著者
清水 健太郎 中島 和江 高橋 りょう子 小倉 裕司 和佐 勝史 大西 光雄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

【視察】低栄養の病態解析のためトレーサーや間接熱量計などを用いた先進的な臨床研究を行っているUniversity of Texas Medical Branch (UTMB)に訪問・視察した。UTMBでは、臨床研究のための独自の病棟をもっており、医師・看護師などの医療スタッフなどの人的配置のみならず、食事を作るキッチンはもとより、間接熱量計、筋生検、動静脈採血などの手技ができる設備面でも、臨床研究の登録から実施までの手続きも整った体制になっている。研究テーマとして、高齢化と栄養に焦点をあてており、同化を促すための遺伝子発現や治療法の開発に非常に熱心に取り組みを行っていた。このような実践的、臨床的な栄養の研究体制は日本では見当たらず、隔世の感があった。視察だけでなく、日本でのアミノ酸、脂肪、代謝におけるテーマについて日本側からも講演、質疑応答を行い情報交換を行った。【研究】昨年に引き続き後向きの低栄養患者の解析のため、当院の栄養管理計画書を調査した。データの抽出可能であった約7000人の患者のうち、低栄養状態から心停止にいたる可能性があるリフィーディング症候群の基準のひとつであるBMI 16kg/m^2以下の患者は、約3%に認められた。このデータを元に、入院患者全体に対して新たな低栄養への予防対策を講ずることが可能である。【学会】第27回日本静脈経腸栄養学会では、ICUの栄養管理についてのシンポジウム「リフィーディング症候群の早期発見・早期対応~心合併症を伴う症例から」と題して講演及び意見交換を行った。以上の訪問・視察と現在の当院での状況を基に、病院全体のスクリーニング体制や多職種によるかかわりのさらなる整備を検討している。
著者
清水 健太郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.28-43, 2006-04-25
被引用文献数
8

DNAの遺伝情報を生態学研究に活用する分野として、分子生態学が発展してきた。しかしながら、これまで使われたDNA情報としては、親子判定や系統解析のためのマーカーとしての利用が主であり、遺伝子機能の解明は焦点になっていなかった。ゲノム学の発展により、これまで生態学や進化学の中心命題の1つであった適応進化を、遺伝子機能の視点で研究しようという分野が形成されつつある。これを進化生態機能ゲノム学Evolutionary and ecological functional genomics、または短縮して進化ゲノム学Evolutionary genomicsと呼ぶ。進化ゲノム学は、生態学的表現型を司る遺伝子を単離し、DNA配列の個体間の変異を解析することにより、その遺伝子に働いた自然選択を研究する。これにより、野外で研究を行う生態学・進化学と、実験室の分子遺伝学・生化学を統合して、総合的な視点で生物の適応が調べられるようになった。本稿では、モデル植物シロイヌナズナArabidopsis thalianaの自殖性の適応進化、開花時期の地理的クライン、病原抵抗性と適応度のトレードオフなどの例を中心に、進化ゲノム学の発展と展望について述べる。