著者
岡村 道雄
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.319-328, 1997-12-31 (Released:2009-08-21)
参考文献数
37
被引用文献数
6 7

人類活動と自然環境の因果関係を研究するためには,地域的に両者の実像と変遷を捉えなければならない.特に,人類活動に大きな影響を与える因子に,気候と動植物相が考えられるが,それらの日本列島内での時空的な実態はほとんど明らかにされていない.ここでは,両者の関連が考察でき,自然環境と道具の組み合わせに地域性が認められる九州南部,東海東部から関東,中部・信濃川中流域,北海道を中心に分析してみた.晩氷期に南九州・四国南岸から南関東の太平洋沿岸部に,クリ・クルミ・ドングリ類が実る中間温帯林,豊かな縄文的な森が形成されはじめ,植物性食料の採取・加工に磨石・石皿・土器など,森に増殖しはじめたシカ・イノシシなどの狩猟に落とし穴や石鏃が用いられはじめた.一方,列島の北半は,完新世になっても旧石器時代的な寒冷気候が継続し,北アジアと同一歩調で細石刃が発達した.本州では少量の土器が用いられるが,木の葉形の石槍,打製石斧,有舌尖頭器を用いた狩猟を中心とした生業が続き,本州中部を境に北と南の縄文文化が成立した.
著者
佐藤 洋一郎 篠原 和大 浅井 辰夫 中村 郁郎 岡村 道雄 工楽 善通
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

日本各地の遺跡からは多量のイネ種子が出土しているが,その大半は黒化し炭化米と呼ばれている.故佐藤敏也氏が1960年代から1985年ころに収集した炭化米(これを佐藤コレクションという)を中心としてそれらの情報、とくに遺伝情報を1次資料化し,将来のデータベース化に備えようというものである.なお佐藤コレクションに含まれるサンプル総数は100万粒を超えるほど膨大なものであることがわかった.今年度はその最終年度であり、主にDNA分析に力を入れてまとめを行った.DNA分析を行った遺跡は全部で17遺跡(北海道から沖縄までの32都道府県にまたがる)で、そこから出土した計207粒の炭化米を研究に用いた.これら炭化米の多くは熱を受けて炭化したのではないことが外見上から確かめられた.DNA抽出はSSD法ないしはアルカリ法で行い,増幅はPCR法によった.その結果,古代の日本列島のイネのほとんどすべてがジャポニカであったこと,また約40%ほどの確率で熱帯ジャポニカの系統が含まれていることなどが明らかになった.熱帯ジャポニカは、場所、時期を問わず出土しており,当時の日本列島にひろく分布していたものと思われる.あわせて福岡市雀居遺跡から出土した炭化米はその220粒程度を対象に分析を行った.このうち12粒から,ジャポニカであることを示すDNA断片が増幅された.ただしそれらが熱帯ジャポニカであるか温帯ジャポニカであるかの判定はできなかった.
著者
米倉 伸之 辻 誠一郎 岡村 道雄
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.283-286, 1997-12-01
参考文献数
4
被引用文献数
1

The aims of the symposium &ldquo;Termination of Last Glaciation and the Formation and Development of Jomon culture in Japan&rdquo; are to clarify (1) what changes have occurred in natural environments in and around the Japanese Islands from the Last Glacial Maximum to the Postglacial periods, (2) what changes have occurred from Late Paleolithic culture to Jomon culture in terms of the relationship between natural and cultural environments, in paticular changes in coastal and land ecosystems and ways of human life, and (3) how and when the Jomon culture was established in terms of natural environmental changes.<br>The symposium consisted of three different parts: (1) Last Glacial Maximum (the age of upper Paleolithic culture, 20-15ka), (2) a transition period from Late Glacial to Postglacial (the age of formation of Jomon culture, 15-10ka), and (3) Postglacial period (the age of the development of Jomon culture, after 10ka). The topics were presented by three speakers for each part from the viewpoints of geology, paleoecology, pedology, and archeology.<br>The topics of presentations in the symposium are the following: Upper Paleolithic culture in Japan and East Asia (Masao Ambiru); Spatial distribution of the vegetation around the Last Glacial Maximum in Japan (Mutsuhiko Minaki); Paleoenvironmental changes of the Japan Sea since the Last Glacial period (Ryuji Tada); A land ecosystem in the transition to the Jomon age (Sei-ichiro Tsuji); The formation of Jomon culture in the Southern and Northern parts of Japanese Islands (Michio Okamura); Soil formation and the environmental change (Kan-ichi Sakagami); Development of Jomon villages (Yasuhiro Okada); Forest vegetation and utilization of wood during the Jomon period in Japan (Mitsuo Suzuki and Shuichi Noshiro), and Jomon agriculture: retrieval of evidence (Masakazu Yoshizaki). The discussions in the symposium have focused on the relationship between the changes in natural environments and ways of human life, in particular the change of land ecosystems and the utilization of natural resources.<br>The state of the art in studies of the natural environmental changes from the termination of the Last Glacial to the Postglacial and their relations to the regional development from the upper paleolithic culture to the Jomon culture in Japan are reviewed from various viewpoints, and future tasks of research are presented.
著者
岡村 道雄
出版者
国学院大学出版部
雑誌
国学院雑誌 (ISSN:02882051)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.p16-43, 1988-01
著者
埴原 和郎 岡村 道雄
出版者
日本人類学会
雑誌
人類學雜誌 (ISSN:00035505)
巻号頁・発行日
vol.89, no.2, pp.137-143, 1981

この研究は,墓壙内とそれ以外の場所で発見された石鏃の特徴を統計学的に分析し,副葬された石鏃が特別に製作されたものかどうかを検討したものである。<br>分析のために使用した石鏃は,北海道上磯郡木古内町&bull;縄文時代晩期札苅(さつかり)遺跡より出土したもので,1つの墓壙より出土したもの57例,墓壙外より出土したもの62例である。<br>各石鏃について6種の計測を行ない,それらの平均値の差を検定したところ,全長および先端長以外では有意の差は認められなかった。このことから,墓壙内外の石鏃が同一母集団に属すること,ならびに墓壙外のものには,使用によって先端が破損したものや再加工されたものが含まれるために,全長ならびに先端長が短くなったことを示すものと考えられる。<br>次に各計測値の分散の差を検定したところ,墓壙内の分散は墓壙外の分散より有意に小さいことが明らかとなった。この結果は,墓壙に副葬された石壙が,何らかの基準に基づいて人為的に選択されたことを反映していると考えられる。<br>以上のことから,副葬された石壙は1)日常使用品のなかから未使用品,又は比較的新しいもので,しかも大きさならびに形態が比較的よく揃うように選択されたものか,2)副葬用として特別に製作あるいは形状がととのえられたものか,あるいは,3)その混合物から構成されていることが推測された。
著者
岡村 道雄
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.319-328, 1997-12-01
参考文献数
37
被引用文献数
1 7

人類活動と自然環境の因果関係を研究するためには,地域的に両者の実像と変遷を捉えなければならない.特に,人類活動に大きな影響を与える因子に,気候と動植物相が考えられるが,それらの日本列島内での時空的な実態はほとんど明らかにされていない.ここでは,両者の関連が考察でき,自然環境と道具の組み合わせに地域性が認められる九州南部,東海東部から関東,中部・信濃川中流域,北海道を中心に分析してみた.晩氷期に南九州・四国南岸から南関東の太平洋沿岸部に,クリ・クルミ・ドングリ類が実る中間温帯林,豊かな縄文的な森が形成されはじめ,植物性食料の採取・加工に磨石・石皿・土器など,森に増殖しはじめたシカ・イノシシなどの狩猟に落とし穴や石鏃が用いられはじめた.一方,列島の北半は,完新世になっても旧石器時代的な寒冷気候が継続し,北アジアと同一歩調で細石刃が発達した.本州では少量の土器が用いられるが,木の葉形の石槍,打製石斧,有舌尖頭器を用いた狩猟を中心とした生業が続き,本州中部を境に北と南の縄文文化が成立した.
著者
小池 裕子 西田 泰民 岡村 道雄 高杉 欣一 中野 益男
出版者
埼玉大学
雑誌
試験研究
巻号頁・発行日
1985

〈目的〉貝塚からは古代人の食事に関する直接的な情報を内包する糞石、あるいは土器、石器付着物が出土している。これらの遺物から残存している脂肪酸を非破壊的に抽出し、その脂肪酸組成を基に動植物を同定して、先史時代人の全般的な食糧組成を直接復原しようとするのが本研究の目的である。〈研究結果〉 61年度は、糞石等の材料のほか、旧石器遺跡から出土する焼石および縄文時代以降の土器付着物を分析対象に加えた。1 現生動植物のスタンダード作成:今年度は栽培植物を含め約60点を追加し、また文献による検索を進め、古代人の利用した動植物をほぼモウラした。2 糞石資料の分析:60年度に行った東北地方のほか、縄文後晩期の田柄貝塚、同大木囲貝塚、縄文後期の古作等の貝塚出土資料を加え、合計58点を分析した。ステロール分析を行ない、糞特有のコプロスタノールを検出した。脂肪酸組成、ステロール組成から推定すると、陸棲哺乳類のほか、水産動物や植物など多様な食糧組成が含まれることがわかった。3 焼石資料の分析:60年度の多摩ニュータウンの他、野川中州北遺跡において系統的なサンプリングを行ない、合計20点分析した。4 土器資料の分析:60年度の曽利・寿能遺跡のほか、縄文時代草創期の壬遺跡,早期の鶴川遺跡、前期の諏訪台遺跡、中期の曽利遺跡、後期の宮久保遺跡,晩期の亀ケ岡遺跡,古墳時代の式根島吹之江遺跡,北海道オホーツク期の北大構内遺跡,近世の東大構内遺跡の合計180点を分析した。5 それらの結果を、飽和脂肪酸/不飽和脂肪酸,高級脂肪酸/中級脂肪酸,コレステロール/植物ステロールの比を軸にした3次元座標上にプロットしてみると、それぞれの遺物の植物,陸上動物,水産動物の組成を知るのに有効であることがわかった。