重盲検プラセボ比較試験が開始された.同時に米国でも臨床試験が行われ大建中湯の有効性がいち早く証明され漢方薬のCAMからの脱出が始まった.
著者
河野 透 鈴木 達也
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

クローン病腸管では炎症、潰瘍により粘膜や神経組織に強い傷害が繰り返される。その結果、神経組織で産生される神経ペプチドは顕著に減少し、血流は正常値の半分程度となる。これらの結果から神経再生を保持し、血流に配慮した新たなクローン病腸管手術を考案し、吻合部狭窄が防止できる可能性を明らかにし、大建中湯によるクローン病腸管血流改善、クローン病の病因論的関与が示唆されるTNFα、インターフェロンγ産生を特異的に抑制することを明らかにした。