著者
清水 清美 長沖 暁子 日下 和代 柘植 あづみ
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本年度は、昨年度からの調査を継続(対象者35名へ拡大)した。また、成果発表として、第23回日本受精着床学会(ラウンドテーブル)、第16回日本発達心理学会(シンポジウム)、第3回不妊看護学会(一般演題)として提示、医療者、研究者、一般市民やから評価を得た。不妊治療を実施する医師からは、「日本のAIDの方向づけがない。また、AID実施後にカップルが遭遇する問題や課題が分からない。また分かったとしても臨床の現場ではフォローする時間と余裕がない。このような情報提供やカウンセリングを実施する団体、組織があるなら情報提供することは可能である」などの意見があった。また、看護師からは、「AIDを選択するカップルへどう対応したらよいか分からなかった。対象の特性が理解できた。」「子どもへの告知の問題提示をする必要は感じるが、担当医師はそのように考えていない。どのように折り合いをつけたらよいか難しい」等の意見があった。社会福祉士からは、不妊治療を受ける親と生れた子どもの利益が一致しない現状に対し「AIDは社会的な虐待」という子どもの立場に立った意見があった。また、養子縁組を迎えるカップルからは、「自分たちは親の資質を問われるのに、不妊治療により血のつながらない親子関係をつくるカップルが問われないのはおかしい」という意見があった。今後もAID情報を一般の方にも広め、不妊治療を受けるカップルと生れてくる子ども、双方の利益を考えた我が国の治療体制の有り方の実現化に向け、さまざまな立場から討論される必要があると考えられた。また、AIDが実施されているにもかかわらず、医療者自体がその後のカップルや家族の情報を理解していない現状があり、医療者への情報提供の必要性も考えられた。3年間の調査より、AIDを受けるカップルへの情報提供のツールとして、容易に情報を得る手段として小冊子の作成の必要性が考えられた。そこで、A6サイズの小冊子「AIDについて(仮題)」を現在作成している。作成後には関連する不妊治療施設・不妊相談施設に配布予定である。
著者
仙波 由加里 清水 清美 久慈 直昭
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.105-112, 2017 (Released:2018-08-01)
参考文献数
33

初のAID(提供精子を用いた人工授精) が実施されて70年近く経つ現在、日本でも遺伝子検査が普及し、民間人が手ごろな価格でDNA鑑定を受けられるようになってきた。したがって、親がAIDの事実を隠していても、子どもが親との遺伝的な関係を疑えば検査会社を通して親子の血縁関係の事実を確認でき、ドナーを探すことも可能となった。すなわちドナーの匿名性を保障できない時代を迎えている。そこで本稿では、このままドナーの匿名性を継続する場合に予想される問題をドナーのプライバシーの侵害と親子関係に焦点を当て検討した。日本では、ドナーの減少等を懸念して、今なお出生者の「出自を知る権利」を保留にし、ドナーは匿名とされている。しかし遺伝子検査の時代に入った現在、それは将来起りうる問題を軽視しているに他ならず、正義原則の観点からも問題である。また今後も、匿名性が完全に保障されないことを説明しないままドナーに精子提供してもらった場合、ドナーに自分の精子での出生者が将来接触をもとめてくるのではないかと不安を抱かせることにもなる。すなわちこれはドナーに対する危害とも言える。従って、まず提供配偶子を使う生殖補助医療で形成される親子関係について法で規定する必要があり、その上でAID出生者の「出自を知る権利」を認め、ドナーの匿名性を廃止する必要がある。