著者
八幡 貴治 神田 弘太郎 益岡 啓子 井上 尊文 小堀 容史 細川 緑 海津 嘉蔵 大岩 功治 平山 篤志
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.470-476, 2015 (Released:2016-04-15)
参考文献数
15

症例は69歳, 維持透析患者の男性. 透析中や自転車走行中に胸部圧迫感が出現するようになり, 当院に紹介受診し, 急性冠症候群の疑いで同日入院した. しかし, 炎症反応上昇とBNPの上昇が顕著となり, なんらかの感染症による心不全を疑い治療を行った. 抗生剤を2剤併用して治療し, 感染源の検索を行ったが, 明らかな原因をつかめなかった. 第11病日に心エコー・胸部CTで心嚢液貯留を認め, 心膜炎を疑い非ステロイド系抗炎症薬の内服を追加したが改善はなかった. 第19病日には呼吸困難増悪・血圧の低下が出現し, 心エコーにて著明な心嚢液の貯留を認め, 心タンポナーデと診断した. 緊急心嚢穿刺・心嚢ドレーン留置術を施行し, 処置後は血圧も胸部症状も改善した. 心嚢液性状は血性で細胞診はClass Ⅱ, 細菌培養は陰性, アデノシンデミナーゼが高値であったため結核性心膜炎を強く疑った. 後日, 心嚢液で結核菌PCR陽性・抗酸菌培養でmycobacterium tuberculosisが検出され結核性心膜炎と確定診断した. 本症例では, 抗結核剤3剤 (リファンピシン, イソニアジド, エタンブトール) に併用して, 予後と再発予防を期待してプレドニゾロンを使用した. 稀な結核性心膜炎に心タンポナーデを併発し重症化した症例を経験し, 治療に際し初期よりステロイドを併用して良好な経過を得たので文献的考察を加えて報告する.
著者
海津 嘉蔵
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.83, no.10, pp.1758-1761, 1994-10-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
5

多くの重金属は強い腎毒性を有し,類似した徴候を示すが,代謝・排泄系で差異がでる.通常,近位尿細管障害が共通で,診断には尿中酵素と低分子蛋白の測定を行う.カドミウム中毒:慢性では,イタイイタイ病が代表である.中年閉経後の女性で,骨痛と尿細管障害を呈し,進行例では萎縮腎になる.鉛中毒:子供ではFanconi症候群がおこるが,成人では少ない.尿細管上皮細胞内に核封入体が認められる.水銀中毒:メチル水銀は水俣病を惹起する.神経毒性以外に尿細管障害が出現する.
著者
岡田 一義 今田 聰雄 海津 嘉蔵 川西 秀樹 菅原 剛太郎 鈴木 正司 石川 勲 佐中 孜 奈倉 勇爾 松本 紘一 高橋 進
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.1315-1326, 2003-08-28
被引用文献数
5 7

本邦では, 透析患者の終末期において, 血液透析 (HD) が安定して施行できている患者の自己決定を尊重し, HDを中止することについての生命倫理学的研究は殆どない. 今回, われわれは, 透析医 (552名) を対象として, 安定したHDを受けている悪性腫瘍終末期症例を提示し, いくつかのシナリオに対して, HDを中止するか, 継続するかの意識調査と, advance directives (AD), 尊厳死, 尊厳生についてどのように考えているかの意識調査を全国的規模で行った.<br>434名 (78.6%) から回答が得られたが, 有効回答は427名 (77.4%) であった. ADおよび尊厳死が法的に認められていない現状において, ADの有無で比較すると, (1) 家族がHD中止を申し出た場合, (2) 家族がHD継続を申し出た場合とも, ADがあるとHDを中止する回答は有意に増加した ((1) 48.0%→78.9%, (2) 0.2%→2.6%). さらに延命療法を中止しても法的責任は問われないと仮定すると, ADがあるとさらにHDを中止する回答は増加した ((1) 90.9%, (2) 11.9%). ADと尊厳死を必要であると回答した透析医はそれぞれ74.0%, 83.1%であったが, 法制化も必要と回答した透析医は56.4%, 63.7%に減少した. 尊厳死と尊厳生の比較では, 尊厳生を支持する透析医は, 尊厳死を支持する透析医よりも多かった (47.1%, 15.9%).<br>今回の結果は, 現状でも, 透析医および家族が患者の自己決定を尊重すると, ADによる尊厳死が行われる可能性があることを示唆し, 多くの透析医がADや尊厳死を必要と考えている. 一方, 尊厳生は人間にとって非常に大切なことであり, 尊厳死よりもこの言葉を支持する透析医が多かったと考える. すべての国民は個人として生きる権利を認められており, 本邦では, 終末期にも自分が考える尊厳ある生き方を貫くということから始め, 家族および社会が納得する範囲で, 先ず尊厳生によるADが自己決定のために重要であると認識させる努力をすべきである.
著者
瓜生 康平 海津 嘉蔵 阿部 理一郎 織田 進 千葉 省三 江藤 澄哉 鈴木 秀郎
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.4, pp.391-396, 1984-12-01

症例54歳の女性, 昭和54年2月腰痛で発症. 同年11月, 尿蛋白を指摘されて入院. Bence-Jones K type多発性骨髄腫に伴う腎不全と診断された. 骨髄腫に対してcyclophos phamide, Vincristin, prednisoloneの併用療法(Intermittent COP療法)を施行し, 腎不全に対して, 昭和54年12月より腹膜透析を開始した. これ以降肺炎で死亡するまでの26か月間, 腹膜透析による腎不全の治療を十分に継続しえた. 多発性骨髄腫に伴う腎不全は予後不良である. 本症に対する腹膜透析は, 原病による易感染性や近年の血液透析の進歩により施行されることは少なく, 長期生存例の報告はほとんどない. 本症例の長期生存は, 腹膜透析による腎不全のコントロールおよび骨髄腫に対する適切な化学療法によると考えられる. 骨髄腫は高齢者に多く, 血液透析が困難な場合があるが, 腹膜透析は高齢者でも施行しやすく, 今後積極的に応用しうると考えられる.(1984年9月14日 受付)
著者
森田 恵美子 海津 嘉蔵 瓜生 康平 江藤 澄哉
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.197-205, 1990-06-01

糖尿病における尿細管障害の有無を臨床的に検討するために, 外来患者102例(A群)の空腹時来院時尿および入院患者23例(B群)の24時間蓄尿の尿中酵素(NAG, ALP, LAP, γ-GTP)を測定し, 各種検査項目との関連性を検討した. その結果, 1)A群の尿中酵素では, NAG高値例が42.2%と最も多かった. 重回帰分析の結果, NAGはHbAlc, 年齢, 尿蛋白と, 他の3酵素は尿中β2-microglobulinとの関連が認められた. 2)B群では, 87%がNAG高値であるのに比し, 他の3酵素の上昇例は少なく, ほとんどが腎症合併例であった. また, ALP, LAP, γ-GTPには互いに相関が認められたが, NAGと他の3酵素間には相関がなかった. 糖尿病におけるNAG上昇は, その局在性より糸球体上皮細胞と近位尿細管上皮細胞のlysosomal dysfunctionを反映し, ALP, LAP, γ-GTP上昇は腎症による尿細管障害, 即ちbrushborderdamageを反映していると推察された.(1990年2月15日 受付, 1990年3月9日 受理)