著者
林 哲也 酒井 智彦 塩崎 忠彦 廣瀬 智也 村井 勝 大浜 誠一郎 上田 宜克 越智 聖一 大西 光雄 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.527-531, 2019-06-30 (Released:2019-06-30)
参考文献数
9

救急活動における傷病者の観察では,経皮的血中酸素飽和度(pulse oximetric saturation,以下SpO2)が測定不能な場合がある。救急現場における脳内局所酸素飽和度(regional saturation of oxygen,以下脳内rSO2)の有用性の検討を開始したところ,状態の悪化がとらえられたと考えられる1 例を経験したので報告する。症例は40代女性。救急隊接触時,意識レベルJapan Coma Scale(JCS)-3,心拍数160回/ 分,SpO2は測定不能であった。 しかし,脳内rSO2は64%と低値を示し,病院到着時までに意識レベルがJCS-10に低下し,脳内rSO2も病院到着までに59%へ低下するのが確認できた。救急現場においてSpO2による傷病者のヘモグロビンの酸素飽和度を評価できない場合,脳組織のヘモグロビンの酸素飽和度を評価することは有用であると考えられた。
著者
廣瀬 智也 清水 健太郎 小倉 裕司 山野 修平 大西 光雄 鍬方 安行 嶋津 岳士
出版者
日本外科代謝栄養学会
雑誌
外科と代謝・栄養 (ISSN:03895564)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.53-61, 2013 (Released:2013-06-07)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

【はじめに】慢性肝不全に対しては分枝鎖アミノ酸(BCAA)などのアミノ酸が通常使用されるが,急性肝不全症例にその使用は推奨されていない.一方,急性肝不全時のアミノ酸値の変化を詳細に検討した報告は少ない.【目的】急性肝不全時の血中アミノ酸値を検討すること.【対象と方法】2004 年から2007 年に当センターに入院した急性肝不全症例において,血中アミノ酸値と臨床経過を後ろ向きに解析した.【結果】対象は8 例で,全例劇症肝炎の定義を満たしていた.年齢は中央値38.0 歳(IQR34.5-40.8),性別は男5 人,女3 人.入院時の血中総アミノ酸量は中央値10305.0 nmol/ml と極めて高値であった.血漿交換,透析などの治療過程において総アミノ酸値は低下し,BCAA 値は正常もしくは低値を示す症例が見られた.【結語】劇症肝炎時は,血中アミノ酸値は全体に高値をとり,治療過程において低下する.アミノ酸の投与時期や投与方法に関しては今後の検討課題である.
著者
米満 弘一郎 白 鴻成 前野 良人 大西 光雄 西野 正人 木下 順弘 定光 大海
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.7, pp.440-444, 2008-07-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
11

発症第 3 病日に劇症肝不全を合併したが,保存的加療にて軽快した熱中症III度症候群を経験した。症例は39歳の男性。マラソン中に意識消失した。Japan coma scale(JCS)200,腋窩温40.9°C,ショック状態だった。前医入院後,意識・全身状態は改善したが,第 3 病日に肝酵素,CPKの著明な上昇及びDICを認め当院転院となった。第 4 病日に肝性昏睡II度,PT活性20%,HPT 20%,AKBR 0.69,AST 3,330 IU/l,ALT 5,880 IU/l,NH3 155μg/dlとなり劇症肝不全と診断し,血漿交換及び持続血液濾過透析を行った。肝障害は速やかに改善し第33病日,独歩転院となった。熱中症III度症候群に合併する重症肝障害は,ショック,DICを契機に第 3 病日前後に顕在化すると考えられる。適時的な血液浄化などで保存的に軽快する例が多いが,早期より肝障害を想定した慎重な輸液管理,集中管理が重要である。
著者
廣瀬 智也 小倉 裕司 竹川 良介 松本 寿健 大西 光雄 鍬方 安行 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.11, pp.933-940, 2013-11-15 (Released:2014-01-07)
参考文献数
23

【背景】自転車事故は小児期外傷の要因であるが,小児の自転車ハンドルによる直接外力の危険性は一般的に知られていない。【目的】小児自転車ハンドル外傷の特徴を明らかにすること。【方法と対象】2000年1月1日から2011年12月31日に当センターに来院した自転車関連外傷(15歳以下)を検討し,ハンドル先端により受傷した群(ハンドル外傷群)とそれ以外の自転車乗車中事故例(非ハンドル外傷群)に分けて比較検討した。【結果】ハンドル外傷群9例,非ハンドル外傷群46例。ハンドル外傷群は男児7例,女児2例,平均年齢8.6±3.4歳,平均ISS 8.8±5.3,ICU滞在日数7.4±4.6日,生命予後は全例良好であった。受傷部位は頸部1例(気管損傷:1例),胸部1例(胸部打撲のみ:1例),腹部7例(肝損傷:3例,膵損傷:1例,後腹膜出血:1例,腎損傷:1例,膀胱・腹壁損傷:1例)であった。治療は緊急手術治療1例,待機手術治療1例,緊急TAE1例,保存的治療6例であった。ハンドル外傷群は,非ハンドル外傷群と比べると年齢,性別,ISS,ICU滞在日数,転帰に有意差はなかった。腹部AISスコアはハンドル外傷群で有意に高く,頭部AISスコアは非ハンドル外傷群で有意に高かった。搬送経緯では,現場からの直接救急搬送は非ハンドル外傷群で,転院搬送はハンドル外傷群で有意に多かった。【考察】自転車ハンドル外傷は外力がハンドルの先端に集中するため,外見以上に重篤な深在性内臓損傷を伴うことが多いが,受傷機転などから過小評価されるケースがしばしばある。自転車ハンドル外傷の予防としては,自転車ハンドル先端の形状を工夫する,腹部への防護服を装着するなどが挙げられる。【結語】小児自転車ハンドル外傷は深部臓器の損傷を伴いやすく,初療における慎重な診断が求められる。
著者
中堀 泰賢 廣瀬 智也 塩崎 忠彦 小川 新史 大西 光雄 藤見 聡 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.774-780, 2013-09-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20
被引用文献数
2 6

【背景】rSO2(regional saturation of oxygen)とは,動脈・静脈・毛細血管を含む酸素飽和度のことで,「局所混合血酸素飽和度」もしくは「組織酸素飽和度」とも呼ばれる。この値を測定することで,局所の酸素需給のバランスの変化をとらえることができるとされている。心肺停止患者の脳保護の重要性は強調されているが,蘇生処置中の脳の酸素化を検討した研究はない。【目的】病院外心肺停止患者の蘇生処置中の脳内酸素飽和度(rSO2)の継時的変化を明らかにすること。【方法と対象】2008年3月から2010年3月まで我々の施設に搬送された病院外心肺停止患者で蘇生処置中に脳内rSO2値を測定した患者を対象とし,自己心拍の再開の有無別,PCPS施行時のrSO2値を後ろ向きに解析した。また健常人15人から正常範囲を決定した。【結果】Room air条件下でのrSO2値の正常範囲は71.2±3.9%であった。自己心拍再開を認めない例は25例(71.0±15.9歳),自己心拍再開例は13例(72.1±9.6歳),PCPS施行症例は5例(54.4±15.8 歳)であった。自己心拍再開を認めない症例は胸骨圧迫を施行してもrSO2値の上昇は認めなかった。一方,自己心拍再開例では再開により著明に上昇し,自己心拍再開時はrSO2値43.2±14.1%であったが,10分後55.7±12.3%,15分後59.7±8.5%と有意に上昇した(それぞれp<0.05,p<0.01)。PCPS施行例において,開始時rSO2値48.4±8.9%であったが,施行5分後63.0±8.8%,10分後66.2±5.7%,15分後68.1±4.6%と有意に上昇した(ともにp<0.0001)。【結語】脳内rSO2値は胸骨圧迫のみでは上昇せず,自己心拍再開とともに上昇する。PCPS導入により速やかに脳内rSO2値は上昇する。
著者
清水 健太郎 中島 和江 高橋 りょう子 小倉 裕司 和佐 勝史 大西 光雄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

【視察】低栄養の病態解析のためトレーサーや間接熱量計などを用いた先進的な臨床研究を行っているUniversity of Texas Medical Branch (UTMB)に訪問・視察した。UTMBでは、臨床研究のための独自の病棟をもっており、医師・看護師などの医療スタッフなどの人的配置のみならず、食事を作るキッチンはもとより、間接熱量計、筋生検、動静脈採血などの手技ができる設備面でも、臨床研究の登録から実施までの手続きも整った体制になっている。研究テーマとして、高齢化と栄養に焦点をあてており、同化を促すための遺伝子発現や治療法の開発に非常に熱心に取り組みを行っていた。このような実践的、臨床的な栄養の研究体制は日本では見当たらず、隔世の感があった。視察だけでなく、日本でのアミノ酸、脂肪、代謝におけるテーマについて日本側からも講演、質疑応答を行い情報交換を行った。【研究】昨年に引き続き後向きの低栄養患者の解析のため、当院の栄養管理計画書を調査した。データの抽出可能であった約7000人の患者のうち、低栄養状態から心停止にいたる可能性があるリフィーディング症候群の基準のひとつであるBMI 16kg/m^2以下の患者は、約3%に認められた。このデータを元に、入院患者全体に対して新たな低栄養への予防対策を講ずることが可能である。【学会】第27回日本静脈経腸栄養学会では、ICUの栄養管理についてのシンポジウム「リフィーディング症候群の早期発見・早期対応~心合併症を伴う症例から」と題して講演及び意見交換を行った。以上の訪問・視察と現在の当院での状況を基に、病院全体のスクリーニング体制や多職種によるかかわりのさらなる整備を検討している。