著者
大澤 稔 菊地 章子 沼田 健裕 金子 聡一郎 高山 真
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

この1年は「化学物質過敏症」患者のリクルーティング・ピックアップ準備の年であった。まずはpilot的に化学物質過敏症診断で高名な病院の「化学物質過敏症・環境アレルギー外来」で診断済みの患者を紹介してもらい評価の方法を探った。化学物質過敏症に伴う症状と治療(漢方薬)効果との関係にある程度の再現性が確認できたため、次に評価基準を設定する作業に入った。当初の実施計画の通りスクリーニングシートの作成を進めているが、内容としてはたいへん高名な診断ツールとして確立しているQuick Environmental Exposure Sensitivity Inventory(QEESI(R) )をベースにする方向で調整に入った。また個々の症状(頭痛・めまい他)もNSR(Numerical Rating Scale)で数値化を図ることとした。幸いこのQEESIの開発者に指導を仰ぐ機会に恵まれ、研究趣旨を汲んでいただけたため、今後連携研究者としての登録をいただく方向で準備をしている。また診断の信憑性を高めるため精神科の連携研究者の協力も今後仰ぐ予定でいる。化学物質過敏症は環境医学の領域でも大きなトピックである。この1年の間に化学、工学、看護学、衛生学を専門とする研究者のメーリングリストにも登録させていただいた。この課題に取り組むにあたり日本臨床環境医学会にも属することとなり、本研究代表者も医学の立場で情報交流をすることになり、治療実績発表の準備中である。この人事交流は本研究の大きな礎になることが予想される。
著者
高山 真 沖津 玲奈 岩崎 鋼 渡部 正司 神谷 哲治 平野 篤 松田 綾音 門馬 靖武 沼田 健裕 楠山 寛子 平田 宗 菊地 章子 関 隆志 武田 卓 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.621-626, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
7
被引用文献数
9 8

平成23年3月11日に発生した東日本大震災は,巨大な地震と津波により東日本の広い範囲に甚大なる被害をもたらした。東北大学病院では被災地域への医療支援を行ない,漢方内科においても東洋医学を中心とした活動を行なった。ライフラインが復旧せず医療機器の使用が困難な中にあって,医師の五感により病状を把握し治療方針を決定できる東洋医学は極めて有効な診断・治療方法であった。被災直後には感冒,下痢などの感染症と低体温症が課題であり,2週間経過後からアレルギー症状が増加し,1ヵ月以降は精神症状や慢性疼痛が増加した。感冒や低体温に対する解表剤や温裏剤,咳嗽やアレルギー症状に対する化痰剤,疼痛やコリ,浮腫に対する鍼治療・マッサージ施術は非常に効果的であった。人類の過酷な歴史的条件の下に発達した東洋医学は大災害の場でも有効であることを確認した。
著者
高山 真 沼田 健裕 岩崎 鋼 黒田 仁 加賀谷 豊 石井 正 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.128-131, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

背景と目的:東日本大震災の際,災害弱者である高齢者は避難に難渋し避難所においても体力の衰え,免疫力の低下などから様々な疾患を患うことも多かった.本報告では,東北大学病院漢方内科が被災地域で行った漢方診療を振り返り高齢者における統合医療,漢方の役割について述べる.方法:発災から10週間までの期間に被災地域の避難所で行った漢方診療に関し,診療録をもとに症状の変遷や漢方診療の内容についてまとめた.結果:震災から2週間までは低体温や感冒,胃腸炎が多く,当帰四逆加呉茱萸生姜湯や人参湯,桂枝湯,五苓散などを処方した.2週間から6週間まではアレルギー症状や呼吸器症状が多く,小青竜湯や麦門冬湯などを処方し,6週間から10週までは精神症状が多く,抑肝散や加味帰脾湯などを処方した.これら経過を振り返るに,高齢者においては発災から間もないころには低体温症例が比較的多く,6週間以降は特に精神症状を訴える例が多かった.考察:震災後に行った漢方診療を振り返るに,多くはすでに西洋薬等が処方されていたものの症状が遷延している例も多く,漢方薬の追加で症状の改善をみる症例を数多く経験した.基礎代謝が低下し,津波をかぶり体が冷え切った低体温の高齢者には,体を温める漢方薬は西洋薬にない効果を発揮した.また,長期間続く避難所生活による精神的,肉体的ストレスによる免疫力低下にも漢方薬が貢献できた可能性がある.さらには,高齢者では効果の強い睡眠導入剤を使用することにより,余震の際に朦朧として力が入らずに転倒する危険性があるが,軽度に鎮静作用を持つ漢方薬は睡眠を補助しつつ,筋緊張を低下させないため使いやすかった.結論:漢方薬のエビデンスが蓄積されつつある現在,西洋医学と漢方医学の併用は災害時の困難な状況においても,統合医療として相補的に用いられるのが理想と考える.
著者
乙竹 秀明 東 いぶき 久保川 哲 近藤 亮一郎 有田 龍太郎 沼田 健裕 大澤 稔 菊地 章子 髙山 真 石井 正
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.419-429, 2019 (Released:2020-03-06)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

漢方薬を用いたランダム化比較試験(RCT)を,日本東洋医学会は漢方治療エビデンスレポート(EKAT)としてまとめている。本研究では,漢方薬の RCT の現状と変遷を検討することを目的として,EKAT の分類法(研究デザイン,介入方法,研究目的,掲載雑誌の信頼度,出版年)を考案し,416本の RCT の分類と比較を行った。研究デザインで分類すると二重盲検 RCT(DB-RCT)は全体の8.9%と少なかったが,その86.5%がプラセボを用いた試験であった。標準治療のない疾病に対し漢方薬の効果を評価した研究の6割以上が DB-RCT であり,漢方薬への期待がうかがえた。近年になるにつれて,封筒法 RCT や準 RCT の割合が減少する一方,インパクトファクターの付く雑誌への掲載割合が増えており,質の高い漢方研究が行われ評価されてきていると示唆された。本研究は医学部医学科第2学年問題発見・解決型実習で行われた。
著者
高山 真 岩崎 鋼 渡部 正司 神谷 哲治 平野 篤 松田 綾音 沼田 健裕 楠山 寛子 沖津 玲奈 菊地 章子 関 隆志 武田 卓 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.275-282, 2012 (Released:2013-02-13)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

古くからヨーロッパでは自然療法を取り入れて健康を保つ方法が一般的に行なわれてきており,特にドイツでは統合医療に補完・代替医療が積極的に導入されている。ドイツでも有名な4つの施設,ミュンヘン大学麻酔科ペインクリニック,TCM Klinik Bad Ko¨tzting, Immamuel Krankenhaus, ZenHaus Klinik を視察し統合医療の現状を報告する。各施設では,慢性疼痛に対する4週間プログラム,中国伝統医学中心の治療,自然療法主体の治療,日本伝統医学にアロマテラピーを加えた治療など,各々の施設で特徴的な治療方法が行なわれていた。ドイツでは多くの病院,クリニックで補完・代替医療が盛んに行なわれているが,その広がりの一つにドイツにおける医療保険制度が挙げられる。公的保険では治療の一部,プライベート保険では広い範囲で補完・代替医療に対する保険償還が行なわれる。歴史的背景に加え,このような制度も統合医療の広がりに影響を与えていると考える。