- 著者
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清家 篤
山田 篤裕
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.41, no.4, pp.115-144, 1998-10-25
高齢者の引退決定過程に与える,年金,退職管理制度,就業経験,個人属性などの影響にかんする計量分析を行った。分析方法は,就業状態への生存率を被説明変数とするハザード分析である。データは,個人やその個人のかつて勤めていた企業の属性などについての情報などに加えて,個人の引退プロセスや職業経験などにかんする回顧的情報を含むマイクロデータ(財団法人高年齢者雇用開発協会『定年到達者の仕事と生活に関するアンケート調査(1992年)』)を使った。ハザード分析では,カプラン・マイヤー法によるノンパラメトリック分析と,加速モデルによるパラメトリック分析の両方を行った。主な発見事実は次のとおりである。(1)年金の受給可能性は,公的年金,企業年金,私的年金のいずれも引退時期を早める効果を持っている。しかし,その効果の大きさは各々相違している。(2)管理職・専門職等の経験は引退時期を遅らせる効果を持っている。ただしこれは学歴などをコントロールすると必ずしも有意には計測されない。定年前の退職は引退時期を早める効果を持っている。その他の退職管理をめぐる雇用慣行については必ずしも有意な効果は確認できない。(3)現在の良好な健康状態および高度な教育が,引退時期を有意に遅らせる効果をもつ一方で,就業形態のフレキシビリティーのなさは引退時期を有意に早める効果をもっている。(4)いったん会社を退職した後の休養期間は,引退の時期を遅らせる効果を持っている。これは休養による人的資本・健康資本に対する再投資効果や雇用保険受給のための自発的休養効果ではないかと推測されるが,確認には更なる分析を必要とする。