著者
海妻 矩彦 高畑 義人
出版者
岩手大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

ダイズ種子タンパク質の栄養価向上のためには、タンパク質中の含硫アミノ酸含量を高めることが必要である。そのためにはダイズ種子貯蔵タンパク質の2つの主要成分のうち、7Sグロブリンの生成量を減少させればよく、7Sグロブリンのサブユニット(α',αおよびβ)の欠失をもたらす変異遺伝子を見出す必要がある。このうち、α'サブユニットの欠失遺伝子はダイズの既存品種の中に既に見出されているので、残る2つのサブユニットの欠失遺伝子をガンマ-線照射による突然変異誘発により見出すことを本研究の目的とした。品種ワセスズナリの種子にガンマ-線40KRを照射した後代の種子をSDS電気泳動法で調査したところ、M_4の種子からαおよびβの2つのサブユニットが同時に欠失した突然変異を選抜することに成功した。この変異遺伝子はホモ接合型になると、幼植物段階でクロロシスを起して致死すること、しかしながらヘテロ接合型では生存上異常は生じないので、この変異遺伝子の維持増殖は可能であること、ヘテロ接合型植物に着生する種子には正常:αおよびβサブユニット量半減:両サブユニットの欠失が3:4:1の比で分離していることが明らかにされた。これと同じ時期に品種ワセスズナリにガンマ-線40KRを照射した後代M_3種子の中に、11Sグロブリンの酸性サブユニットタンパク質の一部を成すグル-プIサブユニット(A_1,A_2,A_3)が欠失しているものが誘発されていることを見出した。この変異遺伝子は1遺伝子座の劣性遺伝子として働らき、正常:グル-プIサブユニット半減:同サブユニット欠失が1:2:1の比で分離を生じることが明らかにされた。この変異遺伝子はホモ接合型植物でも生育には何ら異常は示さなかった。
著者
塚田 義弘 喜多村 啓介 原田 久也 海妻 矩彦
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.390-400, 1986-12-01
被引用文献数
6

ダイズ種子貯蔵タンパク質には,β-コングリシニンとグリシニンの2つの主要成分が含まれ,その食品化学即および物理化学的性質が広く研究されている.しかし,他の豆類の貯蔵タンパク質に比べ,ダイズの貯蔵タンバク質サブユニットの遺伝様式や連鎖関係に関しては,あまり知られていない。 本研究は,この2主要貯蔵タンパク質サブユニット変異を探索し,見い出された変異の遺伝様式とそれらの遺伝子座間の連鎖関係を明らかにしようとした.ダイズ850品種・系統を,β-コングリシニンとグリシニンの変異を探索するために,それぞれSDS-ゲル電気泳動とアルカリ側尿素系電気泳動で分析Lた・その結果,β-コンクリシニンのαサブユニットに2つの変異が見い出された・すなわち,SDS-ゲル電気泳動で電気泳動移動度(以下,単に移動度)が従来のαサブユニットの移動度よりもわずかに遅いバンドを示すタイプ(α-slow-type)と,αサブユニット生産量が低下したタイプ(α-1ow-type)である.これらの変異は,単一座の共優性対立遺伝子によることが示され,従来のαサブユニットの生産を支配する遺伝子およびそれよりも移動度の遅いαサブユニットの生産を支配する遺伝子をそれぞれCgy2aとCgy2bの遺伝子記号で表わした.また,β-コングリシニンは3つの主要サブユニット(α,α'およびβ)から成るとされていたが,βサブユニットよりも移動度カミ連いもう一本の主要バンドを有する変異体が見い出され,この変異バンドをβ'サブユニットと命名した.このβ'サブユニットの存在は,単一慶性遺伝子(Cgy3)に支配され,この遺1公子の劣性ホモ(cgy3ccgy3)によりβ'サブユニットの欠失を生じることが示された.
著者
海妻 矩彦 平 宏和 平 春枝 福井 重郎
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.81-87, 1974-04-30
被引用文献数
2

大豆たんぱく質の含硫アミノ酸含量に関する品種間差異をしらべ,その遺伝的性質を明らかにする目的で,1968年と1969年に岩手大学農学部において栽培された55品種を材料とし,たんぱく質含量(マクロ・ケルダール法,N×6.25)および含硫アミノ酸含量の分析(マイクロバイオアツセイ法)を行なった。得られた主要な結果は次のとおりである。1)品種間にみられた変異の巾は,たんぱく質含量で49.1〜34.8%,メチオニン含量で0.96〜0.67g/16gN,シスチン含量で1.22〜0.62g/16gN,合計の含硫アミノ酸含量で2.15〜1.29g/16gNであり,変異係数は,それぞれ,6.2,7.2,14.2,10.0%であった。含硫アミノ酸含量の品種間差異の大きさは,たんぱく質含量のそれと同程度か,もしくは,それ以上の大きさとみられる。2)遺伝力は,たんぱく質含量,メチオニン含量,シスチン含量および合計の含硫アミノ酸含量に関し,それぞれ,58.8,55.1,66.8,66.6%であり,含硫アミノ酸含量の遺伝力は,たんぱく質含量のそれと同等もしくはそれ以上に高い値を示した。3)小袖振,極早生枝豆,極早生はやぶさ,3号早生大豆,Laredoは含硫アミノ酸含量が高く,交配母本として有用である。また,晩生黒大豆や平豆は含量が低く,育種学的研究の材料として興味深い。