著者
高山 真 沖津 玲奈 岩崎 鋼 渡部 正司 神谷 哲治 平野 篤 松田 綾音 門馬 靖武 沼田 健裕 楠山 寛子 平田 宗 菊地 章子 関 隆志 武田 卓 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.621-626, 2011 (Released:2011-12-27)
参考文献数
7
被引用文献数
9 8

平成23年3月11日に発生した東日本大震災は,巨大な地震と津波により東日本の広い範囲に甚大なる被害をもたらした。東北大学病院では被災地域への医療支援を行ない,漢方内科においても東洋医学を中心とした活動を行なった。ライフラインが復旧せず医療機器の使用が困難な中にあって,医師の五感により病状を把握し治療方針を決定できる東洋医学は極めて有効な診断・治療方法であった。被災直後には感冒,下痢などの感染症と低体温症が課題であり,2週間経過後からアレルギー症状が増加し,1ヵ月以降は精神症状や慢性疼痛が増加した。感冒や低体温に対する解表剤や温裏剤,咳嗽やアレルギー症状に対する化痰剤,疼痛やコリ,浮腫に対する鍼治療・マッサージ施術は非常に効果的であった。人類の過酷な歴史的条件の下に発達した東洋医学は大災害の場でも有効であることを確認した。
著者
高山 真 沼田 健裕 岩崎 鋼 黒田 仁 加賀谷 豊 石井 正 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.128-131, 2014 (Released:2014-05-23)
参考文献数
10
被引用文献数
2 4

背景と目的:東日本大震災の際,災害弱者である高齢者は避難に難渋し避難所においても体力の衰え,免疫力の低下などから様々な疾患を患うことも多かった.本報告では,東北大学病院漢方内科が被災地域で行った漢方診療を振り返り高齢者における統合医療,漢方の役割について述べる.方法:発災から10週間までの期間に被災地域の避難所で行った漢方診療に関し,診療録をもとに症状の変遷や漢方診療の内容についてまとめた.結果:震災から2週間までは低体温や感冒,胃腸炎が多く,当帰四逆加呉茱萸生姜湯や人参湯,桂枝湯,五苓散などを処方した.2週間から6週間まではアレルギー症状や呼吸器症状が多く,小青竜湯や麦門冬湯などを処方し,6週間から10週までは精神症状が多く,抑肝散や加味帰脾湯などを処方した.これら経過を振り返るに,高齢者においては発災から間もないころには低体温症例が比較的多く,6週間以降は特に精神症状を訴える例が多かった.考察:震災後に行った漢方診療を振り返るに,多くはすでに西洋薬等が処方されていたものの症状が遷延している例も多く,漢方薬の追加で症状の改善をみる症例を数多く経験した.基礎代謝が低下し,津波をかぶり体が冷え切った低体温の高齢者には,体を温める漢方薬は西洋薬にない効果を発揮した.また,長期間続く避難所生活による精神的,肉体的ストレスによる免疫力低下にも漢方薬が貢献できた可能性がある.さらには,高齢者では効果の強い睡眠導入剤を使用することにより,余震の際に朦朧として力が入らずに転倒する危険性があるが,軽度に鎮静作用を持つ漢方薬は睡眠を補助しつつ,筋緊張を低下させないため使いやすかった.結論:漢方薬のエビデンスが蓄積されつつある現在,西洋医学と漢方医学の併用は災害時の困難な状況においても,統合医療として相補的に用いられるのが理想と考える.
著者
高橋 晃 岩崎 鋼 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.617-621, 2010 (Released:2011-02-03)
参考文献数
8
被引用文献数
1

目的:本研究は成年被後見人が医療行為を要する際の現状を把握し,医療行為の同意に関する課題を探ることを目的とした.方法:仙台市内の介護老人福祉施設,介護老人保健施設及び介護療養型医療施設計63施設に対し,成年後見制度の利用状況と医療行為の同意に関する実態並びに意識調査を実施し(調査I,回答施設数44,回答率69.8%),また宮城県社会福祉士会所属で現在後見人の業務を受任している社会福祉士40名のうち,NPO法人ぬくもりの里せんだい・みやぎ成年後見支援ネットの相談員を介して調査に同意いただいた社会福祉士11名(全員回答)に対し医療行為の同意に関する実態及び意識調査を行った(調査II).結果:調査Iにおいて,医療行為の同意を求められた事例は5施設で8例あり,その内訳は,予防接種及び延命措置が各2例,検査,投薬,注射及び手術が各1例であった.望ましい同意権者については家族・親族が23施設(33.3%),成年後見人18施設(26.1%),医師8施設(11.6%)等であった.調査IIにおいて,医療行為に関する同意を求められたことがある者は8名で,その内訳は予防接種8例,検査4例,手術3例,延命措置2例等であった.また4名は同意が得られないため必要な医療処置を受けられない事例を経験していた.望ましい同意権者については成年後見人8名(30.8%),医師7名(26.9%),家族・親族が5名(19.2%)等であった.結論:現状では医療行為の同意が求められる場合があり,同意権がないため適切な医療を受けられない事例も存在することが明らかとなった.今後,医療行為の同意を得るための適切な制度を早急に検討する必要性が示唆された.
著者
高山 真 岩崎 鋼 渡部 正司 神谷 哲治 平野 篤 松田 綾音 沼田 健裕 楠山 寛子 沖津 玲奈 菊地 章子 関 隆志 武田 卓 八重樫 伸生
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.275-282, 2012 (Released:2013-02-13)
参考文献数
10
被引用文献数
2 2

古くからヨーロッパでは自然療法を取り入れて健康を保つ方法が一般的に行なわれてきており,特にドイツでは統合医療に補完・代替医療が積極的に導入されている。ドイツでも有名な4つの施設,ミュンヘン大学麻酔科ペインクリニック,TCM Klinik Bad Ko¨tzting, Immamuel Krankenhaus, ZenHaus Klinik を視察し統合医療の現状を報告する。各施設では,慢性疼痛に対する4週間プログラム,中国伝統医学中心の治療,自然療法主体の治療,日本伝統医学にアロマテラピーを加えた治療など,各々の施設で特徴的な治療方法が行なわれていた。ドイツでは多くの病院,クリニックで補完・代替医療が盛んに行なわれているが,その広がりの一つにドイツにおける医療保険制度が挙げられる。公的保険では治療の一部,プライベート保険では広い範囲で補完・代替医療に対する保険償還が行なわれる。歴史的背景に加え,このような制度も統合医療の広がりに影響を与えていると考える。
著者
荒井 啓行 岩崎 鋼
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

(1)アセチルコリン合成酵素(ChAT)をmRNAレベルで賦活する作用のある加味温胆湯(かみうんたんとう)をアルツハイマー病治療薬の第1選択薬である塩酸ドネペジルと併用することにより認知機能の改善効果が一層高まることが明らかとなった。併用によるコリン系の有害事象(下痢、吐き気、腹痛など)は見られなかった。脳血流シンチ上、併用により前頭葉などで有意な血流改善効果が見られた。(2)広く腎虚の治療薬として使われる八味地黄丸は二重盲験ランダム化比較試験において平均年齢85歳、平均MMSE13.5ポイントの中等度から高度の血管障害を伴うアルツハイマー病患者の認知機能とADLを有意に改善させた。有害事象は見られなかった。10名中8名で脳血流シンチにて脳血流増加が見られた。(3)抑肝散は、肝の異常な陽気を抑え、易怒性や興奮に効果が知られ、従来小児の夜泣きなどに用いられてきた漢方方剤である。肝の異常な陽気が認知症に伴う問題行動や精神症状を引き起こすとの仮説のもと、抑肝散をアルツハイマー病等の認知症に使用した結果、痴呆症における問題行動や精神症状に対してADLを低下させることなく改善する効果があることが示された。認知症に伴う問題行動や精神症状は、米国で開発された、Neuropsychiatric inventoryを使用した。抑肝散使用中、誤嚥性肺炎や転倒などしばしば抗精神病薬投与中に遭遇する有害事象は1例も見られなかった。また、西洋医学では今以って有効な治療法のないレビー小体病の精神症状に対しても15例中14例に有効であった。Neuroleptic supersensitivityは見られなかった。
著者
岩崎 鋼 菊池 昭夫
出版者
独立行政法人国立病院機構西多賀病院
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

抑肝散のハンチントン病(HD)における不随意運動などに対する効果を検証するため、two-way crssover studyを行った。Total UHDRS(p=0.067)及びMaximalChorea(p=0.055)及びMaximal Dystonia(p=0.073)について投与により有意な変化を示す傾向が認められた。本研究に於いて抑肝散はHD患者におけるUHDRS、とりわけChorea並びにDystoniaを改善する可能性が示唆された。