著者
浅井 直樹 鈴木 智高 菅原 憲一
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.793-800, 2019 (Released:2019-12-21)
参考文献数
19

〔目的〕難度の異なる同種の運動課題を反復練習した前後におけるH反射の変化と運動学習の程度を検討した.〔対象と方法〕健常成人21例を運動課題に用いる不安定板の底部の形状によって高難度群と低難度群に分け,それぞれ不安定板上での平衡運動課題の練習を行った.練習前後に運動課題遂行時の目標との誤差とヒラメ筋H反射,表面筋電図を計測した.〔結果〕H反射と前脛骨筋の活動が高難度群で練習後に有意に低下した.運動課題の誤差は低難度群で練習後に有意に減少した.〔結語〕運動課題の難度が高い場合では運動学習に伴って脊髄運動神経の興奮性や筋活動が変動し,難度が低い場合これらは変動しないが運動学習の効果はより高い可能性が示唆された.
著者
浅井 直樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.E-69_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに・目的】脊髄損傷(以下SCI)の歩行再建は、再生医療の実現を控えて注目を浴びている。再生医療関連の研究では、術後のリハビリテーション(以下リハ)の有無やその性質によって麻痺の改善にも差が出ると報告している。このような背景からリハの内容にも関心が集まっているが、完全型SCIに対する歩行再建のリハについての実践報告は少ない。今回、Th12の完全型SCI一症例に対し、歩行再建を目的にロボットを併用した集中的トレーニングを行った。【症例紹介】20代女性、外傷によりSCIを受傷し、残存高位はTh12であった。歩行再建に向けた介入を開始した受傷後5か月時点でAmerican Spinal Injury Association(以下ASIA)の下肢運動スコアは右1/左1ポイントで、両側股関節屈曲筋の筋収縮を触れるのみでその他の下肢筋に随意収縮はみられなかった。ASIA感覚スコアは触痛覚ともに右38/左38ポイントで、S4, 5領域の感覚運動機能は脱失し、ASIA Impairment Scale(以下AIS)ではAの完全麻痺であった。車いすベースでのADLは自立し、歩行は長下肢装具での平行棒内歩行が監視レベルで可能であった。【経過】受傷後約2週でリハ目的に転入院し、一般的な対麻痺者に対する理学療法(ROM、筋力強化、起居動作、ADL、車椅子操作練習等)を行った。ADLがおおむね自立した受傷後5か月時点から外骨格型ロボット装具(ReWalk、ReWalk Robotics)を用いた立位歩行練習を開始した。その後自宅退院し、外来にてReWalkを用いた歩行練習と、自宅で長下肢装具を用いた立位練習を行った。受傷後7か月ころに随意的な膝伸展運動が両側に発現し、経過とともに随意運動の拡大を認めた。受傷後12か月ころに集中的なリハを目的に再入院し、再入院後はReWalkを用いた歩行練習のほか、短下肢装具での立位歩行練習、ペダリング機器や低周波機器、水治療法を併用したリハを実施した。受傷後15か月ころの退院時のASIA下肢運動スコアは右2/左2ポイントで、膝伸展筋の収縮を触れ、キーマッスル以外にも大腿筋膜張筋や中殿筋、内転筋群にも随意収縮を触知できた。感覚機能およびS4,5領域の運動感覚機能には変化がなく、AISはAであった。歩行能力は、短下肢装具とピックアップ歩行器での手添え介助歩行が可能となった。【考察】完全型SCIの麻痺の予後は一般的に不良だが、本症例は先行研究に照らしても顕著に改善した。脊髄の神経可塑性は、練習する運動課題の種類や質とその反復に強く依存すると言われている。本症例においては、リハの内容や質的な面として、歩行様の運動課題や、ロボットを利用した正常歩行に近い歩行練習が有効であったと考えられた。また、量的側面としては、多様な課題を高頻度に実施し、ロボットの定常的な運動を繰り返すことができる機械的な特性が有利に働いたと推察された。【倫理的配慮,説明と同意】本症例に対する介入は神奈川リハビリテーション病院倫理委員会の承認のもと実施したものである(承認番号krh-2014-2)。本報告に際しては症例に対して書面と口頭で説明を行い、同意を得た。