著者
清末 愛砂
出版者
国際ボランティア学会
雑誌
ボランティア学研究 (ISSN:13459511)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.27-46, 2006-02-28

1970年代の終わりから1980年代にかけて、アジアにおける移住労働者の主要な受入国となった日本では、女性の移住労働者をターゲットとした性産業への人身売買の被害が続出してきたものの、日本政府は2004年に取り組みを開始するまで、何ら対策をとってこなかった。むしろ人身売買の被害者は、「不法滞在者」、「不法就労者」として強制送還の対象とされてきたために、被害者の保護はおろか、真相究明が困難な状態が続いてきた。国連は世界的に盛り上がる女性運動影響も受け、1960年代から1990年代にかけて、女性の人権、女性に対する暴力という視点から、主には女性の移住労働者に対して行われている深刻な人身売買の問題に取り組んできた。そのいっぽう、1990年代に入ると、人身売買が組織犯罪対策、「反テロ」対策というあらたな視点をもって位置づけられるようにもなった。現在では、女性に対する暴力という視点よりも、むしろ組織犯罪対策・「反テロ」対策の視点に立った取り組みの方が強化されつつある。2004年に着手された日本政府による人身売買政策もまた、同様な視点から行われている。国際組織犯罪禁止条約への批准を前提に行われていている一連の取り組みは、加害者処罰に重点がおかれ、被害者保護の視点は非常に弱い。5年後の見直しのときには、女性に対する暴力という視点から、被害者保護法を制定する必要がある。
著者
清末 愛砂 梅澤 彩 松村 歌子 李 妍淑
出版者
室蘭工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-10-21

本研究を通じ、日本との比較対象としたニュージーランド、シンガポール、台湾においては、家族司法政策が民間に責務の一端を担わせる方向に動いていることが明らかとなった。民営化でコスト削減を図りながらも、家族紛争解決関連の支援活動を実施してきた民間団体に依拠することで、子の取決めを中心とする家族紛争問題に瀕している市民が、各種の支援にアクセスしやすい体制がとられてきた。一方、当該研究を通して、民営化が必ずしも当事者支援に結びつかないことも明らかとなった。今後の家族司法政策においては、民間団体の活動に依拠しすぎず、十分な予算を確保した上で適正な形での公的機関の関与が求められているといえよう。
著者
清末 愛砂
出版者
島根大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究を進めるために必要となるデータや資料を収集するために、2008年度にイギリスでフィールドワークを2回実施した。本フィールドワークにおいては、大英図書館やLSE(London School of Economics)の図書館における文献調査のほか、市民的自由の問題に取り組んできた人権団体や複数のムスリム団体等を訪問し、イギリス社会におけるムスリム住民(難民、移民を含む)に対する人権侵害、およびイギリス政府の立法情報に関するインタビュー調査を行った。この結果、イギリスの対テロ法によって引き起こされた様々な人権侵害がムスリム住民に集中していること、また、統計的にムスリム住人が白人に比べると警察による職務質問を受ける割合がはるかに高いこと、9.11、および7.7のロンドンにおける同時爆破事件以降のイギリス社会でイスラーム・フォビアが著しく台頭していること、イスラーム・フォビアにおけるジェンダー差別の問題等が明らかとなった。2009年度は、これらのフィールドワークによって得られたデータ、および日本国内での文献調査等から得られたデータをもとに研究課題に関する分析を行った。その分析結果を日本平和学会2009年度春季研究大会(2009年6月13日から14日)の自由論題部門で「9.11以降のイギリスの対テロ法とイスラーム・フォビアの台頭-宗教差別・レイシズム・市民的自由の観点から-」と題して報告することができた。また、討論者や参加者から受けた欧州人権条約に関する示唆深いコメントやその他の質問をその後の論文化の作業にいかすことができた。2009年度末には、同学会の大会における報告をもとにしてまとめた論文「9.11&7.7以降の英国の対テロ法の変容とイスラーム・フォビア-宗教差別とレイシズムの相乗効果(上)」(『国際公共政策研究』(大阪大学大学院国際公共政策研究科、第14巻第2号、2010年3月、17-28頁)を発行することができた。